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第1章 最終話 恋愛の形

「はぁーぁ……。私の人生終わったー……」



 地に堕ち俯く夜照さんと同じ視線から立ち上がった月島さんが小さく笑いながら言う。



「君の言う通りにしたんだからそっちも約束守ってね? 私を守ってくれるんでしょ?」

「うんまぁそうなんだけど……なんかもっと裏方的に助けてくれるもんだと思ってたから……ここまで堂々と反乱起こされるとちょっとな……」


「なにそれ男らしくないなー」

「でも俺にできる限りはがんばるよ。後悔はさせない」


「……ありがと。それともう一つお願い。できればお嬢と付き合ってあげてほしい」

「…………」


「君の言いたいことはわかる。その上で付き合ってほしいんだよ。お嬢さ、ストーキングはするし犯罪だって厭わないけど……悪気はないんだよ。本当に、本当に君のことが大好きなだけなんだよ。なのに家の方針で高校在学中は交際禁止だから、ちょっとおかしくなってるんだ。だからその……許してとは……言えないけど……」

「……うん。俺はただ他の人を巻き込まずにちゃんと向き合ってほしいだけで……別に夜照さんに恨みがあるわけじゃないしさ。まず付き合うとかそれ以前に……そこからだろ」


「……だね。でさ……お嬢と付き合うとしたら高校の間は彼女作れないわけじゃん? それはちょっと……かわいそうだと思うわけだよ」

「まぁ……そうだな」


「で、でね……! もしあれなら……変わるチャンスをくれたってのもあるし……。か、代わりってわけじゃないけど……! 私がつぎっ!?」



 ありえない。2回食らった俺が言うんだ。間違いない。到底動ける痛みじゃないはずなんだ。それなのに、なんで……!



「なんで立ち上がれるんだよ……夜照さん!」

「ふーくんと同じだよ。ふーくんを愛しているからっ、私は誰にも止められないのっ」



 月島さんにスタンガンを打ち込んだ夜照さんは、間髪入れず俺も刺す。



「ぐぁっ……!」



 俺だって。俺だってにこぴーのためにも、月島さんのためにも立たなきゃいけないのに……身体が……動かない……! 俺の愛より……夜照さんの愛の方が重いというのか……!



「月……島……」

「椿、私を裏切ったね」



 俺が伸ばす腕を遮るかのように、夜照さんが月島さんの目の前に腰を下ろす。正直夜照一族ってのがどれだけ偉いのかはわからないが、最悪は想定するべきだ。反旗を翻した月島さんは、殺されてしまうかも……いや。



「もっと早く教えてくれたらよかったのに……」



 そうつぶやいた夜照さんの後ろ姿には、全く怒りの感情は浮かんでいなかった。



「お嬢……私は……いいから……家族だけは……!」

「私がそんなことすると思う? ……ううん。そう思われてるんだよね。だって月島家はまだうちにお金返せてないもんね。椿にとって私は……ただの仕事先の人間だもんね」



 俺からは月島さんの顔も、夜照さんの顔も見れない。見えるのは、地面に落ちる雫だけ。



「でも私は……椿のこと、ずっと大切な親友だと思ってるから。これからはもっと自分のしたいことを……って言いたいところだけど、ごめん。今の私にとって一番大切なのはあなたじゃないから。不都合な記憶は消させてもらうね」



 やがて月島さんの反応がなくなる。例の薬を飲ませたんだ。そして次の標的は、



「おまたせ、ふーくん」



 月島さんへと流していた涙を拭い、夜照さんの黒い瞳が俺を捉える。



「にこぴーを愛してるだっけ? うらやましいなぁ、私もそう言われたいなぁ……」

「俺はな……夜照さん……。さっきも言ったけど……別に君のことが嫌いってわけじゃないし……にこぴーのことだけを愛してるってわけじゃないんだよ……。恋愛と推しは違うから……」


「言いたいことはわかるよ。でも面倒だから記憶は消させてもらうね」

「だからさ……! なんで! ちゃんと告白してくれないんだよ……! もっと……普通に仲良くなって……それから告白してくれれば俺は……!」



 夜照さんの瞳が揺れる。それでも俺から目を離さない。



「私はね……ふーくん。君のことが大好きなんだよ。だから万が一にも他の人にとられたくないの。私だってできることならちゃんと普通に恋愛して付き合いたいよ。でもそんなの耐えられない。もし振られたらとか先を越されたらとか思うとじっとしていられない。だからもう、しょうがないの」



