10話 聖剣に選ばれた男【勇者視点】
「マーガレット、リリアン。今日はワルプルギス大幽林に再アタックしよう!」
青の一党の本拠地にて、ラインハルトは仲間に向かって意気揚々と提案した。
「前回、魔族もどきと無能な錬金術師に足を引っ張られて失敗してしまったからね。今回は少数精鋭、僕たち三人だけでアタックだ。大丈夫、前回の戦いでナハトの行動パターンはカンペキに把握できた。万が一ヤツと遭遇しても前回のような敗北はない」
「はい、ラインハルト様」
「おっけー! うちらの実力を見せてやろーよ!」
仲間たちはやる気満々でラインハルトの言葉に同意する。
(僕に対する信頼をひしひしと感じる。フフフ、これが本当の仲間なのだよ)
『俺はキミたちを仲間だと思っていた』
ラインハルトは、ニコ・フラメルを追放されたときに言われた言葉を思い出して思わず笑ってしまう。
(バカが。雑用係が勘違いしやがって)
「それじゃあ皆、さっそく出発だ」
「おー!」
***
迷宮探索は順調そのものだった。
途中何度も魔族と遭遇したが、あっという間にラインハルトが聖剣をふるって撃退していく。
「さすがラインハルト様ですわ!」
「いやーんカッコイイ! ラインハルト!」
魔族を倒すたびに、マーガレットとリリアンの黄色い声援が飛ぶ。その声がラインハルトの自尊心を満たしていく。
(フハハハハ、みたか僕の力を! もっと褒めてくれ!)
聖剣エクスカリバー。
ユニークスキルで生み出された、世界でただ一つ、ラインハルトだけが振るうことができる固有武器。
この剣はどんな強力な魔族であっても、それが魔族である限り一刀両断することができる能力を持つ。
それは誇張ではない。相手が魔族である限り、どれだけ防御力が高かろうが、強力な防御スキルを持とうが関係ない。まるでナイフでケーキを切り分けるみたいにスッパリと切断できるのだ。
(フン、ナハトのときだって、不意打ちさえなければ簡単に倒せたんだよ)
三年前、ラインハルトが冒険者としてうだつの上がらない日々を送っていたときに、このユニークスキルは発現した。
喜びで打ち震えたのを今でも鮮明に覚えている。自分はこの世界の祝福を受けた、選ばれし人間だったのだから。
(僕は勇者ラインハルトだ! 僕をほめろ! たたえろ! 賞賛しろ!)
それからラインハルトは青の一党を結成した。
ラインハルトの元にどんどん人が集まり、いつしか青の一党は王都エルミアを代表するSランクパーティまで成長していた。
ニコ・フラメルと出会ったのはそんなときだった。
パーティの規模が大きくなるにつれて、パーティ運営上の雑務が増えてきて、それらをこなせる庶務担当が必要になってきた頃だった。
同時に探索用アイテムの常備も急がれていた。
青の一党に寄せられる依頼は、他のパーティの手に負えないような強力な魔族の討伐がメイン。
聖剣の力に守られたラインハルト自身は別として、他のパーティメンバーは時には傷を負うこともある。
回復薬をはじめとした探索用アイテムの確保が、安定した依頼成功のための緊急課題になっていた。
そんな条件を冒険者ギルドに伝えて紹介されたのが錬金術師のニコ・フラメルだった。
(もともとムシの好かない野郎だったんだ。ただの支援職のくせに、いちいち僕に意見してきやがって)
ラインハルトはニコから受けた注意を思い出す。
スキルの浪費を控えること。
アイテムの在庫には常に気を使うこと。
迷宮探索前には必ずマップを準備すること。
マッピングされていないエリアでの迂闊な探索は行わないこと。
仲間や依頼人相手に横柄な態度はとらないこと。
(ウゼエ。そんなことは二流の冒険者が気にすることなんだよ。僕には聖剣があるんだから。この力があれば他に何もいらないんだよ)
当然ながらそんな忠告にラインハルトは耳を貸さない。
彼はニコ・フラメルのことを便利のいい道具として酷使し続けた。
(黙って僕のいうことを聞き続けていれば、追放されることもなかったんだ。バカなヤツめ)
本質的にラインハルトは他者の力を必要としていなかったのだ。
それは仲間であるマーガレットやリリアンでさえも同じ。
彼女たちは強力なスキルを持つ一流の冒険者だが、聖剣を持つラインハルトにとってそんなことはどうでもいいのだ。
彼にとって仲間とは。
女であって。
優れた美貌を持って。
自分を全肯定して、チヤホヤしてくれて、気持ちよくさせてくれて。
己の価値を高めるための付属品。
(それが、俺の隣に立つべき仲間の役目。その点あの魔族もどきは失格だったな)
それが聖剣に選ばれた勇者――ラインハルトという男だった。
作品を読んでいただき、ありがとうございます!
初めての戦闘シーンですが、いかがでしたでしょうか。
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