第1章 第2話 記憶にない会話
入学初日は顔合わせみたいなもので、クラス内で簡単に自己紹介をし、明日から始まる1泊2日のオリエンテーション合宿の話だけで終了した。
関次学園は中高大一貫校であり、クラスの半数以上は既に関係ができあがっている。そのせいというわけではないが友人を作ることができなかった俺は、1人寂しく帰宅……することはなかった。
「夜照さん……? なんで一緒に帰ってるの……?」
友人と言えば友人。だが素直にそう言うのは少し憚れる存在である夜照さんが、なぜか俺と一緒に帰路を辿っているのだ。
「えーと……駅反対なんだけど……」
「私の家もこちら側なんです。一緒ですね」
俺の家は学校から寂れた方に歩くこと10分程度の場所にある。そしてこの辺りに住んでいる中学生はだいたい俺が通っていた公立中学か関次学園の中等部に通っているのだが……他の私立中学に通っていたらそうなってもおかしくないのかな。
「じゃあ俺の家、ここだから……」
自宅であるマンションに到着したので別れを告げたが、なぜか夜照さんは立ち止まってニコニコと笑ったままだ。これはなんだ……? 何を訴えてるんだ……?
「えーと……家まで送ろうか……?」
「まだお昼ですし大丈夫ですよ」
そ、そうだよな……。でも他に何が……。
「私たちは中途入学組。いわば少数派閥です。オリエンテーションの班も私たち以外全員内進組だそうではないですか」
「あ……うん……そうだね……」
迷っていると、夜照さんはまるで子どもに言い聞かせるようにそう説明してくる。オリエンテーション班は席順の横一列を一班としており、計6人。そして俺たち以外の4人は中等部からの付き合いらしい。でもそれが何か関係あるのか……?
「つまりですね、風人くん。私たちは私たちで何とかするしかないのです。言うなれば、運命共同体ですね」
「は、ぁ……」
「ということで風人くんとはもっと親しくなりたいと思っています。ちょうど風人くんのご自宅が近くにありますし、ご迷惑でなければもう少し一緒にいませんか?」
「……え? えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
ということで。めちゃくちゃかわいい女の子を家に連れ込むことになった。
「ふふ、楽しみです。こんなに早く風人くんの家に行けるとは思っていませんでした。ご両親に挨拶しなくてはいけませんね」
「いや別にそんな気にしなくても……え?」
エレベーターに乗り込むと、夜照さんが。迷うことなく俺の家がある5階のボタンを押した。
「な……なんで俺の家の階知ってるの……?」
「嫌ですね、風人くん。さっき話してくれたではないですか」
「そ……そうだっけ……?」
「そうですよ。その証拠として家族構成も知っています。5人家族で、ご両親は長期出張中。他には関次学園大学3年生のお義姉さんと、関次学園中等部3年生の義妹さんがいらっしゃいますよね? 家族仲は良好。休日にはお子さん3人でよく外出していて、とても幸せそうでした」
確かに当たっている……。これだけ詳しく知っているならば、話した覚えはないが話していたのだろう。緊張してたから忘れてたのかな……ん?
「さっき両親に挨拶って……」
「さ。早くおうちに入りましょう?」
エレベーターが5階に到着し、話が一旦途切れる。まぁまた何か忘れてるのかな……?
「ただいまー」
一旦考えるのをやめ、自宅である505号室に入る。だが……玄関に靴がない。それが指し示すことはただ一つ。
「あら。2人きり、ですね♡」