98話 二人でいればそれがデート
「珈琲おいしかったね」
「ええ、素敵なお店でした」
喫茶黒猫を後にして、俺とミステルは再び目抜き通りを歩いていた。
結局、喫茶店ではオリジナルブレンドの珈琲とオーナーサービスのケーキを堪能し、たっぷり一時間以上は居座ってしまった。
それだけの価値はある素晴らしい店だった。いつか機会があれば、また二人で行きたいものだ。
ちなみにミステルはお土産にコーヒー豆を買っていったようだ。今度アトリエで淹れてくれるかもしれない。楽しみにしておこう。
さてと。
俺は懐の懐中時計を開き、現在の時間を確認する。
現在の時間は十二時半を少し過ぎた辺り。
お昼時ではあったけれど、喫茶店で小腹を満たしたのでそれほどお腹は空いていない。
ミステルも同様のようだった。
「ちょっとガイドマップを確認していい?」
「はい、わかりました」
俺たちは通行人の邪魔にならないように、道の端に寄ってから、エルミアのガイドマップとトゥーリアの残してくれたメモに目を通した。
この辺りは、街の入り口とエルミア城を繋ぐ目抜き通りの丁度中間あたりの地点になる。
ここからもう少し先に行くと大きな広場に出るようだ。
ガイドマップの該当の頁を開くと、ご丁寧に「カップルにおすすめ」というところに強調線が引かれていた。
その広場にはこの街の名物である大噴水があるらしく、多くの観光客が足を運ぶ人気スポットになっているとのことだ。
また、トゥーリアの「おすすめのお店リスト」に目を通すと、ここからほど近いところに、女性用装飾品の専門店があるようだ。
店名の下にコメ書きがされていて、「ミステルに似合うアクセがあるかも♪」と書かれていた。
そのコメントをみて思わず笑ってしまう。
トゥーリアは俺たちのために、どれだけの時間をかけて下調べしてくれたんだろう。
彼女の性格的に、半分以上は自分の楽しみのためだろうけれど、それでも彼女の気遣いに感謝の念が湧き上がってくる。
そうだな。
せっかくミステルと初めてのデートなのだ。
記念になにか彼女にプレゼントしてあげるのもいいかもしれない。
「ミステル。ここから少し行ったところにお洒落なアクセサリーショップがあるんだって。せっかくだからちょっと見てみない?」
「アクセサリーですか。わかりました」
俺の提案にミステルは頷いた。
***
それからしばらく歩いたところで、目的の店を見つけた。
店の外観は白塗りの二階建てで、三角屋根の可愛らしい外観だ。
入り口の上の壁には小さな木看板がかけてあって、そこには『アクセサリー&ジュエリー・ティアストーン』と書かれている。
ショーウィンドウ越しに見える店内には、可愛らしいアクセサリーが多数展示されているのが見えた。
「入ってみようか」
「はい」
一歩店内に入ると、ふわりといい香りが漂ってきた。香水のような甘ったるい匂いではなく、爽やかな柑橘系の香りだ。アロマか何かを焚いているのだろう。
内装はとても上品でかわいらしい雰囲気だ。
天井からはランプ型の照明器具がいくつかかけられていて、室内はとても明るい。
ランプの放つ灯を受けて、店内のアクセサリーが煌びやかに輝いていた。
客層も割と幅広く、若い女性を中心に、老若男女様々な人たちが訪れており、なかなか賑わっている様子だ。
ミステルは興味深げな様子で、店内をキョロキョロと見回している。
とはいえ先程の喫茶店内で見せたような興奮した様子は見られない。
好きなものを見た反応というより、どちらかというと、新しいものを見たときの物珍しげな反応といった様子だった。
「ミステル、こういうお店は初めて?」
「はい……正直、初めて入ります。あまりアクセサリーを身につける機会もなくて……」
そういえばミステルがアクセサリーの類いを身につけている姿を、俺はあまり見たことがなかった。
女性といえば全員、そういう綺麗な物に目がないものかと思っていたけど、冷静に考えると彼女が興味があるかは分からなかった。
むしろ、今日の装いにもかなり慣れていない様子だったし、お洒落には無頓着なほうかもしれない。
もしかしてお店の選択をミスったかな。
当然、俺は女性もののアクセサリーにはまったくもって疎かった。
店内に並べられた煌びやかな装飾品たちもどういう用途なのかさっぱりわからない。
……よし、こういう時は潔く店員さんに聞こう。
俺は近くに歩いていた若い店員さんを捕まえて、ミステルに聞こえないようにこっそりと耳打ちする。
「すみません、今日初めてここにきたんですけど、この子へのプレゼントを選びたいのですが……」
「かしこまりました。彼女さんの好みとかありますか?」
「えーっと、恥ずかしながら、あまりよくわからなくて。そもそも普段あまりアクセサリーを身につけるタイプでもなくて。なにかオススメがあれば……」
「なるほど……」
俺が右も左もわからない状況を素直に打ち明けると、店員さんは少し思案した様子で顔を伏せた後、すぐにとあるコーナーに俺を案内してくれた。
「それでしたら髪飾りはいかがでしょう。彼女さん、素敵なヘアアレンジをしているようですし、それに似合う髪飾りをプレゼントしてあげれば喜ばれるんじゃないでしょうか」
そういって店員は微笑む。
「なるほど……悪くないかも」
さすがプロだ。的確な助言をしてくれた。
俺は店員に一礼した後、ミステルのところに戻り、店員に教えてもらった髪飾りが展示されている商品棚の方に誘導していった。
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