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ノケモノロック  作者: やしろ久真
第一章「river side moon」

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第二十四話「今年のライブも見逃せないなぁ!」

 春藤祭は一日通しの日程となっている。

 そして、有志発表は午前中にダンス部門、昼に一時間の間を挟み、午後はバンド部門となる。

 俺たち出演者は、昼の一時間に行われるリハ、つまり本番のリハーサルの時に合わせて体育館に向かった。

 

 体育館には大勢の生徒達が詰めかけていた。

 どうやら、ダンス部門から通しで見る生徒もいるらしく、かなりの賑わいを見せていた。

 生徒たちはそれぞれのクラスTシャツを着こみ、一体感を感じながら盛り上がっている。


 出演者たちは、体育館のステージ袖にある物置を楽屋代わりに使っている。

 出演するバンドは全部で五個。トップバッターとトリは三年の先輩バンドがやることになっており、トップの後に一年のバンドがやった後、霧島が率いるバンド、『highly_book Music lodge』とかいう何を言いたいのかよくわからないバンドが演奏する。

 俺たちの出番はその後、トリ前だ。


 俺の脳裏には、今となっては遥か昔のように感じる、あの言葉がリフレインする。


『君の心臓が鼓動している限り、音楽は鳴りやまない。あとは、君が誰に、何を伝えたいかだよ』


 見つかりましたよ、アキラさん。伝えたい事が。

 あの時、川の傍でうなだれていた俺を救ってくれた、生きる目標を示してくれたあの言葉、あの気持ち。

 それを、彼女にも伝えたい。


 泣いている女の子のために、俺ができることは何か。

 俺には彼女を、再び人気者にすることも、彼女を傷つける奴等を排除することもできない。

 傷ついた人を癒すとか、窮地から救い出すスーパーヒーローみたいなことなんか、俺には出来ないんだ。


 俺はただ、彼女に泣き止んでほしいだけなんだ。

 そしてまた、歩き出してほしいんだ。

 そのためには、しょーもなくて、ちっぽけで、くだらなくて、ダサいかもしれないけれど。

 俺に出来ることは一つしかない。


 心臓の鼓動を。

 俺の音楽を鳴らすんだ。





 私は、体育館に一人、佇んでいた。


 絶対見に行ってやらないんだから。

 そう言ってやったことも、もう遥か昔の出来事のようだった。

 

 周りにはたくさんの生徒たちがいる。私はクラスTシャツをとうにゴミ箱に捨て、今は自前のパーカーをフードごとすっぽりとかぶっている。

 薄暗闇の体育館は、私の姿を隠してくれるかのようだった。


 沢山の生徒が行きかい、お互いの顔もよく認識できない。

 今の学校に神宮寺サラとしての居場所は無い。

 この薄暗い空間が唯一、私が存在することを許された場所のように感じた。

 

 やがて、ステージの上でライブの準備が始まる。マイクテストや、楽器を並べ始める。

 私の隣には、眼鏡をかけきっちりと制服のボタンを留めた男子生徒が立った。

 どこかで見たことあるような……あ、生徒会長か。


 生徒会長は一人、ぶつぶつ呟く。

「トップバッターは三年のバンド、『オンスプリング』か……。去年はアニソン縛りでそこそこウケていた。何よりもみんなが盛り上がることを優先する彼らをトップバッターに持ってきた判断に間違いはないな……うん」

 なにやら、一人で解説していた。

 この人も、結構ヘンな奴だったんだ……。


「二番目は一年生のバンド、『コーディエズ』だ。彼らの実力は未知数だ。うん」

 コメントそれだけなの?

 ちょっとかわいそう。


「三番目が今回の人気投票一位最有力候補の霧島君率いる『ハイリーブックなんちゃらかんちゃら』だ。昨年は一年生ながらも人気投票二位に輝いた大物ルーキーだ。ちなみに昨年一位だった剣崎君率いるバンドはすでにインディーズでいくつものライブを成功させ、今年のロックフェスにも出場するらしい。そんな剣崎君と交流のある霧島君は、なんと今回のライブではギターだけではなく、歌も披露するとか。これは見逃せないな」

 いや、なんちゃらかんちゃらって。

 でも、確かにカッコつけなだけで意味不明な名前だったとは思う。


「そして、四番目が今回ライブのダークホース。何をしでかすかわからない謎の連中が徒党を組んだ『Noke monaural』だ。彼らははたして何をするのか、そもそも演奏できるのか、すべてが謎の存在だ」

 あいつら、そういう認識だったんだ。

 まあ、私も最初にライブに出るって聞いたときはそう思ったっけ。


「そして最後。トリを飾るのが、三年生バンド『ユニゾン・タッチ・ラスベガス』だ。彼らも昨年は人気投票三位に食い込んだ実力派だ。三年生として、人気投票一位を獲得し有終の美を飾りたいところだ」


「うん、今年のライブも見逃せないなぁ!」

 生徒会長は一人で盛り上がっていた。

 まあ、変人オーラをまき散らしてくれるおかげで私に気づく人もいないのが幸いだ。

 動くのもいやなので、しばらくこのままここにいよう。

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