夏休みが始まる
「これ、葛原の家に持って行ってくれるか? 家、近いだろ」
「あっ、はい」
いつの時代も絵の課題は夏休みに付き物らしい。お母さんがそう言っていた。
担任に言われて、俺は瑠音の家に絵を描くための画用紙などを持っていくことになった。
近頃課題はほとんど学校から支給されたパソコンから提出するのが当たり前となってきているが、それでも一部の課題については今でもアナログだ。
それにしても、あいつは今何をしているのだろうかと思う。
噂によると、いじめが原因で不登校になっているらしい。
瑠音とは保育園からの幼馴染だ。
中学に入ってからはたまに話す程度になったが、家も近いし、小学生の時は4度も同じクラスになった。
たくさん遊んで、たくさん笑ったことを覚えている。
もし噂が本当だとしたら、気づいてやれなかった自分が腹立たしい。
とにかく俺は輪ゴムで丸められた画用紙を抱えて学校を出た。
◇◇◇
最近はとにかく暑い。
セミも鳴くようになって、一層暑苦しくなる。
たまにぬるい風が吹くが、気晴らしにもならない。
そんな風が一段と強く吹いて、一枚のチラシが俺の足元に舞い落ちた。
「ヘッドグリント、再入荷のお知らせ……」
学校でも流行っている、大人気ゲーム機の広告だった。
おそらくすぐそこにある家電量販店から飛んできたものだろう。
放っておくわけにもいかないので、俺はそれを拾った。
「ブレインアドベンチャーとセットでお値打ち価格か」
このソフトも世間では大人気で、社会現象にもなりかけているらしい。
ただそれだけにゲーム機もソフトも品薄で、なかなか手に入らないそうだ。
特別欲しい理由もないので、俺はそういうニュースを何気なく聞いていただけに過ぎない。
クラスでも3,4人ほどしか持っていないそうだ。
誕生日も近いし、親に頼もうかなと思いつつ、俺は輪ゴムと画用紙の間にそれを挟んで、そのまま瑠音の家に向かった。