第2章 第5話 承認欲求
「あの……カフェって聞いたんですけど……」
「ね。ちょっと間違えちゃったね」
新泉さんに案内されるままについていった先は、どう見ても居酒屋的な趣のあるお店。ま……まさか芸能界って未成年でもこういうところに……!
「ここお昼だと普通の飲食店になるんだよ」
と思ったらそういう理由らしい。新泉さんが慣れた足取りで奥の個室へと入った。
「で、なんでここに?」
「個室があって人も少ないからかな」
なるほど……さすがはプロ。むしろ俺がもっと気を遣わないと。にこぴーではなく新泉さんとの買い物と認識してはいるが、それは俺だけの問題。周りにはにこぴー=新泉さんなんだ。
「え? なんで髪結んでんの……?」
そう覚悟を決めると、さっそく新泉さんは伊達眼鏡を外し、髪をハーフツインに結い出した。いつものにこぴースタイル。見る目がなく人気がないとはいえ、ここまで隠さないとなったらさすがに知っている人にはばれてしまう。
「だって風人くん、こっちの方がうれしいでしょ?」
「それはそ……だけど! でも人の目が……」
「だから個室選んだんだよ」
そうなのかもしれないけど……でも心配だ。だって付き合ってるとかではないけど、男と2人でいるわけだし……。
「それにね、アイドルとファンって恩返しでできてると思わない?」
照明のせいか少し顔が赤くなっているように見える新泉さんが視線を外してそう言う。
「わたしたちアイドルはファンにお金をもらってるから活動できる。だからその分ファンの人に喜んでもらえるようがんばらないといけないんだよ」
そう言う新泉さんの視線が泳ぎ、やがて俺を見る。
「……ごめん。今の嘘」
それでもその瞳は不安そうに揺れていた。
「こうしないと風人くんは、わたしを見てくれない」
その言葉の真意は俺にはわからない。
「もっとわたしを見て。わたしだけを見て。そのためならわたし……何でもするから」
それでもその悲痛な表情に、俺は何も言うことができなかった。
短くなってしまって申し訳ありません! ちょっと忙しいのです!