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『虚幻の王』  作者: しぃ
8/11

8話

第八話


夢を見ていた。

昔の女性との想い出である。

二人は違う土地で生を受けた。

違う国に仕え、それぞれの国の為に戦っていた。

だが、騎士となった女性が、捕虜として彼の国に送られてきた。

彼は監禁場所に自分の別宅を選び、彼女を丁重に扱う中で、彼女に好意…いや、それ以上のものを持った。

だが、果たして彼女は其処までの想いを抱いてくれたかどうか。

呪いを畏れて余所余所しい態度を取り続け、挙句に侵攻してきた他国の騎士の手にかかって果てた。

何故こんな忌まわしいものを手にすることを選んでしまったのか? 会うたびに悩んだ。

自らの意思で手にしたはずの闇の剣。

だが、彼女への想いを心の中で意識したとき、震えるような恐ろしさに見舞われた。

この闇の剣は彼女の命を奪う。切実にそれを感じた。

だから愛する心を自分にも偽り続けるしかなかった。

結局彼女と自分が結ばれることはなかった。だが、愛するものを殺してしまう、という惨劇を引き起こすこともなかった。

これで良かったのだ。一度は割り切ったことだ。

だが、過去は振り返らないつもりでも、時々その想いが、胸の疼きとともに脳裏を過ぎることはある。

本当にあれで良かったのだろうか?

別の道もあったのではないか?

舌打ちした。

――何時までもそんな過去のことを、

女々しいぞ、と自分を叱咤した。

――過去など全て忘れてしまえばいい。

過ぎ去ったものに何の意味がある?

誰かが「過去を受け入れることによって未来は開けるものだ」などと言っていたが、そんな説教は聞き流した。何を言われても心に響かない時はある。その言葉を心が受け入れることが出来るまで、自分の道を突き進むしかないのだ。

だから、今は過去などいらない。

――俺にはまだ、やることがいくらでも――。


「おい、起きろ!」

棒のようなものでつつかれて、かうぼいは目を醒ました。

青く晴れ渡った空を背景に、大剣を背負った騎士が、倒れている彼を見下ろしていた。

――結局アイツを斬ることは出来なかったか……。

フレアドラゴンを討ち損じて気を失っていたようだ。

「…なんか用か?」

かうぼいはゆっくりと上半身を起こすと、大きく伸びをした。

「なんか用か? はないだろ。見たところお前一人だけのようだが、しゅう殿は何処だ?」

ガルバディオ郊外で剣を交えた騎士である。今は配下としてガルバディオ兵を二十人ほど連れていた。

「アンタは確かインリンといったかな」

「よく覚えてたな、それは褒めてやるが、それよりも私の問いに答えろ。…しゅう殿は何処だ」

「知らん」

「知らん、だと? お前がしゅう殿を連れて行ったんだろうが!」

インリンはかうぼいの胸倉を掴んだ。

「知らんものは知らんのだから仕方ないだろう。アンタ達も見ただろうが、途中で魔物の群にからまれてな、そこではぐれた」

説明しながらかうぼいは、インリンは自分たちを追ってきたわけではなく、むしろ魔物の群の情報を得て、偵察の為に、偶然此処に立ち寄ったのだろうと見定めた。足取りを辿られるようなヘマをした覚えはない。

「あの魔物達に……」

そう呟いた、インリンの手の力が弱まったのをみて、かうぼいはその手を振り払い、立ち上がった。

「恐らくしゅう殿は殺されることはあるまい。攫われただけだろう」

「何故そうと分かる?」

「奴等はしゅう殿を、王と呼んでいたからな」

その言葉を聞いたインリンは、はっと顔を上げた。

「しゅう殿が魔物達の王? だが、一体どうして――」

インリンの問いに対して、暫らく黙っていたかうぼいだったが、懐からおもむろに煙草を取り出すと、

「…おそらく呪いだろうよ」

と、ポツリと呟いた。

「何だって?」

怪訝な表情で聞き返してくるインリンに、

「呪いさ。コイツと同じにおいがした」

と、かうぼいは剣の柄を撫でた。

「ロードオブヴァーミリオンの真打ちか」

「よく知っているな。真打ち、もしくは原器といっても良いだろう。他のロードオブヴァーミリオンは、コイツに似せて作ったレプリカさ。レプリカは力が弱いかわりに呪いもないから、伝承について誤解する輩もいるが、この世界にはコイツのような、真の力を発揮する為に代償を求める闇の魔導器が、確かに存在する」

「しゅう殿もお前も、妖しの術を使っていたが、それが……」

「呪いを代償に得た能力だろうな。きっとしゅう殿も、呪いと引き換えに力を発揮する『何か』をもっているはずだ」

一通り説明したかうぼいは、煙草に火をつけると、

「出来ればしゅう殿を救ってやりたかったがな……」

といって、インリンに背を向けて歩き始めた。

「おい、かうぼい、何処へ行く?」

慌ててインリンが訊いた。

「しゅう殿とはぐれた俺のことを詮索する必要はないはずだぞ。…早くしゅう殿を探してやるんだな」

かうぼいはさらに歩を進めようとしたが、インリン配下の兵士達が、武器を構えて彼を取り囲んだ。

振り返るとそこには、手を挙げて兵達に合図しているインリンの姿。

「何のつもりだ?」

かうぼいの問いに、インリンは、

「もちろんしゅう殿を探すのさ」

と、口の端で笑った。

「しゅう殿は魔物とともに消えてしまって、普通に探していてはらちが明かない。手がかりは最終目撃者の男だけ。しかもその男はしゅう殿の呪いのことを知っているようだ。こんなとき、かうぼい殿、アンタならどうする」

「……その男を捜索に協力させるだろうな」

そういってかうぼいは溜息をついた。

「そういうことさ。かうぼい殿にはアンタレス国の公務を担った私たちを妨害した咎もある。…では御同行いただこうか」

インリンが合図をすると、兵達がかうぼいを囲んだまま、ガルバディオの方角へ進みだした。

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