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4話 勇者パーティ崩壊の予言【ヒロイン視点】

「なんだ、その瞳の色は!!」

「まさかあなたは魔族なのですか!? ナハトとの遭遇(エンカウント)もあなたの仕業?」

「うちに近寄るな。汚らわしい魔族もどき!」


 迷宮(ダンジョン)――ワルプルギス大幽林の奥深く、とある休憩地点(セーフティ・ポイント)

 レイドボス、暗幕(あんまく)のナハトとの遭遇(エンカウント)によるパーティ全滅の危機をなんとか乗り切った直後。

 わたしはパーティメンバーからの罵声を一身に浴びていた。


(ほら、こうなった。やっぱりパーティになんて入るんじゃなかった)


 わたしは心の中でひとつグチをつぶやいて、目の前でわたしを口汚く罵るパーティメンバーに目を向けた。

 

 ちなみにこの場にさっきわたしと共闘したニコはいない。彼はパーティリーダーの命令を受けて、一足先に迷宮(ダンジョン)の出口へと向かっていた。


(一応、最低限の反論はさせてもらおう)


「……わたしは必要な索敵はしていましたし、名を持つ魔族(レイドボス)との遭遇(エンカウント)の危険性は何度も忠告していたはずです」

「黙れ! この僕に意見をするなっ!」


 パーティリーダーの青年が大声で叫ぶ。確かラインハルトとかいったか? さっきまでの気取った紳士面とはまるで別人みたいだなと思う。馴れ馴れしく私の体をベタベタと触ってきて、正直気色が悪かった。


 彼の取り巻きたち――

 魔術師(ウィザード)聖職者(プリースト)――いずれも興味がないので名前までは覚えていなかったが。彼女たちもわたしに向かって非難の声を上げてくる。


「さっきから言い訳ばっかり。少しくらいは反省の色を見せたらどうですの?」

「そもそもナハトの習性をもっと早く教えてくれれば、こんなことにならなかったろ!? なんのための【魔族知識】だよ バーカ」

「耳を貸さなかったのはアナタたちですよね?」

「うっせーな! 黙れよテメー!」


(ああもう、面倒臭い)


「こんな致命的失敗(ファンブル)をしでかしておいて、僕の『青の一党(ブラウ・ファミリア)』にいられると思うなよ」


 勇者さまは顔をひきつらせてそう宣言したが、わたしにとっては、どうでもいいことだった。


 そもそも、ちょっとした偶然と気まぐれでこのパーティに加入しただけ。長く滞在できるとは思っていなかった。

 赤い瞳のことがバレればそれまでだと思っていたし、瞳の色のことで、()()()()()()を受けることにも慣れっこだ。


 それに仮にも王都エルミアに名だたるSランクパーティの実態がこの程度の実力だったことに、わたしは失望していた。


 バカの一つ覚えで聖剣を振り回して敵に突っ込んでいく勇者さま。

 魔力の温存をまるで考えずに燃費の悪い最上級魔法を連発する魔術師(ウィザード)

 負傷者の傷を癒すという本来の自分の役割(ロール)を忘れて、攻撃的な奇跡ばかり使う聖職者(プリースト)


 たしかに個人のスキルや武器は強力かもしれない。だけど、連携も戦術もまるでなっていない、スキル頼りの幼稚なパワープレイ。

 これなら足を引っ張られない分、単独(ソロ)で動いた方がまだマシだ。


(そうだな……唯一残念だと思うことがあるとすれば……)

 

 このパーティで支給される回復薬(ポーション)の品質は本当に素晴らしかった。

 あれだけ高品質な回復薬(ポーション)を使い放題だなんて、そこだけは恵まれた環境だったと思う。


 錬金術師(アルケミスト)ニコ・フラメル。

 

