第二十八話「新しい季節」
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後日譚。
俺たち、『Noke monaural』の春藤祭有志バンド部門での順位は、二位だった。
一位は、まあ言うまでもなく霧島率いる『highly_book Music lodge』とかいう舌を噛みそうな名前のバンドだ。
俺たちの得票数は、一位の奴らとわずか二票差で負けたらしい。
まあ、下馬評から見ればずいぶんと善戦したといえよう。
ある日、生徒会長と廊下ですれ違った際に声をかけられた。
その雑談の中で彼は困ったような顔でぽつりと言っていた。
「いや~。有志バンドの中じゃ、個人的には君たちが一番だったよ。うむ。なんかこう、演奏技術とかじゃなくてね、アツい!って思ったよ。おかげで私も無茶をして先生方から叱られてね」
霧島のアンコール事件のせいで押したスケジュールは、生徒会長の独断で俺たちの出番を削ることなく、最後まで敢行された。
申し訳なく俺が頭を下げると、いやいやと会長は照れながら眼鏡を上げた。
「実をいうと、一位の方に投票した生徒の中で、結構な人数は体育館に居なかったらしいんだ。ほら、教室の方で模擬店の店員をやっていたとかで、時間的にはライブを見れてないはず……とかね。でもまあ、規約上で体育館に居た生徒しか投票できないというルールは無いし、無効票にするわけにもいかないからね。来年以降の課題かなぁ」
まあ、俺としては一位を取ることは、もはや目標としていたわけではないので、深くは考えていないが。
一度、霧島と廊下ですれ違った。
いきなりぶん殴られるかと思いビクビクしていたが、薄っすら舌打ちをされただけで済んだ。
「負けねぇからな」
その一言に、勝負に勝って試合に負けるとはこのことかなと思ったりもした。
正直なところ、霧島に対してもう憎たらしい気持ちはあまり無くなった。
あのライブですっきりしたのかもしれない。
入学した直後から始まった霧島との関係が一度終わり、正しくライバルとしての関係がようやく始まったのかなと俺は勝手に思っている。
そして、あれから一週間。
サラは一度も学校に姿を見せず、登校していない。
とっくに春藤祭の片づけは終わっており、教室はいつも通りの机が並ぶ退屈で平凡な空間に戻っていた。
そろそろ朝のホームルームが始まろうかという時間。
俺はぼんやりと窓の外を眺めて、すっかりと初夏の色どりとなった木々を眺めた。今日の晩御飯は何だろうかと食欲のままに思いを馳せていたころ。
教室がざわざわしたことで、俺は視線を戻した。
教室のドアが開け放たれ、神宮寺サラが入ってきた。
そして、その姿はクラスメイト達の度肝を抜いた。
長かった金髪をバッサリと切って、肩ぐらいの長さのショートボブになっていた。
しかも、髪色はあの鮮やかな金色ではなく、アッシュブロンドともいうべきか、茶色が混ざった色をしていた。
表情は何かが吹っ切れたかのように、わずかな微笑と決意に満ちた明るい瞳をしていた。
サラはざわつくクラスメイト達や先生に目もくれず、真っ直ぐに俺の方へ歩いてきた。
「おはよう」
サラは俺の前に、仁王立ちになって言った。
「おう」
「私、もう取り繕うのは辞めた。もう、お母さんの力を借りなくても、私自身の輝きを信じてやっていくって決めたの」
「そうか。よかったな」
「だからさ。……私も、仲間になれるかな」
照れたように、問いかけるサラは、紛れもない美少女で。
春の夜、川の上に浮かぶ月のように。
彼女は輝きを放つ極上の笑顔で言った。
「私も、ノケモノになれるかな」
「なってるさ。もうとっくにね」
俺たちは、そういって笑いあった。
春風は強く吹き抜けた。
新緑の木々が色付く頃、俺たちは。
新しい季節を生きていく。
そんな気がしたんだ。
第一章 END
あとがき。
というわけで、ノケモノロック。最後まで読了頂き誠にありがとうございました。
せっかくですので、少しばかり後書きというか感想を書かせていただきます。
作品におけるテーマとかメッセージ的なものは作中で消化できた気がするので、ここでは制作背景について書いておきたく。
実を言うと、この作品については、一話を投稿する以前からこの後書きまでをすべて書き上げています。
なので、この後書きも全くの未公開時に書いています。
というのも、自分は十年以上前に別な小説投稿サイトで細々と執筆活動をしていたのですが、作品のどれも途中で投げ出してしまっていました。
その頃の作品を見ていただいた人には、本当に申し訳ない気持ちになります。
その後は、話を思いつき書き始めても、同じく投げ出すのではと思ってしまい、公開することなく文字データとして非公開のまま収納され続けていました。
この作品もその一つで、大体冒頭の学祭実行委員に選ばれるぐらいまでのあらすじしかありませんでした。
しかし、自分の頭の中だけの傑作よりも、世の中に出た駄作の方が価値がある。
そう思い、何とか公開したいという気持ちもありました。区切りのいいところまで書きあげたら投稿しようと考えていました。
書き始めた当初はクチナシぐらいの年代だった自分も、やがてジョニーのような年になっていました。
近頃生活環境が変わり、気まぐれにまた執筆をするようになり、ようやくここまで漕ぎつくことができました。
このボリュームの文字量で、完結と出来たのは初めての経験となりました。
もはや自己満足の産物でしかありませんが、少しばかりでも楽しんでいただけたのであれば幸いです。
物語はまずは一旦のエンドとしましたが、もともとの想像では序章に過ぎず、まだもうちょっとだけ続くんじゃという具合です。
いつかまた、見ていただける機会があればうれしいと思います。
それでは。
ありがとうございました!
***7/末頃 追記***
というところまでが、投稿前の後書きでした。
しかし、7月某日、本編に一言追記させてもらいました。
ENDの前に、第一章と。
現在、第二章を鋭意執筆中です。
というのも、読んで頂いている方がいるということもそうなのですが、何より単純に自分自身がこの物語の続きを読みたくなったからです。
なので、相変わらず、地味でしょーもない話になりますが、続きを公開できるように取り組んでおります。
第二章も同様に、書きあがり次第定期的に投稿していくというスタイルにしようと思います。
引き続きお付き合いいただけると幸いです。