 あぁ……駄目だ。こいつは俺を見ているようで俺を見ていない。自分のことしか見ようとしていない。



「でも正直新泉さんに勝とうとしても難しいよね。幼馴染なんだもんね。会ってすぐの私じゃ限界があるよ。だから考えたんだ」



 俺の頭を自分の膝に乗せ、夜照さんは微笑む。その視線は俺の瞳に映る自分を見ていた。



「私の愛じゃ勝てないなら、ふーくんに私を好きになってもらえばいいんだって」



 そして夜照さんは薬を二錠、自分の口に含む。



「これからはいっぱい甘やかして、かわいがって、にこぴーのことなんか忘れちゃうくらいに惚れさせて。私しか見れないようにしてあげるからね」



 そして彼女の口を通し、薬が俺の口へと渡ってくる。長く、長く。まるで愛し合っているかのように。



「ぁ……ぁ……」



 駄目だ……意識が薄れていく……。きっと次目が覚めた時、俺はこの記憶を失っているだろう。



 それでもまだ諦めない。俺のためにも、月島さんのためにも、新泉さんのためにも、夜照さんのためにも。このままでいいはずがないんだ。もっと、ちゃんと、みんな、普通に恋愛ができるように。だから。



「気づけよ……俺……」



 切札に願いを込めて、眠りについた。



「ん……ぅ……?」



 気づけば俺はバスの中にいた。行きと同じ席。だから隣では、



「おはようございます、風人くん」



 夜照さんがにっこりと微笑んでいた。



「あれ……? 俺何を……」



 どうにも記憶が曖昧だ。夜照さんと出会って家で一緒に過ごして……それで……オリエンテーションに出かけて……新泉さんの正体がにこぴーだって伝えて……それで……。



「まだ眠そうですね。私の肩を使ってください」

「いや……いいよ……」

「そう言わずに。したいことをするのが一番ですよ」



 夜照さんの柔らかな手が俺の髪に触れ、俺を眠りに誘っていく。駄目だってわかっているのに頭が気持ちいい方に向かってしまう。



「んん……?」



 コトンと頭が夜照さんの肩に倒れると、その拍子に制服の内ポケットから一枚の紙が飛び出してきた。



「なんだこれ……?」



 それは小さなメモ帳の切れ端。まるで誰かが誰にも気づかれないように俺に託したようだ。



「っと……」

「私が拾いますよ」

「あぁ……ごめん……」



 床に落ちた切れ端を夜照さんが拾い、俺と一緒に覗き込む。そこに書かれていた内容は……。



 『これをお前が読んでいるってことは、俺は記憶を失くしてるってことだ。信じられないだろうが信じてくれ。夜照弥生は文月風人に恋をしている。しかもその手口はかなりやばい。部屋を探ってればその証拠も出てくるはずだ。俺が俺に託したいことはただ二つ。夜照さんからにこぴーを守れ。そして夜照さんを救ってあげてくれ。こんな恋愛、間違ってる』。



「私が風人くんを好き……ですか」

「いや! これは俺が書いたんじゃなくて……!」


「わかっていますよ。きっと私と風人くんの仲に嫉妬した誰かが混乱させようとこんなことを書いたのでしょう。私が処分しておきますよ」

「いや大丈夫! 俺が捨てとくから!」



 紙をぐちゃぐちゃに丸め、バッグの中に押し込む。あぶな……俺が夜照さんに好かれてるなんて妄想をしている変態だと思われるところだった……。



 でも……変なんだよな……。あの字……どう見ても俺ののような……。



「……残念だったね、ふーくん」

「え? 何か言った?」

「いいえ、何も。それより今は目を瞑りましょう。そっちの方が幸せですよ」



 そうだ……なんだかわからないけど疲れた。今は眠っていたい。



 俺は夜照さんの言う通りに目を瞑り、何も見ないようにした。

 これにて第1章終了となります。バッドエンド感ありますが、これはハッピーエンドへの序章です。続きをお楽しみに。


 次章は打って変わって普通のラブコメ編! 夜照さんと新泉さんが主人公を取り合います。普通……?



 それではここまでご覧いただきありがとうございました。おもしろかった、続きが気になると思っていただけましたら☆☆☆☆☆を押して評価を、そしてブックマークといいねもお忘れなく!


 みなさんの応援のおかげでここまで書けました! 引き続き応援のほどよろしくお願いいたします。

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