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27 自称天才、自称神と戦う


「〈万能空気操〉の中じゃ魔術が詠唱出来ない。だけど魔法陣なら詠唱がいらない。よく思い付いたね」


「まあ、お前にあの魔術の話を聞いてから、オレなりに対策を考えていたからな」


 教科書に載る一級魔術よりも上の魔術、超級魔術。

 今まで存在すら知らなかったものに対抗しようと、ネモフィラはジニアの補助のために旅の中で考えていた。自分に戦闘能力があまりなく、超級魔術の使い手が現れたら必ず足手纏いになると分かっているから、自分の長所である頭脳で戦いに貢献しようと思ったのだ。


 対策に関しては何度も時空魔法陣を見ているからこそ思い付いた。

 実験もなくいきなり本番での使用だったが、魔法陣は上手く作動してくれて命が今繋がっている。

 

「どこの誰か知らないが機転が利くらしい」


 二人に声を掛けたのは膝辺りまで伸びた黒い長髪の男、クーロン。

 容姿は二十代後半に見えて若々しい。白いローブが風で揺らめく。

 空中からゆっくりと降りる彼は、手に持っていた木片を野原に捨てる。

 バラバラな木片には魔術言語が書かれていたので、ネモフィラは彼がどうやって助かったのかを察する。


「へっ、天才様も考えることは同じか」


「ライに超級魔術を教えたのは私だ。対処法がなければ他人には教えない。……で、貴様等は何者だ? 奴に騙されたことは分かるが、先程の話からして不老薬を知っているらしいな」


「私はジニアでこっちがネモフィラ。未来で魔素の枯渇を防ぐためにマクカゾワールを作りたいの。今度は私の質問。あなたは時空魔術を生み出した、あのクーロンなの?」


「だとしたら?」


「さっき、ライはあなたがオルンチアドのボスだって言ったよね。何であなたがオルンチアドなんて組織を作ったのか知りたい。不老薬を求める理由も、私は知りたい」


 ジニアにとってクーロンは憧れの存在。唯一、自分より上と認めた存在。

 これまで自分を天才と思って生きてきたジニアでも、過去や未来へ行く魔術の開発なんて出来る気がしなかった。魔術という分野で彼に勝てる気がしなかった。そんな自分より上であるはずの彼が、なぜ手段選ばず不老薬を求める組織を作ったのかが分からない。


「もし世界一の天才が間違った道を歩んでいるなら、世界二番目の天才があなたを止めるよ」


「世界で二番目の天才、か。興味はあるが……ゆっくり話をしている場合ではないようだ」


「ああオレもそう思う。ジニア、敵が来るぜ」


 クーロンとネモフィラが聖神泉の方角を見つめて、ジニアも数瞬遅れて目を向ける。

 聖神泉からライが飛びながら戻って来た。彼の顔には満足気な笑みが浮かんでいる。


「ライ! 抜け駆けなんて酷いじゃん!」


「早い者勝ち、良い言葉だよね。僕は目的を達成した。僕は不老になったん……だう、ぐ、うお」


 両手を広げて喜ぶ彼は突如苦しみ出し、体に異変が起きた。

 ボコボコと皮膚が泡立つ。皮膚は段々と色が黒くなり、眼球の結膜は赤く、瞳孔は白くなっていく。全身には黒い鱗が、背中からは蠅が持つような羽が生える。肉体は筋肉が膨張して一回り大きくなった。


 魔族化現象という言葉がジニア達の頭をよぎる。

 知人が目の前で変化していく光景を前に、ジニア達は黙視することしか出来なかった。


「……失敗したのか?」


「いいや成功だよクーロン」


 上げていた小さな悲鳴を止めたライは笑う。


「今理解した。不老薬マクカゾワールは、間違った材料で作った失敗作だから魔族に変化するわけじゃない。これは元々、生物の体を作り変え、魔族になるための薬だったんだ」


 今の結果まで辿り着いたライは「実に長かった」と呟く。

 ライは世界誕生年数にして千六百年の時代に生を受けた。

 魔術師を育てる学校に通っていた彼はなんの偶然か、不老薬の資料をとある村で見つけた。既にボロボロで一部しか解読出来なかったが、彼は面白い物を見つけたと思い過去へ向かう。


