第1章 第8話 泥棒猫
「えぇっ!? 新泉さんってアイドルだったのっ!?」
チェックポイントで食材をもらいみんなと合流し、まず打ち明けたのはそれだった。俺から提案させてもらったが、予想通りにいけば効果はあるはずだ。
「うん。今までは隠してたけど、一番を目指すならみんなの協力が必要だと思って。だからみんな、応援よろしくねっ」
伊達眼鏡を外し、髪をハーフツインにした今の彼女はどこからどう見ても超絶美少女。元の評判が暗く地味な女なら、そのギャップにファンが増えること間違いなしだろう。
「全然気づかなかったな……」
「ねー一緒に写真撮ろー? あたし読モやってるからお互いフォロワー増えるかもだしウィンウィンっしょー」
「なんか決めポーズとかあんの!? 見せて見せて!」
想像通り評判は上々。だがそれも当然だ。だってにこぴーは、
「にたっとにこっとニタニコリンっ。新田にこがみんなを笑顔にしちゃうよーっ、にこっ」
「かわいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」
やばいやばいかわいいかわいすぎる。え? まってかわいくない? どうしよう絶対ファン増えちゃうほんと犯罪的にかわいいあーまってやばいやばいやばい。
「せっかく一番乗りになったんだし、早めにカレー作っちゃお? わたし材料切ってくるねっ」
新泉さんがにんじんを手にさっそく調理に取りかかろうとする。でもそんなの、俺は認めない!
「新泉さん、そんなの俺がやるよ」
「え? 大丈夫だよ。わたし料理できるし」
「それは知ってる。番組で料理対決した時勝ってたもんね。ほとんど下手くそな相手しか映ってなかったけど」
「それは……うんそうだね。しかも上手さでは上がいるんだよなー……やっぱわたしダメだ……」
「駄目じゃない! にこぴーにはにこぴーの魅力があるんだから!」
「風人くん……」
「とりあえず野菜は俺に任せて。君の綺麗な指に傷がついたら、人類の大損失だ」
「そんな……でもありが……!?」
新泉さんの隣から、ズドン! という包丁を勢いよくまな板に打ち付ける音がした。
「えーと……夜照さん……?」
「失礼。少し力が入りすぎてしまいました」
そう笑う夜照さんの顔の横に構えられた包丁が、鈍く輝く。
「実は私、料理が苦手で……。間違えて他の場所切ってしまいそうです。隣の新泉さんとか」
「いやそれは……間違えての領域を超えてるというかなんというか……」
なぜだろう。夜照さんの顔がすごい怖い気がする。なんというか、笑ってるのに笑ってない。具体的に言うといつも宝石のように輝いている瞳が、底知れない闇のように深く暗い。
「そんなことより早く終わらせましょう? この辺にはほら、泥棒猫が出るようですし」
「猫……? 野菜取らないんじゃない……?」
「わかりませんよ? この猫はとても卑しいですから。いつ何があっても大丈夫なように切る練習しとかないといけませんねー……」
「ね、猫のこと切るの……?」
そう語る夜照さんの手元では、ストンストンとリズム良く野菜が切られていく。なぜかその音が耳にこべりつき、不快感が耳の奥から脳にまで侵入してくる。
「じゃ、じゃあ俺……薪割りしてこよっかなー……」
おそらく夜照さんの怒りの矛先は俺だろう。逃げるように男の仕事へと走り去る。それにしてもなんで夜照さんは怒ってるんだ……? 俺なんかした……?
「……意外と難しいな」
薪割りへと逃げたはいいが、これはこれで大変だ。力が足りないのか上手く真っ二つになってくれない。
「貸してみてください」
「や、夜照さん……」
女子の夜照さんができるはずもないだろうに、俺の横へと忍び寄ってきた。その瞳はまだ闇に呑まれている気がする。やっぱり俺に怒ってるんだ……。
「あ、危ないから俺がやるよ……? ほ、ほら……夜照さんの指が……」
「こういうのは得意なんですよ。コツは想いです。恨み、妬み、怒り。そんな感情を向けるべき相手を想像するんです。そして私の大切な人を奪おうとするクソ女目掛けて、振り下ろすっ!」
ドン、と。まるで雷が落ちたような音が響き、木は割れる。綺麗に、真っ二つに。
「ね、簡単でしょう。だから私、いくらでもやりますからね。私たちの平和を守るためなら、何人でも」
「ぁ……ぁはははは……」
理由はわからないがとにかく怖すぎるので、俺は苦笑いを浮かべることしかできなかった。
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