いつも心にクロマニヨン人
太一は会社のガラス張りの扉を押し開け、一息つきながら、冷たいビルの群れから解放された。
会社の喧騒を背にし、彼の心は新鮮な空気を求めていた。
ふと、今夜はいつもと違う何かを求めている自分に気づく。
街灯の下で一瞬立ち止まり、深く息を吸い込んだ。空を見上げ
「星ひとつ見えないな」
そう思った。
目の先にあったカフェに入り、コーヒーを注文した太一は、窓際の席で一人
通り過ぎる人々を眺めながらぼーっと街の喧騒に聞き入っていた。
もう25歳も終わるのに仕事ばかりで彼女さえ作れずなにやってるんだろうなんていう
考えも湧いてくる。
まぁ、時間があってもモテる方ではないのだが。
カフェを後にし、彼はふらりと街を歩き始める。
服屋のウィンドウには格好の良いジャケットがいくつか並んでいる。
「そう言えば、最近新しい洋服を買っていないな。」
毎日、仕事に追われ休日は一日、ベットの中なんて日も増えていた。
小さな公園のベンチに腰掛け、しばらくの間、周りの自然を眺めた。
昼間の賑やかさとは反対に時間がゆっくり流れ、物悲しさを漂わせていた。
ヒラヒラと舞い落ちる木の葉が冬の訪れが近いことを告げている。
「肌寒くなってきた。早く帰ろう。」
太一はベンチから立ち上がり少し足早に歩き出す。
路地を歩いていると、一匹の猫が太一の足元をすり抜けていく。
自由を満喫する猫にちょっぴり羨ましささえ感じた。
気がつけば、太一は古ぼけた書店の前に立っていた。
店の窓からこぼれる柔らかい光に誘われる様に店内へとはいる。
「こんな店があったんだ」
と、いつも通る帰り道なのに今まで気づかなかった自分を不思議に思った。
彼は新たな発見に小さな喜びを感じた。
店内に一歩踏み入れると、時が違う速度で流れているかのような感覚に包まれた。
店内は古い古書の匂いが立ち込めている。なんだか懐かしい匂いだ。
彼は無意識のうちに、古代の知識や物語が詰まった本の棚へと引き寄せらる。
そこには、たくさんの人たちに影響を与えてきたのだろうと
想像のつく難しそうな本がずらりと並んでいる。
その中で、なんとなく手に取ったのは「古代人類の謎」と題された一冊だった。
ページを開くと太古の昔から「人」となる時代まで色々な時代の出来事が書かれていた。
太一はパラパラとページを捲り、ふと指を止めた。
焚き火の周りで楽しそうに踊っている「原始人」のイラストが描かれていた。
「クロマニヨン人。」
見出しにはそう書かれていた。
それにしても、とても楽しそうに踊っている。
その「クロマニヨン人」の顔を順番に見ていく。
すると、少しみんなより楽しそうではない表情をしている者がいる。
「なんだか、俺に似てるな。」
そう思った。
楽しそうじゃない表情もだが、何よりも顔自体が似ていたのだ。
太一は自分に似ている原人がどんな生活をしていたのか気になり
その本を購入して帰った。