7. 王子様のご提案
「生徒会なんてありましたっけ?」
「生徒会という名の王子専属先鋭隊だね」
「はぁ…」
「君は公務員になるために勉強しているじゃないか。専属先鋭隊に入れば、試験は有利になるよ」
「どのように?」
「…つまり、僕が採用するってことだよ」
ヘンリー殿下はニコリと微笑む。
ヘンリー殿下は第一王子でそれなりの公務を捌いている。
王子なので何かに特化した専門性はなく、いささか何でも屋のようなところはありそうだが、一省庁の役割を果たす組織を配下に置いているのは容易に想像がつく。
そこに採用してもらえるのであれば悪くない話だ。
しかし、貴族というのは利用するだけ利用して捨て置くことはザラだ。
「それは何年度の試験の話でしょうか?」
用心深い私にヘンリー殿下は苦笑いする。
「君が望むのであれば本年度でもいいよ。この段階で仮採用を提案しよう。その分働いてもらうけどね」
アンジェラは顔が興奮で熱くなるのを感じたが、冷静に見えるように努めた。
詳しい話を聞くというのは、相手が王族であれば話を受けるというのも同然だ。
身分社会のこの世の中、こちらが断ることができるのは、王子サマが「提案」している今の段階だけ。
これ以上進むのであれば、どんな条件でも受け入れなければならない。
結局のところ、王子サマの提案は、カートライト侯爵家から早く自由になる代わりに、王子サマの支配下に入れというものだ。
この王子サマがどこまで私の事情を知っているのかわからないけど、足元を見られているのは確か。
断らない方が得策かも。
「具体的なお話をお聞かせいただけますと幸いです」
というわけで、私はお昼休みに再び王子様の執務室にやってきた。
王子様の側近と思われる方に案内されて、誰にも知られずにやって来れた。
レティシアも知らないだろう。
「よかった、来てくれて」
黄金の髪を神々しく輝かせて、美しい完璧な笑顔でヘンリー殿下は私に笑いかける。
よかったも何も、側近の方が連れてきたのだけど。
私は恭しくカーテシーをする。
「さ、かけて。堅苦しいのは無しで。」
私はほんの少し肩の力を抜いたように見せかけて、本当のところは爪の先まで神経を集中させて、不敬のないよう、粗相のないよう、王子様に貴族的な笑みを見せた。
「お招きをありがとうございます、ヘンリー殿下」
ヘンリー王子は唇を左側だけあげて、右眉だけほんの少し下げるという器用な表情で言う。
「僕は君に素直でいてほしいよ。僕もそうだから」
「私は素直なタチでございます」
私は笑みを深くする。
「それはよかった」
ヘンリー殿下も笑みを深くする。
「君にお願いしたいことを言う前に確認したいんだけど、君はカートライト侯爵家をどう思っているの?侯爵家から自由になりたいんだろう?令嬢で試験を受ける人たちは家に問題アリだからね」
「カートライト侯爵家に問題があるかはわかりかねますが、私は自立したいと考えています」
念のために用心深く答えておく。
「うーん、素直になって欲しいんだけどね。そこのところどうなの?伯父さんとの関係は良好?」
「家では良くして下さっています」
「君の叔父さんは、何であの変なデマを放置しているの?」
「デマ、と言ってくださるのですか?」
「デマだと思う理由が何点かある。第一に、君は公務員試験の勉強をしている。男性に依存するのではなく、自立しようとしているように見える」
私は少し嬉しくなった。
そこを見てくれてる人がいるとは・・・