十話 ベッド、ベッドに……早く眠りたいです!体は限界です!!
取り敢えず……今日のところは寝床が欲しいです。
ぎゃあぎゃあとアーロンと言い合っていた私はさすがに疲れてラインハルトが淹れてくれた紅茶を口にしつつ溜め息を吐いていた。
これからどうしよう……頭のなかをぐるぐる回っているのはそのことばかり。もちろん超ドS様も探しに行きたいけれど、ね。現実は結構厳しいのかもしれない(ここは異世界だけれど)。
「「寝床?」」
「さすがに今日はいろいろあったので休みたいんですが……」
うん、そうね。
いろいろと移動もして体も疲れを感じている。お風呂に入ったことでドッと一日の疲れが吹っ飛ぶかと思ったが、むしろその逆っぽいわ。一日の疲れをヒシヒシと感じて体が重いったらありゃしないわよ。ここ(ソファー)で寝たらそれはそれは寝心地は良さそうだけれど体には悪そうよね。あ、そもそもここはアーロンの部屋だったわ。
「だったら私の寝所で……」
「それだけは却下で!」
また、アーロンとの言い合いがはじまりそうだわ。
アーロンはノリが良いのか私が何か言うとすぐに反応してくれて楽しい人間だとは思うけれど、超ドMの私の好みではないのよ……はぁー……。
「部屋ならいくらでも余っているだろう。ラウルに支度させれば良い」
あー、なんか忙しそうにしていたけれどまたラウルに頼っちゃうことになるのかしら。でも、体はクタクタなのよね……。
「では、ラウルを呼びましょうか」
アーロンがわざわざラウルを呼びに行ってくれたわ。た、助かるー!非常に助かるのだけれど、頭が……悲鳴をあげている。すぐに寝ろ!寝ろ!!って私のなかにいる悪魔が(もしくは天使かしら?)叫んでくるわ!部屋まで耐えられるかしら?
「……おい、平気か?」
こんなときに優しい言葉を向けないでよ。こういうときは『寝るな、グズめ』とかって罵ってくれないと優しさに甘えて眠気に負けそうなのよ!
「だ、大丈夫……よ。だいたいこんなところで寝られないじゃない、の……」
「そ、そうか……」
それにしてもアーロンのヤツ、おっっそい!早くしなさいよ!まったく!こういうとき女性を待たせたらいけないのよ!!眠気に負けまいとして私はずっとぶつぶつと『アーロン、アーロン……』と呪いの言葉を吐くかのように呟いていた。
「お待たせしました。残念ながら私の寝所で一緒に寝ることはできませんが、私の寝所がある隣の部屋に支度を整えてもらいましたよ」
「隣の部屋?」
「あ、ありがとうございますー……では、そちらへ……案内をお願い、しますー……」
眠い、体が重い、疲れた、眠い……と同じ苦しみを味わい続けている私は限界すれすれで一刻も早くベッドに!と重い足で立ち上がった。が、不意に体が浮く……浮いた!?
「運んでやる」
またもやラインハルトにお姫様抱っこをされてしまった。もう抵抗する言葉もまともに出てこないぐらいにへとへとな私は身を預けることしかできなかった。
「おや。私が運んであげようと思っていたのですが、ラインハルトに先を越されてしまいましたか」
残念。と言いながらまったく残念そうに聞こえないアーロンの声は無視無視。
「殿下。本当に隣の部屋、なんだな?」
「もちろん。ラウルもそう言っていましたからね」
「……分かった」
静かに歩くラインハルトは大きな揺れを感じることなく、このまま眠ってしまいそうになる。……も、もう少しよ、もう少し!
