第1章 第5話 次のステージへ
今日はオリエンテーション合宿。一泊二日を山の中で過ごし、散策をしたり学校のルールを学ぶらしい。
が、そんなものはどうでもいい。スタートであるこのイベントで友だちを作る。俺にあるのはこれだけだ。ここで失敗したら3年間の高校生活は悲惨なものになると容易に想像できる。
やはり最初の関門はこのバスの席……。中高一貫校で既に関係ができている中自由席というのは高校入学組には厳しいが、思い切って飛び込まないと……!
「風人くん、お隣どうぞ」
バスに乗り込んだ瞬間、最前列にいた夜照さんが隣の席を差し出してきた。しかも誰かに勝手にとられないよう空けているのは窓際。学校の席とは前後含めて真逆の位置だ。
「……ありがとう」
本当なら後ろの方に行って男子と隣になりたかったが、女の子から勧められて断る選択肢はない。そのはずなのに。
「あれ……?」
身体がなぜか動かない。夜照さんの隣に座ることを無意識的に拒否してる……?
「さ、どうぞ」
「あ、ああ……」
だが夜照さんに手を引かれ、結局俺は隣に座ることになった。
「あ、置き手紙見たよ。ごめん昨日急に寝ちゃったみたいで」
「いえ。慣れない新生活で疲れていたのでしょう。お部屋でお話しするのはまた今度ですね」
どうやら俺は家に遊びにきた夜照さんに油淋鶏を出そうとしたところ突然倒れてしまったそうだ。せっかくの女子と部屋で2人っきりという状況なのになんてもったいない。悔やんでも悔やみきれないミスだ。……あれ?
「そういえばなんで姉ちゃんが帰ってきた時鍵閉まってたんだろうな……。夜照さんが帰ったってことは鍵は閉められないはずなのに……」
「それはですね、私がマンションの管理人さんにお話して閉めてもらったからです」
「あぁそうだったんだ。じゃあ今度お礼言っとかないとな」
「不要だと言っていましたよ。特別にやってもらったので他の入居者さんに知られては困ると言っていましたから。ご家族の方にも内密にお願いします」
「でもそれだとおかしいんだよな……。なんか荷物詰めしてたら服がなくなってて……。他に被害はなかったのになんでなんだろう……」
「風人くん、それは少し失礼ですよ? その話し方だとまるで私が鍵を複製して下着を盗んだみたいじゃないですか」
「ああごめんそんなつもりじゃなくて……ん? 鍵の複製……? 下着って言ったっけ……?」
「あ、出発するみたいですよ」
話を強制的に次のステージへと進ませるようにバスは進みだす。
「ふふ、本当に楽しみです。風人くんも楽しみましょうねっ」
心底楽しそうに笑うその表情に偽りの色は見えない。それなのになぜだろうか。心の奥底で彼女に対する恐れが確実に存在するのは。
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