第1章 第6話 すれ違いの愛
「やっと一段落って感じか……」
バスに揺られること数時間。見渡す限りの木々に囲まれた空間で校則や校歌、学校での過ごし方をみっちりと教え込まれた俺たちは、ようやく遊びっぽいプログラムに辿り着くことができた。
題して食材集め。夕食で作るカレーの材料を集めるというものだ。と言っても自然に生えているものを取るわけではない。班ごとに3つのチェックポイントを辿り、そこに待機している先生から食材を受け取るという形だ。
そしてその班というのが、席順の横列ごとの6人班。俺と夜照さん以外内進組というチームになる。
「見知った顔も多いけどとりあえず自己紹介から始めようか。僕は梅宮海人。小学生からサッカーをやってる。よろしくね」
班ごとに集まり早々仕切り始めたのはサッカー部らしくないのにサッカー部感を感じさせる茶髪の爽やかイケメン。まだ高校に入って2日目だが、そんな俺でも既に彼のことは知っていた。紛うことなきクラスの中心。リア充の中のリア充ってやつだ。
「あたしは鹿島花梨。一応読モやってるからSNSフォロー拡散しといてねー」
次に自己紹介したのはこれまた見た目の良いいかにもギャルっぽい女子。男子のトップが梅宮くんなら女子のトップはこの鹿島さんって感じだろう。
「オレは志村俊也! オレも読モ目指してるからSNSフォローしろよー!」
鹿島さんに乗っかった挨拶をしたのはいかにもお調子者っぽい感じの男子だ。バスの中でもうるさかったのを覚えている。
「わたしは……新泉虹乃……です……」
明るかった3人とは打って変わって俯いた眼鏡をかけた女性がそう言う。まぁ顔立ちだけで確定的だったけど声を聞くとこれはもう間違いないよな……。
「俺は文月風人。えーと……よろしく」
「私は夜照弥生と言います。仲良くしてくださいね」
廊下側の席の持ち主から順番に挨拶を終え、いよいよ会話が始まる。
「とりあえず歩こうか。一番近いのは……」
「な! せっかくなら最速狙わね!?」
「えー、めんどくなーい?」
さっそくリア充っぽい3人組が話を進めていき、俺たちは入ることができない。まぁ初めはこんなもんか。
「女子も多いし山道で急ごうとするのは危険だよ。それでもスコアを意識するなら2人班を作って同時に3か所のチェックポイントに向かうってところだろうけど、それじゃあ班を作った意味ないしね」
「まぁ、それはいい案ですね。私はそれに賛成です」
と思ったらさっそく夜照さんが会話に参加し出した。しかも2人班の案が出たタイミングで。
「俺もそれでいいと思う」
「あたしもさんせー」
「オレもオレも!」
「…………」
俺も何か言おうと思って賛成すると、何も言わない新泉さん以外の人全てが2人班に賛成することになってしまった。これだと俺が困るんだよな……。だって……。
「私と風人くんで1班完成です。残りはそちらでどうぞ」
ほらやっぱりこうなる。この機会に男子と仲良くなりたかったのに……。そう思っていると、梅宮くんが口を挟んできた。
「高校からの2人が同じ班っていうのはどうかな。夜照さんは僕と組もうよ」
「お気遣いなく。私は……」
「えー。あたし海人と一緒がいー」
「オレは花梨と! 花梨と同じチームがいいっ!」
そして始まる自分の理想の相手指名。こうなると何も知らない俺や夜照さんには発言権はなくなる。
「じゃあこれでいいかな」
数分の言い争いを梅宮くんが無理矢理終わらせ、班が決まる。夜照さんと梅宮くん。鹿島さんと志村くん。そして残り物の俺と新泉さんの班だ。普段の俺ならそれでもいいが、これは少し。いや絶対に、受け入れられない。
「あのさ……悪いけど俺、夜照さんと同じ班がいいんだよね」
「っ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡」
俺が控えめに手を挙げてそう言うと、なぜか夜照さんがめちゃくちゃにときめいた顔を見せた。
「わがまま言って悪いんだけど……」
「駄目です♡」
だが口元を手で覆った夜照さんは俺の提案を即却下した。
「えーと……」
「嫌です♡」
「その……」
「ありえません♡」
「話聞いて……」
「絶対に絶対にぜーったいにっ、風人くんとは同じ班になりません♡♡♡」
くっそなんだよいつも俺に優しくしてくれるのに……! それに志村くんは何を勘違いしているのか俺の肩にぽん、と手を置き次の恋探そうぜ顔してくるし……!
でもじゃあこの顔はなんなんだ……。まるで飼い犬にまてをさせて喜んでいるご主人様みたいな愉悦に満ちた表情は……。
「……わたしでごめんね」
俺1人の意見では到底状況をひっくり返せず、新泉さんと2人森を歩いていると、彼女は小声でそう謝ってきた。
「な……なにが……?」
「わたしと一緒じゃつまらないよね。早く終わらせて合流するから安心して……」
そう語る新泉さんの横顔はひどく暗く、俺の心臓を強く締め付けてくる。彼女にだけはそんな顔を絶対にしてほしくなかったのに。俺のせいで傷つけてしまった。
「……心臓が、持たないんだよ……」
「……え?」
言う気はなかった。それは俺には身に余る光栄だったから。でも傷つけるくらいなら、言うしかない。
「だって君……にこぴーでしょ……?」
いつもと違って髪は下ろしているし、眼鏡をかけているけれど。俺の目と心はごまかせない。
新泉虹乃さんは、俺が推しているアイドル。にこぴーこと新田にこちゃんだ。
誤字報告をいただきましたが、4話のラストシーンの苗字はあれで合っています。わかりづらくて申し訳ありません。
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