『ここか?』と着いたらしいが一瞬ラインハルトは訝しむように眉をひそめてから器用にドアを開けると(私を抱えながらドアを開けるなんて凄いわね)ベッドにそっと私を下してくれた。
はぁ~……このベッドの感触、シーツの肌触り……よく眠れそうだわー……。
「レン。……何かあれば大声で叫べ。そうすれば誰かしら対応してくれるだろう」
「は、はぁーい……叫ぶん、ですね……わかり、ましたー……」
うつらうつらしながら『あ、着替え……』と思ったけれど着替える余力なんて無いわー。ごめんなさい、今日はこのまま寝させてください……。
「ラインハルトー……ありがと、ございま……す……スヤァー……」
「……寝た、のか?まだ俺がここにいるのに、無防備な……」
つくづく『変な女』だと思う。平気でアーロンのヤツに手をあげているし、王子だということを知ったからといってもまったく容赦がない。それにアーロンとこれほどまでに言い合いができる女など今までにいただろうか?いや、いない。この女がおかしいだけなのだろう。
だが、確かに今日はいろいろなことがあった。
夜盗の住処から城へ馬での移動。入浴に、そしてアーロンとの言い合い。しかし、俺がまだ部屋にいるというのにこんなにスヤスヤ寝息を立てて寝入るこの女には警戒や危機感といったものは無いのだろうか?俺がその気になれば……と邪な妄想はいくらでもできてしまう。それを実行に移すのも難しくはないだろう。
呑気なものだ。
「……ドレスなんて比較にならないほど美しい……」
そっと銀の髪を梳いてやると少しばかり身動きされたが眠りについたままだ。今は閉じられている赤い瞳もとても美しい。宝石のルビーなどまったく比較にならないだろう。
アーロンに目をかけられてしまったのが災難といったところか。
あれほど求婚や甘ったるい言葉をかけられていても今のところ動じる様子は感じられないが、それもいつまでもつことやら……結局は女というものは優しくされたらコロリと落ちていくものだ。口下手な俺ではきっと相手にもされなくなるだろう。
「もっとお前の気の強さを見せてみろ……簡単にアーロンに落ちるな」
アーロンに捕まったらきっと逃れることはできないだろうから。だからとことん結婚を拒んでみろ。何がしたいのか、本当にしたいことがあるかは分からないがそれがあるなら王子なんぞの言葉に惑わされたりするなよ。
スヤスヤ眠っている顔に陰を落とし、俺はおもむろに寝ているレンの唇に己の唇を重ねた。
柔らかく、入浴後で良い匂いを漂わせている女。くそ、自分の理性が外れなくて良かったと心底思った。このまま男の俺の自由にさせられても不思議ではないというのに。
危なっかしいにもほどがある。アーロンには悪いが、しばらくの間は俺がコイツの面倒でもみてやるか。
俺が寝ている女に手を出したと言ったら先を越されたとアーロンは怒るだろうか。それとも俺の首でも刎ねるだろうか?いや、あの悪魔みたいな王子は逆に面白がって『次は俺がフラフラになるほどの甘い口付けでもしてやるか』とでも言いそうだ。……言わないでおこう。
ゆっくり休めるようにそっと銀色の髪を撫でてから名残惜しく部屋から出て行こうとした。がドアの真ん前にはアーロンの姿が。気付かないうちに部屋に入ってきて、ま、待っていたのだろうか?
「ラインハルトも男なんだなぁ~……でも、さすがに寝ている女性の唇を奪うのはいただけないだろ?やるなら堂々と奪ってみろ。それにしても、やけにレンに固執しているみたいだな?やはり興味深い女らしい。あぁ、心配しなくても俺は今のところは無理やりに手を出したりしないさ。未来の嫁に嫌われたくはないからな」
「さて、俺も部屋に戻る」
アーロンの戻るといった部屋はこの部屋の隣だ。正直、いろいろと心配なところもあるが、今はアーロンの言葉を信じるとしよう。これからアーロンの嫁候補、そして王妃候補になっていくであろうレンの生活を考えると頭を抱えたくなる。絶対に『嫌よ!』と拒否するだろうが、なにかこの女の弱い部分……女が喜ぶもので吊ってみるか?
一体何に興味があるだろうか?と考えながら俺も自室へと向かった。
こぉらぁ!騎士団長殿!寝ている女子になんてことを!!!
……でも魅力的な女性がいたら、しちゃうのかしら!?勢いだったのかしら!?読者はちょっとはドキドキしてくれたかしら!?といろいろ考えて物語を執筆させていただいています!
異世界を難しく考えずに、海外の人だったらもしかしたらロマンチックだったり、手を出すのも早そう!!(偏見では!?)と気軽に楽しくみていただけますと幸いです!ラブ要素もいいけれどそろそろ異世界モノらしく魔法や魔物たちの登場もさせていきたいところです。
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