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115話 仕上げの甘々デート おかわり!

「あの――すいません、こんなに買ってもらえるなんて、てっきり一着だけだと思っていました……」


 洋服屋を出た俺とミステルは、大きな紙袋を一つずつ持ちながら歩いていた。

 

 あの後俺はミステルに、試着した服を全部買ってあげることを提案した。

 当然のことながら彼女は遠慮してなかなか首を縦に降らない。結局しばらく押し問答をした後、俺に押し切られる形でなし崩しに了承してくれたのだ。


 だけど、やっぱりまだ申し訳なさが残っているようで、ミステルはさっきからずっと恐縮している様子だ。


「気にしないで。俺がしたくてした事だから――」

「でも、これじゃあ申し訳なさすぎます。わたしばっかりがニコから貰っていて……」

「えっと、それは――」


 ミステルは申し訳なさそうな表情で俯く。

 俺はどう返事をしていいか分からず、返す言葉に詰まってしまった。

 彼女に何かプレゼントをしたいと思ったのは自分の意志だが、そのことで彼女を恐縮しきりにさせてしまうのは、自分が意図したところではない。


「その――正直俺も浮かれてるんだ」

「え――?」

「俺にとってミステルは初めての――その、恋人だから。恥ずかしながら、こんな風に異性にプレゼントするのも初めてで。だからなんというか、もしかしたら、やり過ぎちゃってるところもあるかもしれないけど――」


 色々と考えてから、結局、自分の胸中を偽ることなく伝えることにした。


「だけど、その――ミステルに喜んでほしいだけだから。それだけは信じて。それで、俺のしたことが本当は嫌だったり、迷惑だったりしたら、そのときは言ってほしい」


 そう言って俺は小さく頭を下げる。


「い、嫌だなんて! そんなことないですよ! 嬉しいんです。すごく嬉しいんですよ」


 慌てたようにミステルが声を上げた。


「その――わかりました。この洋服はありがたく受け取らせていただきます。大切にしますね」


 そう言って、彼女はぎこちなく微笑む。

 

「うん――ありがとう」

 

 彼女の笑顔を見てほっとした気持ちになった。

 よかった。これで少しは気が楽になるかな……


「ふふ――初めてなんですね」

「え?」

「その、ニコの恋人は――わたしが」


 不意にミステルが小さく笑った。そしてどこか嬉しげな口調で呟く。


「あ、う、うん――」

「意外です。ニコは優しいから、絶対にモテるのに」

「そんなことないよ」

「そんなことあるんです」


 ミステルはそうハッキリ断言した後、何やら安心したような顔をして、小声で呟いた。

 

「――でも、ふふ、よかった……」

「ん? 何が?」

「いえ、なんでもありません。そうだ――お返しにわたしもニコに何かプレゼントをしたいです!」

 

 ミステルは気を取り直したかのように明るい調子で言う。


「俺へのプレゼント?」

「はい、何か欲しいものはありませんか?」

「欲しいもの、欲しいものねぇ――」


 ミステルの問いかけを受けて、俺は少し目線を宙に浮かべて考え込む。

 

 自分の欲しいもの、欲しいもの……


「えっと……錬成符の在庫(ストック)が少なくなってきたから、買い足そうと思っていたかな。あとは、そろそろ本格的にハーブの栽培に手を出そうと思っていて、ハーブの種とか園芸グッズとか……」


 パッと頭に浮かんだものをミステルに伝えてみる。

 すると彼女は少し呆れたような表情を浮かべた。

 

「あの……そういう実用品もいいのですが、その、女の子からのプレゼントとして受け取って喜ぶものはないんですか?」

「女の子からもらって喜ぶもの……」 


 はて――

 

 俺は再び思考の海に沈む。

 プレゼントとして定番なのはやっぱり装飾品だろうか。

 だけど、俺はアクセサリー系には正直あんまり興味がなかったりする。

 魔法器具(アーティファクト)なんかだったら興味はあったりするけど、魔力が低い俺に使いこなせるとは思えない。


 うーん、装飾品、俺が欲しい装飾品。

 えーと……


「そうだ。手袋が欲しいかな。前使っていたのは炎の短剣(ファイアブランド)の炎でダメにしちゃったから、防火機能が優れているやつ――」

「それも実用品のような気が――」


 ミステル更に呆れたようにひとつ呟いてから。


「ふぅ、でも、ニコらしいです」


 そう言って可笑しそうに微笑んだ。


「わかりました。今言ったもの全部、わたしがプレゼントします」

「え、いいの?」

「もちろんです。あなたから貰ってばかりじゃなくて、わたしもあなたに何かしてあげたいんです」

「錬成符とか買うとすっごい高いんだけど――」

「値段のことはいいっこなしです。大丈夫、わたしの懐も今はとっても暖かいんですから」

「ありがとう。じゃあお言葉に甘えるよ」

 

 俺は素直に礼を言った。

 

「はい。任せてください。せっかくだから手袋は一番いいものを――一生使えるくらいのものを探しましょうね」

 

 ミステルは自信満々にそう言い切った。


「それじゃあニコ、一緒に行きましょう」


 そう言って彼女は俺に手を差し出す。

 俺はその手を取って、彼女と二人で歩き出した。

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