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ノケモノロック  作者: やしろ久真
第二章「ASAYAKE」

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第五十話「なんとも儚げでありながら華やかで」

 それから数日後、期末テストが執り行われた。


 結果は、……まあ、返却されるまで点数はわからないが、手ごたえとしてはまあまあ良かった。

 高校生になってから、一番まともな点数が取れそうである。

 それは間違いなく、サラの教育のたまものであろう。


「なあ、せっかくだし打ち上げしようぜ。『藤岡屋、』でトッピング全部乗せチャレンジとかどうだ」

 テスト終わりの放課後、スパコンが暑苦しい顔で言ってきた。

 俺はカバンに筆記用具をしまいながらそれに応える。


「打ち上げはいいけど、こんな時までラーメンか……たまには別なことしよう」

 勉強を教えてくれたサラにも何かお礼はしたいし、家系ラーメンはまた別な機会ということで。


「あ、朽林。と、須原」

 その時、テストから解放されざわめく教室内で声をかけられた。

 振り向くと、柊木和希がこちらに歩みよってきた。

 

 余談だが、7月からの夏服である白いオーバーブラウスは柊木によく似合っている。

 

「二人も夏祭りのライブ出るの?」

 

 柊木は俺に尋ねた。

 そういえば、先日のジョニー同窓会ライブの本番前にベースを背負った柊木と会ったな。

 あの時は背負い投げとかいろいろあってちゃんと話せてなかったけど。


「いや、そもそも夏祭りライブって?」

「ああ、ほら。ジョニーも昔出たってあれだろ?」

 スパコンに言われて思い出した。


 この街で夏に行われるお祭り。その中で、イベント会場で開催されるカラオケ大会だっけか。

 ジョニーの話では結構ラフな感じのイベントだったが、近ごろは人気のライブイベントとなっていて、規模も大きくなっていたはずだ。


「その様子だと、知らなかったんだね。まだ参加できると思うけど」

「ああ。もしかして、柊木は出るの?」

 この間の……楽器屋でのアリサの歌を思い出す。

 柊木のレベルは知らないが、結構いい演奏をしそうだなと思った。


「うん。もし出るならと思って聞いただけ。じゃあね」

 そう言って、柊木は手を振り去っていった。


「なあ、スパコン。打ち上げ、夏祭りにしよう」

「おっ、いいぜ。焼きそば、タコ焼き、ベビーカステラ。なんでもいいぜ」

 食い物にしか興味が無いのかよ。と思いつつも、そこは俺も楽しみではある。


「んで、ライブも出るん?」

「ああ。ランボーにも伝えようぜ」

 そして、サラにも来てもらおう。


 テスト勉強のお返しということで、リンゴ飴くらいなら奢ろう。

 あと、ついでと言ってはアレだが。

 俺たちの新曲をライブで、初披露しよう。



 その週の週末。夏祭り会場は、人でごった返していた。

 地元の神社と隣接する自然公園で行われるこのお祭りは、長い歴史があり市民から親しまれている。


 今日は、生憎の曇天模様となっており、夕方には雨が降るかもしれないという予報だった。

 夏場の湿度が高い空気がジメっと張り付くが、それもまた夏らしい雰囲気だった。


 そして、一種の名物となっているのが素人参加型のカラオケ大会だ。

 ジョニーの話では、15年前はしょぼい大会だったようだが、今ではその人気が広まり、お祭りのメインイベントの一つになっている。


「本番は15時からだってよ。14時半には楽屋に集まれってさ。それまでなんか食いに行こうぜ」

「ヨッシャァ! 型抜きの失敗作喰いまくってやるぜェ!」

「……いや、それ食いもんじゃねぇだろ」

 俺たち、『Noke monaural』の面々は、それぞれ制服姿の趣が無い装いで、会場に来ていた。

 

 活気づくお祭り会場には、提灯の柔らかな灯りが揺れ、甘い匂いやらしょっぱい匂いやらが入り混じっている。

 浴衣姿の華やかな女性も多く、行きかう人々は皆楽しそうにはしゃいでいる。


「ウォォ! めんこいオナゴ共がうようよ居やがるぜェ!」

 ランボーは目を輝かせながら、辺りを見回した。

 ……もはやヤンキーでも何でもないよなその発言。


 けれど、言われて見れば、辺りを見渡す限り浴衣姿の女性たちが目に入る。

 しかも、祭りの空気のおかげなのか、はたまたメイクの賜物なのか、普段街中で見かけるよりも5割増しで美人が多く見える。


 いままさに、こちらの方向に歩いている女子なんかも、藍色の生地に大きく赤い花が彩られた浴衣を身に纏い、耳の上あたりには大きな花飾りが添えられている。

 淡い髪色が合わさり、その姿はなんとも儚げでありながら華やかで……って。

 よく見れば、見知った人物であった。


「うわー……せっかくのお祭りなのに制服って」


 神宮寺サラは、いつものように眉間にしわを寄せて俺たちの泥臭いお祭り装束を眺めた。

 失礼な。制服で夏祭りっつうのも、男共の青春には欠かせないだろ。たぶん。


「おお、姐御もよく似合ってるじゃねェか! ……えーっと、こういうのって、『孫というなの宝もの』っていうんだっけ」

「草。ランボーはバカだなぁ。『馬子にも衣裳』っていうんだろ。マゴしか合ってねぇじゃねえか」

 ランボーとスパコンはけらけら笑っているが……ちょっと、サラさんの目が笑ってないんですけど。


「誰が馬子よ……。あんたら……覚悟しときなさいよ」


「ひッ」

「じょ、冗談でしたー。ワロスワロス」

 

 まあ、バカ二人は放っておくとして。

 ランボーの言ってた大泉逸郎の『孫』じゃないけれども。

 ……なんでこんなに、可愛いのかよってな。

 

「……まあ、とりあえずブラブラ回ろうぜ」


 俺は、少し照れながら視線をそらし、祭りの中に歩みを進めた。

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