9. 叔父様がxxxされる理由
タイトルでネタバレすることを防止するために「xxx」にしています。
叔父様は侯爵家の持つ鉱山の産出量を若干少なめに報告していた。
ちょっとくらい、どの領地もやっているものだ。
もしかして私の父もやっていたことかもしれない。
それにもかかわらず、叔父様は血祭りにあげられようとしている。
美しいものが好きな叔父様。
美術品、アンティークの家具、流行りのフローリストが生けるフラワーアレンジメント。流行の最先端にいるデザイナーがつくるスリーピース、お母様のドレスやアクセサリー、小技の効いた牛革のローファー、こういったものは途方もなくお金がかかるのだ。
カートライト侯爵家は裕福だけど、シーズン毎に全てを買い替えるような余裕はない。だけど叔父様はそうしたかった。だから彼なりにお金を稼いだ。
まず叔父様がやったことは、他領と隣接している土地での消費税の値下げ。
人々は住民票を登録している領地でのみ商売をすることが許可されており、他領での商売は禁止されている。
しかしマーケットでは住民票を確認することなく屋台等を出すことができる。
その結果、カートライト侯爵領で消費税削減を導入した土地でのマーケット全体の売り上げが著しく向上した。
つまり、他領から人々が商品を売りに来ていたのである。
叔父様もそれを狙って他領と隣接する地区だけで消費税を削減したのだ。
そしてこれは平民たちに歓迎され、叔父様は一気に人気の領主となった。
結局、周りの領主から文句を言われて一定地区での消費税削減政策は止めることとなったが、次に叔父様が行ったのが、イミテーションアクセサリー事業だ。
審美眼に優れている叔父様がプロモートするイミテーションの宝石は、プロがルーペを使ってやっと偽物と判断できるレベルの素晴らしい出来映えだった。
流行の最先端を形づくるデザイナーたちのアシスタントをスカウトし、デザイン料のコストを抑える。
ネックレスの鎖やリングの土台には18金を使用することで、かなり品のよいアクセサリーが出来上がった。
下位貴族や裕福な平民に爆発的に売れた一方で、ジュエリーやドレスで品位を示していた高位貴族には疎まれることになった。
叔父様の行ったことは法律違反ではない。
しかし、これまで維持されていた高位貴族優位の身分社会に変革という新しい風を吹き込んでしまったのだ。
第一王子で王太子に指名されることがほぼ確定しているヘンリー殿下からすると、きっと叔父様は目の上のたんこぶのような人なのだろう。
多分、世の中のあり方から考えると、ヘンリー殿下より叔父様の方が多くの人の幸せに貢献しているという意味で、価値のある人なのだろう。
しかし、そんなことは知ったことではない。
私にとって叔父様は変態で、私を苦しめる人。
ヘンリー殿下の支配下に入って何を求められるのかわからないけど、叔父様に手籠にされるより多分マシだろう。
そもそも私に選択肢などない。
あの話を聞いて断るということは、私の命がないことを意味していた。
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ヘンリー殿下に要求されたことは、叔父様の執務室に裏帳簿を「残してくること」であった。
つまり、叔父様は裏帳簿など作っていない。
作っているかもしれないが、コノ裏帳簿ではない。
棚に滑り込ませるだけだと怪しいので、金庫に入れてこいとのお達しである。
私のやることは、金庫の番号を知ること、金庫に近づくこと。
なかなかハードゲームである。