仮想空間
俺はお母さんにわがままを言って、予定より早くヘッドグリントとブレインアドベンチャーをプレゼントしてもらった。
「なになに、このゲームをプレイする時は事前にお手洗いを済ませ、尿意を催さないようにしてください。また、身の安全を確保するために、物が散乱している場所や高い物が近くにある場所ではプレイしないようにしてください、か」
なるほど、噂には聞いていたが仮眠状態を作り出すことによって脳の意識を仮想空間に送るわけだから、プレイ中は身体の自由がきかないわけだな。
それと、タイマー機能も付いてある。
最長でプレイできる時間は2時間で、一度プレイすると6時間は開けないと再開できないのか。
とりあえず説明書の通り、電源ボタンを押してみる。
コントローラーがぶるっと振動し、音声案内が流れる。
「これから言う手順に従い、初期設定を完了してください」
インターネットの接続や声の吹き込み等を行い、一通りの準備は終わらせた。
お次にブレインアドベンチャーのソフトを開封する。
広大なマップを探索し、領土を拡大、魔王との戦いに挑めと書いてある。
面白そうだ。
知らなかったが、このゲームは連携可能なPC版があるらしく、ヘッドグリントの制限時間外はパソコンである程度活動できるらしい。
幸い家にはパソコンがあるので問題ない。
とにかくプレイしてみることには始まらない。
俺はヘルメット状のコントローラーをかぶると、ベッドの上で仰向けになり、恐る恐るゲーム開始のボタンを押した。
頭にピリピリとした感覚が流れる。
睡魔が襲ってくる感じなのかと思っていたが、意識が身体の奥に引っ張られるような感覚が起こり、一瞬にして俺の意識は飛んで行った。
「……ん」
ゆっくりと目を開けると、そこには広大な草原があった。
太陽の眩しさ、風の心地よさ、自然の優しさが全て感じ取れた。
「……ここが仮想空間……!!」
感動のあまり、俺は何をするというわけでもなく、ただ身体を風に預けていた。
すると、一羽の鳥がこちらに向かって飛んできて、近くの地面に降り立った。
「この世界へようこそ! ワタシはこのルゾ王国の案内役、紺色鳥です」
鮮やかな紺色をした鳥が少年のような声色で人の言葉を喋っている。
鳥の頭上には、まるで漫画のような吹き出しが出ており、字幕が流されていた。
ゲームだから普通と言えばそうだが、目の前で話しているかのようにされると、やはり混乱する。
このゲームのリアリティに感心するばかりだ。
興味本位でそのホログラムのような吹き出しに触ろうとしたが、どういうことか身体が動かない。
驚いて声を出してしまいそうになったが、いつのまにか声も出なくなってしまっている。
「この世界で生き抜くために、あなたには儀式を受けてもらう必要があります。そのために、今はあなたの身体の自由を少しの間奪わせていただいています。でも安心して。向こうに一本の木があるでしょう。そこで儀式を行います。ワタシは先に向かいますから、あの木の根元で再び会いましょう。では、お先に!」
そう言うと鳥ははるか先の木へ向かって飛び立った。
それと同時に、俺の身体の自由が戻る。
ただ、声はまだ出ない。
なるほど、これはチュートリアルだなと俺は理解した。
高揚感を覚えつつ、俺は木に向かって走り始めた。