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第2章 第6話 アザトカワイイ

「いただきまーすっ」

「いただきます」



 しばらく新泉さんと話していると料理が運ばれてきたのでさっそく口にする。ちなみに俺は小サイズの炒飯で、新泉さんはサラダ。サラダだけ!? と思ったが、さすがは俺。素早く予定していたからあげとライスをやめ、軽いものにした。おそらくこの後もいくつか店を回るつもりなのだろう。だからこそのこの注文のはずだ。心臓バクバクしすぎて徹夜した割には頭が回っている。



「んーっ、おいしいっ」



 サラダがそんなに美味いはずないだろと言いたいところだが、満面の笑みで頬を抑えるにこぴーがかわいすぎてもう何でもよくなってきた。いやマジでかわいいな。え? マジでかわいくない?



「風人くんにもあげるねっ。あーんっ」

「!?」



 そして今さっき口に運んだフォークでキャベツを刺し、対面の俺へと差し出してきた。あ、待ってやばい身を乗り出してるせいで胸がぁぁあぁああぁぁぁああっ!?



「どうしたの? 食べないの?」

「い、いやややややたべ、たべる……」



 え? ほんとにいいの? 食べちゃうよ!?



「……いや、だめだ!」



 あっぶなー……。なんとか持ちこたえられた。俺だけがこんな幸せな目に遭うわけにはいかない……他のファンに失礼だ……いやにこぴーのファンなんて俺以外見たことないけど……!



「そ、そういうのはよくな……」

「えいっ」



 もうかわいすぎて直視できないでいると、その隙をついて。新泉さんは俺の口にフォークを差し込んできた。



「なっ……!?」

「えへへっ、隙ありっ」

「ああああああああっ!」



 新泉さんがかわいらしくはにかむのとほぼ同時に。俺の真後ろの個室から女性の叫び声が聞こえた。そしてドンドンと俺の背中の壁を叩いている。



「な、何だろうな……? どっかで聞いたことある気がしたけど……」

「もうっ。風人くん、言ったよね? わたしだけを見てって」

「かわっ!?」



 後ろに気を取られていると、頬をぷくっと膨らませた新泉さんが俺を注意する。その仕草がかわいすぎてなんかもう、やばい。



「わたしから目を逸らした罰です。炒飯一口ちょうだい?」

「え? それは……その……スプーン一つしかないから……」

「悪いことをした風人くんに拒否権はありませんっ。はい、あーんっ」



 そして新泉さんは再び身を乗り出し、目をつぶって控えめながらも口を開けてきた。やっばマジこれかわいい超えてエロすぎ……。で、でも間接キスになるし……いや拒否権はないって言ってたからしょうがない……? いやいやそれでも……!



「お待たせしましたお通しです!」



 悩みに悩み抜いて炒飯をスプーンで掬おうとしていると、突然扉が開いて若い女性の店員がおひたしを持ってきた。でもなんだろう……やたら汗かいてるし……顔と声が月島さんに似てる気がする……。



「お通し? そんなの前来た時なかったんですけど……」

「新しくできたサービスです。代金いただきませんのでさぁ、どうぞ」


「……この隠れている錠剤はなんですか?」

「そ、それは……錠剤に見えた隠し味です。決して変なものではないのでお早めにどうぞ……」


「……風人くん、出よっか」

「え? あぁ……うん……」



 店員さんと数度やり取りをした新泉さんは髪を下ろし素早く個室を出る。



「上司に言っといて? これでも一応アイドルだから。人の視線とかには敏感なんだよって」

「は……はは……」



 店員さんに投げかけたその言葉の意味はわからなかったが、この顔。真剣な時に出る、人を殺しそうなほどに恐ろしい俺の最推し睨み顔が見れてとてもおなかいっぱいになった。



「何やってるの椿! 何としてでも薬飲ませなさいって言ったよね!?」

「いや無理ありますよ……。追跡もバレてるみたいだし諦めません?」


「はぁ!? 聞いてたでしょあの泥棒猫のくっそあざといやりとりをっ! ふーくんの好みとは外れてるけど、男はああいうのに弱い生き物なのっ! 止めないと絶対に食われちゃうっ!」

「……それならそれで。追いかけなくていいんですか? きっと撒かれますよ」


「ふふふ……甘いよクソ女……。ふーくんのスマホのGPS情報は完全に握ってるんだから……!」

「そんなことまでしてたんですか……」


「絶対に許さない……。あの女、ふーくんに色目使ったこと後悔させてやる……!」

「……変なことはしないでくださいね」

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