 資料を見ながら彼は不老薬生成に取りかかり人体実験を繰り返す。

 魔族が大量に生まれて人々を殺したが彼にとっては些細なこと。重要なのは魔族化という結果のみ。今まで失敗作を投与した人間の症状を考えれば、魔族化を引き起こす薬という自分の答えが正しいと納得出来る。


 魔族に寿命なんてものはない。老衰で死んだ魔族など誰も聞いたことがない。

 つまりマクカゾワールは人間という枠を超えるための薬だったのだ。


 正しい材料を使うごとに魔族化は完璧に近付いていく。 

 材料を一つしか使わなければ理性もない化け物が出来上がり、二つ使えば辛うじて人間の感情が残る。そして三つ全てを使った今、記憶も感情も人間のままで魔族に変化出来た。

 

「……そんなバカな。……私は、そんな物を求めていたというのか?」


 不老を求めていたクーロンは強いショックを受けて立ち眩みを起こす。


「なんで落ち込む? 素晴らしいじゃないか、魔族の肉体は人間より遥かに強靱だ。僕の魔術師としての知識が加わった今、ここに全生命が崇めるべき神が誕生した。クーロン、アンタの時空魔法陣を利用して、僕は全ての時空を束ねる神になる。逆らわなければ、生きとし生けるものに安全という幸福を与えよう」


 ライを恐れたネモフィラは小さく「バカげてる」と呟く。


「しかし、ジニア、ネモフィラ、クーロン、君達のように不老薬の存在を知る者は殺さなければならない。神になれる情報は抹消しなければならない。だが、もし君達が僕に絶対服従を誓うなら生かそう。選択を急げ」


 ショックや恐怖で黙るクーロンとネモフィラ。

 そんな中、一人だけ恐れを抱かない少女が居た。


「ごめんライ、もう一回最初から言ってくれない?」


 何てことのないようにジニアが言う。

 何も理解していなさそうなジニアの発言で、ライの怪しい笑みが剥がれる。


「…………ふぅ。やっぱり殺すか。始末すれば安心だし」


 鋭い瞳でジニアを睨むライは右手を突き出す。


「〈魔弾(マ・バレ・マダン)〉」

「〈魔弾〉!」


 ライの右手から赤黒いエネルギー弾、ジニアの杖から桃色のエネルギー弾が発射された。二つの強力な球体が衝突して爆発が起きる。桃色の爆炎と煙が広がり、それらを突き進んで赤黒い〈魔弾〉が姿を現した。

 魔術に自信があったジニアは、同じ魔術で押し切られたことに驚く。


「〈魔弾〉!」


 迫る危険でショックから立ち直ったクーロンが、青いエネルギー弾を左手から放つ。

 威力が少し衰えた赤黒い球体に青い球体がぶつかり、同時に爆発して消え去る。赤と青の爆炎と煙が混ざり合って紫になった。さすがに実力者二人分の〈魔弾〉をぶつければ、魔族と化したライの〈魔弾〉も防げる。


「へえ防いだか。……それなら」


 ライの姿がジニア達の視界から消えた。

 黒い線が横切った気がしたジニアとクーロンが後ろを向くと、既に背後に移動していたライが両手を向けていた。


「〈魔連弾マ・バレ・コンテ・マレンダ〉」

「「〈防膜(シ・フル・ボウマ)〉!」」


 至近距離かつ連続で撃たれた赤黒いエネルギー弾。

 一発でも苦労するのに連弾が目前で放たれたので、攻撃で相殺するよりもジニア達は防御を選ぶ。発動させた〈防膜〉は空色の膜を生み出し、二重になることで色が濃くなり強度も上がる。


