ブレインアドベンチャー
ギルド、「五月雨の集い」の拠点にて————
「で、なんで一人来てないわけ?」
金髪のセミロングのアバターは、不満げな態度を隠そうともせず、腕を組んで立っていた。
頭上に表示されているプレイヤーの名前は「ベリル」。
彼女が葛原瑠音なのだ。
「GOGOのやつ遅いね……。そろそろ準備しないといけないんだけどなぁ」
彼の名は「デストロイ」。
銀色の髪をたなびかせ王子様みたいな恰好をしているが、実際は36歳の無職の男である。
彼がこのギルドを設立し、イベント等で指揮系統を担っている。
「出発時間も迫ってきましたし、僕たちだけでも準備しますか」
メガネが特徴的な男の名は「臨海」。
34歳の会社員で既婚者、現在は単身赴任中だ。
「すみません! 遅れたっす!」
魔法陣が現れ、スポーツ刈りのガタイのいい男が現れる。
彼は「GOGO」。27歳のフリーターだ。
「遅いんだけど!」
「ごめんなさい、ベリルさん。ちょっと仕事が遅れてしまって……」
「言い訳なんか聞きたくない! 遅れたことに変わりないから!」
「まあまあ。それよりデストロイさん、今日の作戦は?」
臨海がベリルをなだめる。
このゲームでは毎週火曜、土曜、日曜にイベントが設けられている。
今日は土曜日、領土拡大イベントの日だ。
「一番近いポジションストーンが北北西の位置にある。でもここは強いモンスターが出やすいから、戦闘力の高いメンバー二人で向かいたい。で、もう一つ少し離れてるんだけど、北北東にもポジションストーンがある。そこはほぼ雑魚モンスターしか出ないから、ベリル氏ともう一人で行ってもらいたいな。誰と行きたいとかある?」
「誰でもいいな~」
興味なさげにベリルは答えた。
「……そっか。じゃあじゃんけんで決めよう。二人とも、やるよー」
領土拡大イベントとは、未開の地を探索しポジションストーンという石に触れることによって達成となるイベントだ。
その道中にはモンスターが存在しており、モンスターを倒した数、そしてポジションストーンに早く触れた分だけギルドに報酬が支払われるのだ。
このゲームのコンセプトとして魔王軍との戦いに勝つというものがある。
魔王によって解き放たれたモンスターを倒し、そしてボスの魔王を倒すことによって一つのシーズンが終了するのだ。
そして今は3シーズン目、このシーズンのトッププレイヤーはベリルだった。