 ナハトとの戦いで見せた土壇場(どたんば)胆力(たんりょく)も見事なものだったが、彼が錬成したアイテム一つとっても、彼が持つ高度な技術を物語っている。


 でも、それだけだった。

 こんなパーティに未練はなかった。

 また、一人(ソロ)に戻るだけ。


***


 三日後に開催されたわたしの追放会議。

 ラインハルトの筋書き通り進むと思っていたら、思わぬ横槍が入った。


 他のメンバーがラインハルトに同調する中、ニコだけがわたしの追放に異議を唱えたのだ。


「瞳の色をそんな迷信と結びつけて、それでその人を評価するなんて、そんなのはただの偏見だ。愚者(バカ)のすることだ!」


 彼の声が会議室に響く。温厚そうな印象だけど、こんな風に感情をむき出しにして怒るんだなと思う。

 そう思ってから、彼は自分のために怒ってくれているのに我ながら随分と他人事(ひとごと)だなと、ちょっぴり自分がイヤになった。


 正直いって、わたしには彼の意図がまったく理解できなかったのだ。

 だって、わたしのことをかばってもなんのメリットもない。

 それどころか結局、彼はわたしのことをかばったせいでラインハルトの怒りを買って、道連れでパーティを追放されてしまった。


 ワケが分からない。

 お人好しなのか、それともただのマヌケなのか。


 だけど、わたしはこれまでこんな人に出会ったことはなかった。

 わたしはこの赤い瞳のせいで、ずっと一人で生きてきた。


 物心つく前に、家族はわたしのことを孤児院に預けてどこかへ消えてしまった。

 孤児院でも周囲から疎まれて、嫌われ続けた。

 狩人(ハンター)という職業(ジョブ)を選んだのも、この世界で、できるだけ他人と関わらないで生きるために一番都合の良い職業(ジョブ)だったからだ。


 わたしの世界はいつも独り。


 でもそれは仕方がない。わたしの瞳は忌まわしき赤。赤い月(アナトリア)の色なのだから。


 なのに、この錬金術師(アルケミスト)は――そんなことまるで気にしていないように、わたしの世界にズケズケと入ってきた。

 わたしの赤い瞳を見て、あろうことかキレイだと言った。


(意味不明だ――)


 でも、理解できないからこそ、つい興味がわいた。

 この人のことをもっと知りたいと思った。


 追いかけるべきだ。きっと、この人とこのまま別れてしまったら、わたしは後悔する。


 そんな直感がわたしの体を動かす。

 ニコの後を追いかけようと会議室の扉に手をかけた。


(そうだ、一言だけ――最後に)


 わたしは振り返り、ラインハルトたちを見据えた。


「なんだ、貴様もとっとと失せろ」

「質問をしてもいいですか?」

「質問だと?」


 わたしの言葉を受けて、ラインハルトの眉がピクリと動く。


「アナタ達は、本当にニコ・フラメルをただの錬金術師(アルケミスト)だと思っているのですか?」

「はあ? どーいうイミ?」


 リリアンが眉をひそめた。


「言葉通りの意味です。最後にそれだけ聞かせてくれませんか?」


 ラインハルトは憮然と私の言葉を受け止めた後、ゆっくりと口を開いた。


「ただの錬金術師(アルケミスト)ではないな」

「それじゃあ――」

「さっき僕が言った言葉を聞いていなかったのか? 代わりなんていくらでもいる。ヤツはただの雑用係――いや、今となっては二流以下のゴミだ。」


 ラインハルトはゆがんだ笑顔を口元に浮かべて、そう吐き捨てた。


「……そうですか、よくわかりました」

「なんだ赤目持ち。何が言いたい?」

「いえ、なんの心置きもなく、このパーティから去れると思っただけです」

「なんだと……?」


 ラインハルトの顔つきが険しくなる。


「一つ、私から忠告です。早々にSランクの看板は下げた方が賢明です」

「なにぃ?」


 ラインハルトは凄みをきかせてにらみつけた。

 そんな振る舞いがあまりに滑稽(こっけい)で、思わずわたしの口元から笑みがこぼれてしまった。


 個々のスキルに頼り、押し攻めることしか知らない戦法。

 闇雲に放たれる強力なスキル。その代償として、いたずらに浪費される魔力。

 そんな幼稚なパーティをかろうじてSランクパーティたらしめていたものが果たして何だったのか。


 彼らはまるで気づいていないのだ。このイビツなパーティを支えていた、大いなる屋台骨を、たった今、愚かにも自ずから手放してしまったことに。



「このパーティに未来(さき)はない」



 わたしはそれだけ言い残し、会議室を後にした。

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