「必死に魔力を込めろ!」

「分かってるってばあ!」


 八個の〈魔弾〉が防御膜を突き破ろうとしてくるがギリギリで耐える。

 しかし、エネルギー弾の一つが爆発すると、他のエネルギー弾も連鎖爆発を起こす。大爆発が近距離で起きたせいで防御膜は破壊され、ジニア達は爆風で吹き飛ぶ。


「くっくっく、まだまだ行くぞ!」


「〈低速呪法ス・スロ・カース・スーペル・テイソクジ〉」


 吹き飛びながらジニアは速度低下の魔術をライに行使した。

 効果は分からずとも何かされたのは感じた彼は不思議そうに体を眺める。

 彼が隙を見せた内にジニアとクーロンは〈飛行(フ・イラ・フライ)〉で体勢を立て直し、次に〈高速呪法ク・クイ・カース・スーペル・コウソクジ〉で速度を強化。ネモフィラだけは遥か後ろへと転がり、受け身を取ったといっても全身擦り傷だらけでかなりのダメージを受けた。


「ネモフィラ!」


「放っておけ。今は戦いに集中しろ」


「ほっとけない。〈超回復ス・ヒル・パヒル・チョウカ〉!」


 回復魔術特有の薄緑の光をネモフィラに飛ばし、遠距離からジニアは彼女を治す。


「さっきは何をしたんだジニアあああああ!」


 遠くからライが飛んで来たのを見たジニアとクーロンは目を凝らす。

 見た、そう見えたのだ。魔術で自分の速度を上昇、敵の速度を降下させてようやく姿を視認出来た。しかし目で捉えられたといっても対処出来るかは話が別。弱体化していてもライの移動はとんでもなく速い。


「〈紫電奔流パ・エレ・ントゥ・トォーラ・デンホウリ〉」


 飛行中にライの両手から紫の電気が放出される。


「くっ〈防膜〉!」

「〈防膜〉!」


 ジニアとクーロンの二人が空色の防御膜を目前に張った。

 これで一安心かに思えたが、紫電は防御膜を突き破って内部へ侵入。驚愕するジニアのすぐ隣、歯を食いしばるクーロンの右腕を貫いて焼き切った。彼の右腕はボトッと草上に落ちる。


 電撃は範囲が狭く、威力は一点集中。

 残念ながら二人分の〈防膜〉でも強度が足りない。


「クーロン!」

「問題ない! 〈|超重力黒渦《グ・ラビ・ブラク・ボルテク・アルティメ・チョウジュウ》〉!」


 迫り来るライをクーロンが重力波で吹っ飛ばす。

 空間が歪む程の重力波にはさすがの彼も堪えられない。

 敵を吹っ飛ばして距離を稼いだ直後、ジニア達のもとにネモフィラが合流する。


「おい、二人共、あの怪物に勝算があるか?」


「厳しいだろう。私と、そこのジニアだったか、二人で戦っても勝率は二割といったところか」


 クーロンはそう言いながら、失った右腕部分を〈超回復〉で生やす。


「だが天才様よ、お前なら確実に勝つ方法があるだろ。それともアレは使えねえのか?」


「ふっ、アレか。残念ながら発動までに一分掛かる。奴を相手に私が戦わなければ三十秒以内に全滅するぞ」


「大丈夫さ。ウチの天才舐めんなよ? ジニア、一分だけ時間稼げ」


「倒しちゃっても良いんでしょ。十秒で片付けてあげるよ」


「調子乗りすぎだっての」


 初めてネモフィラから天才と言われて舞い上がったジニアは笑みを浮かべる。

 ジニアには『アレ』が何を指すのか分からない。ただ、何かしらの策があることだけは分かった。一分の時間を稼げば勝利出来るというのなら、必死に、全身全霊の魔力を込めて一分間戦うだけだ。


