あの子は変わってしまった
「どっ、どういうことですか」
俺は落ち着くためにもその言葉の意味を問う。
「変わっちゃったの。あの子」
「変わったって、どういう……」
「瑠音と遊んでいた頃、あの子がどんな子だったか覚えてる?」
「え、元気良くて明るくて……」
そう、彼女は快活な女の子だった。動き回るのが大好きで、笑いの絶えない子だった。
ちょっと口は悪かったけど。
「そうよ。あの子は本当に明るい子だった。それなのに……」
何か言いたいのを我慢するかのようにため息をついて俯いた。
「気づいてあげられなかった私も悪いの」
「……」
俺はもう何も言えなくなって、瑠音に会いたいという思いも消え去り今はとにかくこの重い空気の家から出たいと思った。
わずかにジュースが残っていたが気にせず、俺は椅子から降りた。
「帰っちゃうの?」
「……はい。ジュースごちそうさまでした」
「ごめんね。嫌な空気にしちゃって」
いえ、と俺は小声で答えた。
「画用紙届けてくれてありがとう。……ん?」
瑠音のお母さんは何かに気づいたように、その場にある画用紙を手に取った。
「あっ、ごめんなさい。チラシ挟んでいたの忘れていました」
慌てて俺はチラシをもらった。
「ヘッドグリント、連午くんも欲しいの?」
「え? まあ誕生日にでも買ってもらえたらいいかなって」
俺が手に持しているチラシを、恨めしそうに見つめていた。
「あまり強くは言えないけれど、そのゲームは気をつけて遊んだ方がいいわよ」
「? はい……」
どういうことだろう。なぜ今ゲームの話をしたのだろうか。
よくわからないまま俺は瑠音の家を出た。
家を出るとき、庭に空の犬小屋があることに気がついた。
そうだ。確か柴犬を飼っていたんだった。
小学校の時は元気そうにしていたのに、いつの間にかいなくなっていた。
こうして犬小屋を見つけるまで忘れかけていたのかと思うと、だんだん瑠音との思い出が自分にとって過去のもののように思えてきて、少し虚しさを感じた。
家に帰った時には、空がすっかりオレンジ色に塗りつぶされていた。
それにしても、変わってしまったとはどういうことだろうか。
俺は想像するのに少しためらいを覚えた。
おそらく悪い方向に事態は進んでしまったのだ。
瑠音のお母さん自身もどうすればよいかわからないのだろう。
やはり今になって、瑠音と会えなかったことが悔やまれる。
もしかしたら、俺なら瑠音を変えられるかもしれない。
そう思いながら俺は自分の部屋に入る。
瑠音をどうにかして元に戻さなければならないと強く思うようになった。