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ノケモノロック  作者: やしろ久真
第二章「ASAYAKE」

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第五十一話「ライバル」

「じゃあ、何から奢ってもらいましょうかねえ」

 サラはウキウキした足取りで俺たちの前を歩く。


「ちょっと? なにからって、そんなに沢山は予算がないからね?」

 確かに奢るつもりではいたけどさ。


 サラはランボーやスパコンの勢いに負けず劣らず、祭りを満喫していた。

「ウォォ! お化け屋敷があるぞォ! ゾンビを殲滅してやろうぜェ!」

「射的はワイに任せな。ヘッショきめてやんよ」

 男子のノリにも、サラはアハハと笑いながら着いていく。


「私、金魚すくいがいいな」


「金魚、すきなのか」

 俺は、無数の金魚たちが泳ぐ鮮やかな水槽を目を輝かせて覗き込むサラに尋ねる。

「うん。みんな模様が違っていて。ひらひら、自由気ままに泳いでる姿を見るのが好き。でも、金魚たちはちょっと可哀想だけどね。すぐ弱っちゃうし」

 少し、憂いげな表情をのぞかせるサラに俺は言う。


「まあ、そうだな。でも、たまには長生きするやつもいる。昔、うちで飼った金魚もお祭りで取ったやつだけど、10年ぐらい生きたし」

 昔、まだ幼稚園児ぐらいの俺がお祭りで手に入れた金魚を母と世話をしていた。

「へえ。そうなんだ。てかクチナシも金魚飼ってたとかなんか意外」

「そ、そう?」

「うん、そう」

 そんな会話をして、けれど結局金魚すくいはやらなかった。


「あ、じゃあさ。あれ買ってよ」

 サラが指さしたのは、お祭りの屋台の中に立ち並ぶお面屋だった。

 戦隊ヒーローやら、アニメのモンスターなどのお面が並んでいる。

「あんなのでいいのか?」

 子供ぐらいしかお面は買わないと思っていた俺は何の気もなく、そう言ってしまった。


「む、あんなのとは失礼な。お祭りと言えば、やっぱりこれでしょ」

 そういいながら、サラは狐の面を手に取った。

 白い肌に赤い線が入った狐の面は、能楽などに用いられている伝統的な形状のものだ。


 まあでも、確かにお祭りの代名詞と言えるかもしれないな。


「分かったよ。じゃ、これください」

 そういい、俺はお面のお代を支払った。


「ふふふ、似合う?」

 サラは楽しそうにお面を顔に被せる。

「ああ、化かされそうだ」

「……いや、この狐はお稲荷様だから、化かさないって」

 サラに突っ込まれてしまう。

 うーん、ランボーやスパコンと居る時は俺が一番マジメみたいなフリをしていたのに。


 一方、そのバカ二人ことスパコンとランボーはというと、型抜きをやりに人混みを突き進んでいた。

 その姿を遠くに見やる。


 俺たちも、そちらの方に向かおうと人混みに向いた時、見知った顔を見つけた。

 向こうもこちらに気がついたようで、ヒラリと手を振ってきた。


「朽林、お疲れ。あと、神宮寺さんも」

 柊木和希が、こちらに向かって歩いてきた。

 紅色の浴衣を身に纏い髪をアップにした柊木は、教室では大人しいというかあまり目立つ感じではないが、今日は華やかだった。

 

「こんにちは。柊木さん」

 さすがに柊木はサラを無視したりはしないものの、サラはクラスメイトに対しては微妙な反応をする。

 俺は2人の浴衣女子に囲まれ、なぜか気まずい気持ちになっていた。


「あ。変質者」


 その時、人混みの中から小柄な少女が顔を見せた。

 アリサは、真っ赤な髪に紺色の生地に桜色の花吹雪が描かれた浴衣を着ており、彼女は人が多いお祭り会場でもかなり目立っていた。

 その背後には、あの時楽器屋で一緒にいたキャップを被った女の子も居る。


 当のアリサは、俺のことを感情のこもらないまるでゴミを見るような目でみてくる。


「変質者?」

 その言葉に真っ先に反応したのは、サラであった。

 以前繁華街で遭遇した時には居なかったしな。


「そう。そこの彼。街でアタシをナンパしてきて、挙句の果てには手を握ろうとしてきたし」

「違う、絡まれてたのを逃してやろうと思っただけだ」

 流石に弁明しないと、傍のサラの視線が槍のように突き刺さってくる。


「……はーん。どうかしらね」

 半目のアリサは、なおも俺のことを睨み続ける。


「ま、まあまあ。……こっちが、私のバンドメンバーで、ギターボーカルの優木有紗(ゆうきありさ)。後ろにいるのがドラムの多村咲(たむらさき)。んで、こっちが私のクラスメイトの朽林と神宮寺さん」