「作戦会議は終わったかあ!? 〈紫電奔流〉!」


 重力波で吹っ飛んでいたライが再び戻って来て、紫の電撃を放つ。


「おい本当にやっていいのか?」


 クーロンは『アレ』を使っていいのかと悩み顔に不安が表れる。

 ここでジニアが『アレ』発動までの一分を稼げなければ、それは彼女の死を意味するので残る戦力は一人。今のライにクーロン一人で戦えば勝率はゼロ。味方を一人犠牲にするかもしれないこの作戦は非常にリスキーだ。彼が悩む気持ちを理解しているネモフィラは「信じろ」と彼の肩に手を置く。


「あいつとの戦いは任せて。〈紫電奔流〉!」


 迫り来る紫電にジニアは同じ紫電をぶつけた。


「〈剛落雷パ・フォ・サンダ・ゴウラク〉!」


 ――さらに、一級には威力が劣る二級魔術を発動した。


 ジニアが(おこな)ったのは魔術を連続で発動させる連続詠唱。

 自称神であるライの魔術は非常に強力なため、ジニアが使える一級魔術でも相殺は不可能。しかし二つの魔術をぶつければ相殺どころか競り勝つことも可能になる。


 二級魔術〈剛落雷〉は上空に雷雲を生み出し、雷を落とす。魔術で生み出した雷なので自然のものより威力は劣るが、術者の意思で軌道を操ることが出来る。ジニアは真上に雷雲を生み出し、敵の紫電に向けて斜めに雷を落とした。


「……若さは可能性の多さ。信じよう」


 一分稼げると信じたクーロンは小さな声で詠唱を始める。

 やっと始めたかと笑みを浮かべたネモフィラはジニアの戦いを見守る。

 電撃同士のぶつかり合いは、ライの放った紫電が先に途切れてジニアの電撃が競り勝つ。しかし衝突でエネルギーを殆ど使ったため、電撃はライに届くことなく空気に溶けた。


「……連続詠唱、か。その程度の小手先の技術で勝てるつもりか?」


「つもりだよ。〈暗闇(ダ・ネス・クラヤ)〉」


 ライを中心として直径五メートルに闇の塊を生み出す。

 何も見えなくなった彼は咄嗟に闇の外へ脱出するが――。


「〈発光(ラ・ライ・ハコウ)〉」


 脱出した先には太陽のように眩い光が待ち構えていた。

 予想外の強い光で再び彼の視界を奪ったジニアは魔力を高める。


「今だ、〈大地命轟ア・アス・ライフ・ロアーズ・チメイゴウ〉!」


 大地が蠢く。ライの真下の地面に亀裂が走る。

 地面から直方体の巨大な岩盤が二つ起き上がり、未だに何も見えていない彼を挟んだ。膨大な質量にプレスされたら生命に為す術はない。マッドスネークですら紙のような薄さに潰すのだ。


 本来どうしようもない一撃。自称神だろうと死ぬ……とジニアは思っていた。

 岩盤二つに徐々に亀裂が入り、広がり、岩盤が砕ける。

 驚くべきことにライの体には軽い擦り傷が複数あるだけだった。

 砕けた岩盤の一部が大量に雨のように降り注ぐ。


「〈巨大竜巻マ・シブ・トルネ・ディスア・ダイタツマ〉!」


 ジニアの魔術で竜巻が発生して、落下中の岩と共にライを呑み込む。

 ただの風ならダメージはないが中には岩も飛んでいる。高速で飛び回る岩は中の生物を、まるでミキサーのように砕いて風が混ぜるだろう。殺し方としてはかなり残酷な方法となる。


「〈(マ・ビツ・ス)(トン・フォ)(ウル・アル)(ティメ・ダ)(イイワラツ)〉」


 高速で飛来する岩石の散弾を浴びながらもライは超級魔術を使用した。

 効果は至ってシンプル。遥か上空に、無から巨大な岩を生み出すもの。

 言葉にすれば簡単だが超級魔術は生易しくない。


 空に出現した大岩は直径二十キロメートルを超えており、出現の余波か竜巻を霧散させて、周囲の雲を吹き飛ばす。まさに質量攻撃の極み。落下範囲から出たとしても、地上に落ちれば大地がひっくり返るように吹き飛ぶ。今更どこへ逃げても巨大岩が落ちれば確実に全員死ぬ。


