思いついたもの殴り書き⑤
少々加筆してみました。
ここは帝国の都から馬車で5日程のところにある街らしい。らしい、と言うのはワタシがここから動いた事がないこと、人々の話から得た情報だからだ。
日々行き交う人々を眺め、会話を聞くでもなく聞き、変わらずここにいる。「肉屋の親父が狩に出た息子の心配をしている」とか、「そろそろ冬支度をしなければ」とか、「都では新しい商会の勢いがすごい」とか笑ったり忙しそうだったり怒っていたり、人々の生活の一部を見聞きして過ごしている。
ワタシは生まれた時からずっとここにいる。帝国の都から馬車で5日ほどの距離にあるらしい街のほぼ真ん中、色とりどりの花に囲まれた花壇の真ん中の木、街の2階建ての建物と同じくらいの大きさの木が『ワタシ』であり、『ワタシの親』であり『ワタシの家』だ。
気づいたら人と同じような形をしたワタシが出来ていた。気付く人はほとんどいないようだ。ごく稀に子どもがワタシを指指して驚いた顔をしていることがある。しかしそんな子も、そのうち忘れるのか、見えなくなるのか、ワタシに反応をすることがなくなるのだ。そんな時はいつも周りの花がそよそよと揺れている、と気づいたある日、『ワタシ』の枝葉が風もないのにさわりと動いた。
ふと、ふよふよフラフラと危なっかしく飛ぶ光が視界の端に映ったことに気づいた。じっと見ていると、どうやらワタシのほうへ向かって来ているようである。
周りを見渡してみても、気づいていないのか誰も視線すら向けていない。まぁ悪いモノではなさそうだしと光に視線を戻し、ボーッと眺めているとワタシの胸あたりにぶつかってそのままゆっくり落ちて行った。
慌てて手のひらで受け止めると、その光は突然飛び上がった。フラフラしていたのにどうしたのかと言いたくなるほどの勢いでワタシの周りをぐるぐる何周かした後、光が消え、ワタシの人差し指ほどの小さな女の子の姿になった。
4枚の羽の向こう側がうっすら透けて見え、日の入りや明け方を思わせるような紺から東雲色のグラデーションのロングワンピースを着ている。月白の短いかみに、真夜中の空を思わせる留紺の瞳には朱や水色が小さく煌めいている。
『縺ゅk縺假シ∬オキ縺阪◆?』
とても可愛い声で、だけども凄い勢いで何か話しかけられたようである。
(ジロジロ見すぎたかな?)と思いつつ、口から出たのは
「ごめんね、ワタシにはキミの言葉をわかってあげる力が残ってないんだ。でもおかえり。無事でよかったよ」
(…え?ワタシ今、何を言った??)
ちなみに
月白とは、月の光を思わせる薄い青みを含んだ白色のこと。
留紺とは、これ以上染まりようのない濃い紺色のことです。
「とまこん」とも読むそうです。