表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ノケモノロック  作者: やしろ久真
第一章「river side moon」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/130

第二十五話「虚飾で彩られた舌ざわりのいいウソ」

 一つ目のバンド、二つ目のバンドがそれぞれ演奏を終えた。

 正直言って、私は音楽の事はあんまり詳しくないからよくわからないけど、普通に上手な演奏ではあったと思う。

 ただ、感想はそれだけのもので、後から思い出そうと思ってもどんなものだったか、あんまり記憶には残っていない。


 会場には先ほどまでよりも、多くの生徒がいるように感じる。

 おそらく、霧島翔斗が演奏するからだろう。

 あるいは、彼が呼び集めたのかもしれない。


 彼に交際を迫られたとき、直感的に拒んでいた。

 彼と友人関係でいることに、何の抵抗もなかった。

 しかし、それ以上の感情を持っていなかったんだと、その時はっきりと気が付いた。


 私は忙しかった。

 そして何より、恐れていたんだと思う。


 私は強い光でなければいけないと思っていた。

 私がみんなから受け入れられるには、強くなくてはいけない。それは、幼稚園の頃、いじめられたときに気が付いた。


 私はみんなとは違う。いや、みんなと同じになるには、それ相応の努力が必要なんだと。

 弱いものが『みんな』とちがうと、それは攻撃される対象となる。

 私はそんな敗北者にはなりたくない。だから強くなる。強くなれば、みんなと違うことが憧れの対象になれる。

 私は、強く、正義でなければならない。


 そんなことばかり考えて、異性と交際するなんて、きっと想像もしていなかったんだと思う。

 私が必至に取り繕った外の仮面の、その内側を相手が覗いたときに、どう思うか。

 そんなことを考え、なにより恐れていたんだ。

 

 私はハリボテの上で必死にバランスをとって、客席の観衆から拍手をもらっている愚かなピエロなんだって、誰かが知ったとき。

 崩れ落ちる私を抱きとめてくれるのは。

 果たして、客席から私を眺めて笑っている人たちなのだろうか。

 それとも……。


「どーも!『highly_book Music lodge』でーす!」


 客席からワーキャー声が上がる。

 霧島が演奏するのは、最近流行っているJPOPの曲だ。

 泣ける恋愛映画の主題歌、だったっけ。正直興味はないが、周りと話しを合わせるために概要は知っていた。


 霧島はギターボーカルということで、演奏しながら歌っている。

 多分、うまい、のかな?

 周りの客はうっとりしながら聞いているので、多分うまいんだろう。

 もう、どうでもいいや。

 

 遅かれ早かれ、こんな状況になるとは、心のどこかで分かっていた。

 ずっと隠し続けることなんてできないことは明らかだった。

 それでも、自分の輝きをなくしてしまった後、どうすればいいのかわからなかった。

 暗い夜に、一人取り残されたみたいに、ポツンと途方に暮れることしかできなかった。


「ふむ、やはり霧島君はギターが上手い。しかし歌は普通だな、むしろ去年のボーカルの子の方が上手かったな」

 生徒会長は分析していたが、そんな解釈をよそに体育館は盛り上がりを見せる。


 きっと、ここに居る生徒達は、演奏が上手とか歌が上手いとかなんて気にしていないのだろう。

 ただ、人気者がステージの上で歌い、流行っている曲にノる。その空気感を楽しんでいるだけだ。

 ここに、きっと本物はないのだろう。

 虚飾で彩られた舌ざわりのいいウソだけを味わっている。

 私は、『こんなもの』の中に入るために努力していたのかな。


 霧島のバンドは二、三曲と演奏を続ける。

 どれも流行りの曲ばかりだ。ちゃんとしていて、まるでCDで聞いているみたいに正確な演奏だった。


 予定していた曲を終え、「ありがとーう!」とお決まりのフレーズを叫んだ。

 すると、客席から、手拍子が巻き起こる。

 アンコールだ。

 しかし、私はすぐに気が付く。

 アンコールの手拍子を始めたのは、霧島と仲のいい女子数名のグループだ。クラスTシャツの裾を絞ったり頬にチープなペイントを描いたり、春藤祭を大いに楽しんだ格好で、キャッキャッとはしゃぎながら、何がそんなに楽しいのか、アンコールを催促する。

 すると、周りの生徒達もそれにつられるかのように、アンコールの渦が巻き起こる。

 流されるままに、会場の全員がアンコールの手拍子を打つ。


「ったくしょうがねぇな~。んじゃ、もう一曲だけやっちゃいます!」


 と、初めから決めていたくせに、追加の曲を演奏し始める。


「馬鹿な、既にスケジュール押しているぞ!?」

 ひとり、生徒会長だけがテンパっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