 唯一全員と知り合いである柊木が、一同の紹介をする。

 柊木のバンドも、俺たちと同じスリーピースのようだ。


「どうも〜。可愛いお嬢ちゃんと、変質者くん? きーちゃんから話はきいてるよ」

 多村咲という女子は、浴衣にもかかわらず以前と同じように野球帽のようなキャップを被り、黒髪ボブの髪型からもボーイッシュな印象がある。


「変質者って……。ところで、きーちゃんっていうのは」

「ああ、カズキのこと」

 多村は柊木を指さしながらうなずく。


「カズキってなんか名前で呼ばれるのが嫌みたいなんだよねー」

 アリサは腕を組んでふてぶてしく言った。

 確かに、以前遭遇した時もそんなやり取りをしていた気がする。

「どうして名前で呼ばれるのが嫌なの?」

 サラは素直に質問した。


「だって……カズキってなんだか男の子っぽい名前じゃない。昔からそれでからかわれたりして」

 柊木は少し目線を地面に落とし、伏目がちに言った。

 まあ、名前でいじられるのって意外と嫌だったりするよな。

 自分じゃ変えようのないところでもあるし。


「でも、『和希』っていい名前だと思うけどな」


 平和を希む。それはまさしく彼女の在り方そのものだと思った。

 だから、俺は率直に思ったことを口に出していた。


「……そう?」


 一瞬、一同が静まり返り、柊木が無表情でポツリといった。

 微妙に気まずい空気が一同に流れる。

 あれ、俺なんか変なこと言ったか……?


「おーい、クチナシ。型抜きで三十円勝ったぞー!」

「ウォラァ! 失敗作喰いまくってやったぜェ」


 その時、バカ二人の叫び声がこちらに向かってきたので、一同はそちらを振り向く。

 俺は内心で二人に感謝する。


「ってなんだァ!? クチナシがハーレム状態になってやがる!」

「陰の者のくせに生意気だ」

 ランボーとスパコンは俺の状況に驚愕する。


「へ、変質者が増えた!?」

 アリサは現れた二人の野郎に犬歯をむき出しにする。

「う、うわー……元気がいいね」

「ハァ……」

 その様子に、多村とサラもあきれてしまう。 


「と、とりあえず紹介するね」

 柊木が面食らいながらも、一同を紹介した。


 

 一旦、話は落ち着き、お互いのバンドの状況の話となった。

 そこで、俺たちは今音源制作に取り組んだ話をした。


「へえー君らもネクスト・サンライズに応募するつもりなんだね」

 多村が俺たち「Noke monaural」の面々を品定めするように見ながら言った。


「君ら『も』ってことは」

 俺はその言葉を聞き逃さなかった。


「そ。アタシ達ももちろんエントリーするわ!」

 アリサが自信満々に叫ぶ。


「オウ! 望むところだぜェ」

 ランボーも対抗して大声を出す。


 まあ、考えてみれば当たり前か。

 地元の高校生でバンドをやっている人間なら、全員に応募資格がある。


「それじゃあ、お互いに今日のライブは予行演習ってことね! 対決よ!」

「アリサ、さすがに気が早いよ」

 いさむアリサを、柊木が静かになだめながらも、俺は対決という言葉にうなずいた。


 これは、どんなライバルが応募しているのかを知るいい機会だ。

 おそらく、霧島もネクスト・サンライズに応募する可能性が高いだろう。

 この先は、競い合う気持ちで演奏をしないと、俺の夢は実現しないんだ。


「じゃ、そろそろステージに移動するか」

 俺は時計を確認し、はやる気持ちのまま言った。


 

 

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