99話 デートは続くよどこまでも
「これ全部髪飾りなんですね。すごい種類ですね……」
ミステルは陳列された数々の装飾品を見て、感心するように呟いた。
確かに、俺から見てもすごい数だ。
色とりどりのリボンや、花をあしらったもの、動物のモチーフがついたものや、果ては宝石が散りばめられた高価そうなものまで、様々な種類の髪飾りが、所狭しと並べられている。
「その、せっかくの機会だしさ、もしミステルが気に入ったものがあったら、俺がプレゼントするよ」
「え……?」
俺の言葉に、ミステルは一瞬きょとんとした後、大きく首を振った。
「そ、そんな悪いですよ!」
「ううん、今日の記念に、俺がプレゼントしたいなと思ったんだ。だから遠慮しないで。もちろんアクセサリーにまったく興味がなかったら話は別だけど……」
俺は照れ臭さで頭を掻きながら言葉を続ける。
「その、今日はせっかく髪型もいつもと違う風にアレンジしてるしさ。その髪型に似合う髪飾りなんかどうかなと思って」
店員からの受け売りをあたかも自分の思いつきのように話す俺。
……我ながら情けない限りだ。
「あ……えっと……」
ところが、そんな俺の言葉を受けて、ミステルは自分の髪を触りながら、わかりやすい恥じらいの表情を見せた。
「ありがとうございます……それじゃあ、お言葉に甘えてもいいですか?」
「うん、もちろん!」
俺はそう言って微笑みかける。
すると、ミステルは嬉しそうな表情を浮かべて、店内を物色し始めた。
よし、いい感じだ。
店員さんありがとう!
内心ガッツポーズをしながら、俺はその様子を見守った。
それからのミステルは、先ほどまでの店内を冷やかす様子とは打って変わって、真剣そのものといった面持ちで、一つ一つの商品を手に取り吟味していく。
そして時折、こちらを向いて、「これはどうでしょうか?」とか、「これもかわいいかもです」などと意見を求めてきた。
俺はその都度、「似合ってる」とか「可愛いと思う」といった答えを返していく。
別に当たり障りのない答えを返したわけじゃない。どれも本当に彼女に似合っているし、可愛いのだからしょうがない。
率直な感想を伝えた結果、月並みな返答になってしまっただけだ。
しかし、それでも彼女は満足げに笑ってくれていたから、それでいいだろう。
「髪飾り以外も見ていいですか?」
「もちろん」
俺が答えると、ミステルは店内をぐるりと一周見渡してから、髪飾り以外の小物をチェックし始めた。
ペンダントや指輪など、気になったものを、次々に手に取って確認しているようだ。
ここまで真剣になってもらえると、プレゼントを贈る側としても嬉しいものだ。
彼女が納得いく買い物が出来るようにと、俺は彼女の隣に立ち、じっとその様子を見守ることにした。
それからたっぷり三〇分は経っただろうか。
ようやくミステルは一つの品を選び取ったようで、それを両手で持ち上げると、恥ずかしそうに頬を赤らめながら、俺に見せてくれた。
それは、青い花を模した髪飾りだった。
五つに別れた花弁の中央には小さな黄色の宝石があしらわれており、とても可愛らしいけど、少し儚げな印象を受ける。
「これが気に入ったの?」
俺が尋ねると、ミステルは小さく首肯した。
「この髪飾りのデザイン、たぶん『ミオスティス』だと思うんです」
「ミオスティス……?」
「はい、わたしの一番好きな花です」
ミオスティス。
あいにく花の名前にはあまり明るくない。初めて聞く名前だった。
俺の反応を見て察したのか、ミステルはすぐに説明してくれた。
「こっちの大陸ではあまり見ないですけれど、わたしの故郷ではよく見かけました。春になると青い小さな花が一斉に咲いて、辺り一面が、まるで青い絨毯みたいになるんです」
そう言ってミステルは目を細める。
きっとその光景を思い出しているんだろう。
「実はわたしの名前もこの花から取ってるんですよ。故郷ではミオスティスは、『ミステルの花』って呼ばれていまして――」
「へぇ、素敵な名前の由来だね」
「ふふっ、ありがとうございます」
俺の言葉に、ミステルはとても嬉しそうに微笑む。
俺は改めて髪飾りに目を向ける。
青く可憐な姿はとても綺麗だし、ミステルのイメージにもぴったりだ。
彼女のルーツに繋がっているというのなら、尚更プレゼントするにふさわしい一品だと思えた。
「よし、じゃあこれにしよう。お会計してくるからちょっと待ってて」
「わかりました。お願いします」
俺はミステルからミオスティスの髪飾りを受け取り、会計へと向かった。
***
「ありがとうございます。こちらラッピングは如何しますか?」
店員に尋ねられて俺は少し考え込む。
髪飾りなんだから、購入した後すぐに身につけることができる。だから包装は不要といえば不要だ。
だけど、せっかくのミステルへの初めてのプレゼントなんだ。きちんと包んでもらった方がいいんじゃないか。
そんなことを考えつつ、ちらりとミステルの方を見ると、彼女は嬉しそうな表情で俺のことを見つめていた。
うん。決めた。
せっかくの贈り物なんだし、このまま渡すよりちゃんとした状態で渡そう。
きちんとラッピングしてもらって。
そうだな、渡す場所は噴水広場がいい。カップルにおすすめのスポットらしいし、きっと雰囲気もいいことだろう。
少しかしこまった雰囲気でプレゼントしてあげたら、喜んでくれるかもしれない。
俺は彼女をもっと喜ばせてあげたかった。
「それじゃあ、ラッピングをお願いします」
「リボンの色はどうしますか?」
「じゃあ……水色で」
俺の言葉に、店員は笑顔を浮かべて丁寧にリボンをかけていく。そしてリボンの両端を持ってくるりと巻いた後、「どうぞ」と言って手渡してきた。
俺はそれを受け取り、軽く頭を下げて会計の場を後にした。
「お待たせミステル。それじゃあ行こうか」
「はい」
こうしてミステルへのプレゼント――ミオスティスの髪飾りを片手に、俺たちはアクセサリーショップを後にした。
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