第2話
太一は晩酌もほどほどに本を手に取りベッドに潜り込む。
月明かりが差し込む部屋には月の明かりとベット脇のライトだけが光っていた。
胸を弾ませながらページを繊細にめくる。
古代の息吹が紙の隙間から漂ってくるようで、太一は時と場所を超えた旅に意識を飛ばす。
しかし、疲れはじわじわと彼の意識を曖昧にし、やがて、現実の世界から滑り落ちるように眠りについた。
夢はの中で、気がつくとキラキラと晴れわたる古代のジャングルの中に立っていた。
この場所は、時間が存在しないかのように、静寂と安らぎに満ちている。
ガサガサと茂みが音を鳴らす。
太一は身構える。
程なくして大きな黒い塊が目の前に飛び込んできた。
そては太一が本で見た、自分と瓜二つのクロマニヨン人だった。
イラストではわからなかったが思いの外の大きさに恐怖心をおぼえ後ずさる。
お互いに目が離せず立ち尽くしていたがしばらくしてクロマニヨン人が手を動かしはじめた。
何かを伝えたいらしい。
彼らの言語はまだこの世に生まれていない。
何を伝えようとしているのかわからない。
それでも必死に伝えようとするクロマニヨン人に太一もいつしか恐怖心はなくなり
解読する事に一生懸命になっていた。
クロマニヨン人はジェスチャーや表情、さらには地面に描かれた原始的な絵から
メッセージを伝えようとしたが何を言っているのかわからない。
すると、クロマニヨン人は太一の服の袖を引っ張り彼を誘導し始めた。
程なくすると、滝の大きな轟音が聞こえてきた。
辿り着いた先に生命の源泉を思わせる壮大な滝があり
そのそばに立つ大木は、まるでエデンの園を思わせる豊かな果実をつけていた。
りんご、バナナ、桃... 知られざる果物まで、その枝は様々な実で重く垂れ下がっていた。
クロマニヨン人が2つもぎ取ったりんごを太一にひとつ手渡すと、彼は躊躇なくその果実にかぶりついた。
太一もそれに続いた。
彼らの目が綻ぶ。
そのりんごは、ただの果物ではなく、太一とクロマニヨン人との間に橋渡しをする、神秘的な象徴となった。
二人が共に味わったその果実の味は、
この世のものとは思えないほどに甘く、濃厚で、彼らの心を喜びで埋め尽くした。
眩しい太陽の光で目を覚ます。
あのりんごの味が口の中でほんのり香る様な気がした。
夢だとわかっているけれど、またあのクロマニヨン人と会えたらいいなと思った。
夢の中で過ごした時間は、太一にとって特別の始まりとなった。