「どうすれば、いや、超級魔術には超級魔術! コツは全然分かんないけど見様見真似で〈(グ・ラビ・ブ)(ラク・ボル)(テク・アル)(ティメ・チョ)ウジュウ〉!」


 空間が歪む程の重力波が空へと向かう。

 落下していた巨大岩と岩石の山は重力で徐々に押し戻され、惑星の外にまで追いやられた。


 上手く超級魔術が発動出来たのをジニアは嬉しく思うが、想像以上の魔力消費に驚く。ただの一級魔術を発動するより二十倍は疲れる。魔力量には自信があるジニアでも十回が限度だろう。


「……ライは」


「こっちだぜジニアちゃーん! 〈灼熱地獄ヒ・バニ・ヘルフ・フアイア・ネツジゴク〉!」


 遥か右方からライが飛んできて両手から灼熱の炎を噴き出す。


「〈絶対零度ア・ブソ・リゼロ・テムパラ・ゼッタイレ〉! 〈飛氷礫フ・アイ・グラベ・コオリツ〉!」


 広範囲に広がる炎を止めるべく、巨大な氷塊が一瞬で道を塞ぐ。

 氷の大陸を持ってきたように大きな氷塊だったが、非常に高熱な炎によってみるみる溶かされる。


「ぐ、ううう〈絶対零度〉ええええ!」


 気合いを込めたジニアによって再び、先程より一回り小さな氷塊が炎を食い止める。

 必死に防ごうとした結果、氷が全て溶けきる前に炎が消えた。残った氷は余熱で溶けた。

 やったと喜んだ瞬間――胸を槍で刺されたような痛みがジニアを襲う。


「うぁ、ぐ、うう……こ、れは……?」


「当然でしょうよジニアちゃーん。連続詠唱は体に大きな負担が掛かるんだから、使いすぎは良くないぞ? ふふ、悔しがることはない。この僕に、この神に、五十秒でも戦えたことを誇りに思いなよ。でも負けは負けだ。さよならジニアちゃん」


 急接近してきたライにジニアは対応出来ない。

 胸の、心臓の奥の痛みがあまりにも強烈で呼吸すら出来ない。


「〈火炎流フ・フレ・フロウ・カエンリ〉」


 生き残るために魔術を発動することなくジニアは、蛇のように伸びた赤い炎に呑まれた。

 肌が焼かれ、髪が焼かれ、肉体の内側までこんがり焼き上がる。やがて肉体は炭と化し、骨だけを残して風に運ばれる。悲鳴すら上がらない短時間の出来事だった。


「うんうん、やっぱり火葬には二級程度の魔術が丁度良いね」


 ライは「さて」と呟き、ネモフィラとクーロンの方向へ振り向く。


「次は君達の番だ。お望みの葬られ方はなんだい? 火葬? それとも土葬?」


 ゆっくりと歩いて近付くライを見て、ネモフィラは力の入れすぎで握り拳を震わせる。


「……オレが何かしなくても勝利は確定した。けどよ、あいつに立ち向かいもしないで決着ってのは気分悪くなるぜ。大切な友達を殺されてよお、待つだけなんてオレには出来ねえええ!」


「〈火炎流〉」


 走って敵に向かうネモフィラも炎の蛇に呑み込まれ、肉体が焼けていく。


「へっ、丁度、一分だ、ぜ」


 火力は変わらず人間では耐えられない。ネモフィラもジニアと同じ最期を迎える。

 一人になってしまったクーロンは二人分の骨を視界に入れて目を細めた。


「さあクーロン、最後にアンタだ。どうやって死にたい?」


「ライ、死ぬのは貴様だ。〈(ス・ペス・)(メタス・タ)(シスメ・アル)(ティメ・チョ)ウジクウ〉」


 クーロンが発動させた魔術の名を聞いた瞬間、ライの表情は険しくなった。

 必死に魔術を阻止しようとライは接敵するが既に遅い。

 クーロンの体は浮かび上がり、眩い光に包まれた。


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