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ノケモノロック  作者: やしろ久真
第二章「ASAYAKE」

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第四十八話「ASAYAKE」

 そこからは、怒涛の日々だった。

 休止期間、なんていっちょ前なことを言う前にやることが沢山あるだろうと、僅か数週間前の自分たちに言ってやりたい。


 ランボーが作曲した『ASAYAKE』は俺とスパコン、そしてジョニーの助言も受けつつ、完成形になりつつあった。そこに、以前春藤祭で披露した『river side moon』を合わせてレコーディングをすることにした。


 ネクスト・サンライズに応募する音源を作る。

 それが目下の俺たちの目標だ。


 朝起きて、学校に行くまで。

 授業の合間の休み時間、昼休み。

 そして放課後の『しろっぷ』での練習に行くまで。

 夜就寝するまで。

 

 すべての時間に俺はイヤホンを耳にはめデモ音源を聞き込み、曲を体に叩き込んだ。

 そして、まだ良く出来そうなところを見つけては練習に取り組んだ。


 すべては、RISE・ALIVEに出場するため。

 アキラさんと同じステージに立つために。


 同窓会ライブから2週間ほど経った頃、俺たちはスタジオでのレコーディングを行うために集結した。

 場所は、例の霧島や剣崎先輩と入った繁華街のスタジオ『マグヌス』である。


 いつもとは違う、録音用の卓がある部屋をあらかじめ予約している。

 ちなみに、料金も高いのであまり長時間居るわけにはいかないのである。


「ウオォ! なんかコックピットみたいだなァ! トップガンみてェ! ケビン・コスナーじゃん!」

 大興奮するランボー。

 スパコンは「こいつ……動くぞ!」とか言ってツマミを捻ってる。

 ……喜んでもらえて何よりだ。

 

 録音用の卓は、ツマミやジャックが沢山並んだメカメカしい見た目の四角い箱状の機械であり、男子達の大好物である。

 機材がある部屋と、演奏する部屋が分かれていて、ガラス窓で区切られている。

 よくメイキング映像とかテレビで見る録音スタジオに、かくいう俺も興奮していた。


「おら、遊んでねぇで早く準備しろ。どうせ一発OKになんてならねぇから」

 アドバイザーとしてジョニーを呼んだが、もはやプロデューサーのような貫禄である。

 首にシャツの袖とか巻いちゃいそう。


 そんなこんなのやり取りを終え、俺たちはそれぞれ楽器を準備する。


「まずはドラムからだ」

 ジョニーの一言に、スパコンは答える。

「別々にとるん?」

「まあな。全員一発撮りも悪いわけじゃないが、普通は別で録音する。音源とするなら分けて取った方が、後の作業もしやすい」

 完全に素人の俺たちは、とりあえずジョニーに従うしかなかった。

 スパコンだけがブースに入り、俺たちは卓に座るジョニーの肩越しから様子を見守る。


 録音は、まあ当然のごとく、すんなりという訳はなかった。

 ジョニーの厳しい指導のもと、何度もリテイクを重ねる。

 時間も限られているため、演奏者はローテーションしながら録音を進めた。


 俺もランボーも、檄を飛ばされながらも、必死に演奏する。

 いざ、録音されていると思うと、なんだか普段のように弾けなくなってしまい、イージーミスを連発したりもした。


 俺は、初めてスタジオで人と合わせた時のことを思い出した。

 何事も経験か。

 もうあの時のように、すぐに挫けたりはしない。


 俺たちは歯を食いしばって、演奏を続けた。



「もう時間だな。とりあえず、今日のOKテイクをざっと重ねたから聞いてみるか」

 

 ジョニープロデューサーの一声に、正直俺たちはホットしていた。

 もう3人ともヘトヘトだ。

「ワイ、もう腕あがらない……」

「アア、なんか力んだのか、指先もいてェ」

 スパコンとランボーも、俺と同じように初めての録音に苦戦したようだ。

 ジョニーが操作すると、音源が部屋に再生される。


 まずは、『river side moon』だ。


 曲が流れた瞬間、自分で作った曲のくせに、鳥肌が立った。

 いや、自分で作ったからこそだろう。

 まるで、プロのミュージシャンの曲を聴くみたいに、音楽が流れているのだ。


「おお……」


 俺は思わず、感嘆の声が出る。

 おそらく、ジョニーの腕前も良いのだろう。

 

 録音時はギターと歌が別で録音できるため、ランボーがメインボーカルバージョンの『river side moon』だ。

 これまで聴いていたのは、スマホで撮った体育館ライブの音源だったこともあり、ようやくこの曲の本当の姿が見えた気がした。


「まあこんなもんか。次」

 次にジョニーが再生したのが、『ASAYAKE』だ。

 こちらは、ライブではまだ披露したことが無いため、完全書下ろしの新曲ってとこだ。


 ライブハウス『JUST LIKE HEAVEN』の朝方にスマホで撮ったデモから一転、こちらはエモ・スクリーモな爽快感とエネルギーを感じる一曲に仕上がっていた。

「イケてるじゃねぇかァ!」

「いいなーワイも自分の曲ほしいなー」

 スパコンとランボーも曲の出来に満足そうだ。

 この調子なら、もっともっと俺たちの曲を作ってEPみたいにしたい欲が出てくる。


「ジョニー、とりあえずの今日の曲をデータでもらえるか?」

「ああ? まあ、そうだな」

 ジョニーが操作すると、今再生していた音源が曲として書き出される。

 俺たちはそれぞれのスマホにそれを保存し、いつでも聴けるようにした。


「……まあ、レコーディングにゴールはない。お前らの気が済むようにやれよ」

 そうジョニーは言い残して、この日のレコーディングは終了した。


 正直、今日できた曲でも俺にとっては十分すぎるくらいの出来だ。

 これなら、ネクスト・サンライズに応募しても十分なんじゃないだろうかと思っていた。

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