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第1章 第10話 運命

「どうしてここに来たんですか? お嬢。新泉虹乃を狙ってるかどうか知りたいから私を使ったというのに」

「だってさ、椿もかわいいから不安になったんだよ」


「それが起こらないように新田にこと正反対の髪と服装を強制したんでしょう?」

「そうは言ってもさー……わからないかなーこの乙女心は。不安なんだよふーくんかっこいいから変な虫がついちゃうじゃん?」


「一般的には梅宮海人の方がかっこいいと思いますよ。どうも向こうはそのつもりのようですしいっそのこと乗っかってみては?」

「絶対にいやっ! 私にはふーくんしかいないし、ふーくんには私しかいないのっ! だってそれが運命なんだもんっ!」



 俺を背負っている月島さんと諸悪の根源である夜照さんがそんな会話をしながら道から外れていく。女子2人。普段なら容易に逃げ出せるが、スタンガンと例の睡眠剤を飲まされては暴れることすらままならない。そしてこの記憶がなくなるのかと思うと、恐怖に身が竦む。



「この辺りなら人も来ないでしょう」

「うんっ! やったーっ!」



 月島さんが俺を木に立てかけ、夜照さんが膝の上に乗ってくる。そして薄くしか開けられない俺の目を輝く黒い瞳が覗き込んできた。



「わぁー……。ねぇ椿! キスしてもいいかな? いいよね?」

「駄目に決まっているでしょう。お父様に怒られますよ」


「でもこんな生殺し耐えられないよぉ……。それにふーくんは私のだよってマーキングしときたいじゃん? あ、キスマークってどうやるのかな?」

「知りませんよ……。それにそれはキスマークと同義でしょう」


「そうだよねー……。あ、そうだ!」



 何かを思いついたのか、夜照さんが口を大きく開く。今になって気づいたが、八重歯なんだな……。清楚な空気とのギャップに普段なら喜ぶところだが……。



「肝試しらしく、ドラキュラさんでいこう。あむっ」

「っ……!」



 強く、強く。首筋を噛まれたらそんな冗談言えなくなる。



「あむっ、むぅ……ぱっ。みてみて椿! 歯型! これでふーくんは私のだよって周りにアピールできるよね?」

「うわー……じゃなくて、そうですね。いいと思いますよ」



 …………。これなら、いけるか。



「あ、ふーくん寝ちゃった。もっとちゃんとおしゃべりしたかったのにー!」

「そのようですね。後はこちらでやっておくので早く梅宮海人のところに戻ってください。文月風人は恐怖で失神したことにしておきます」



 こんな何もない肝試しで失神なんてやめてくれよ……。でも立ち去ってくれるなら何でもいい。



「おやすみ、ふーくん。また明日ね。じゃあ椿、後はよろしく」

「はい。お任せください」



 夜照さんが立ち去る足音が聞こえる。これで話ができる。



「……おい。俺に協力しろ……」

「なんだ。まだ起きてたんだ」



 目を開けると、たいして意外そうな顔もしないまま月島さんが俺の隣に腰かける。



「でも普段のお嬢にはそんな狸寝入り通じないから気をつけてね。まだ起きていられる精神力には感服するけど」

「そりゃ……あんなに強く噛まれたらな……」


「はは、だね。血出てるよ大丈夫?」

「大丈夫か訊きたいのはそっちのお嬢とやらだよ……。材料集めの時もストーカーしてただろ……」


「あぁそれは私だよ。お嬢から急に連絡来て後つけろって言われた。そしたらアイドルだって言うし抱きついてるしでさ、申し訳ないけど写真撮らせてもらった」

「……にこぴーを傷つける奴は俺が……」



 まずい。本当に眠気が耐えられなくなってきた。早く本題に入らないと。



「お前……夜照さんに忠誠を誓ってるってわけじゃないだろ……。だから俺に協力しろ……」

「……協力って?」


「俺が記憶をなくした後このことを教えろ……。それで全部解決する……」

「解決って?」


「にこを救うんだよ……! あいつのやり口を知ってるお前と、あいつが好きな俺が協力したら何とかなるだろ……!」

「……かもね」



 わかっていた。わかってはいたが、乗ってこない。わずかに見える視界には目を伏せている顔しか映っていない。



「……夜照一族って結構すごいんだよ。みんな苗字には興味なくて変わってるからわかりづらいけど、どんな業界にも一人は幹部クラスに居座ってる。子ども作り過ぎで分母が多いからかもしれないけど、優秀な人が多いんだね。で、私の家は昔大金を借りて夜照に逆らえない状態。だから同じ年に生まれた私は大変だったよ。子どもの頃からあのわがままお嬢様の召使い。わかる? お嬢に弓を引くことはできないんだ」

「じゃあ……関係のないにこが被害に遭ってもいいってのかよ……!」


「……その点は安心してよ。暴走してる時のお嬢は頭が回ってないから何とかできる。暴力とかはさせないから。それにさ、お嬢って本家の人間だからついていけば安泰だよ。私も君も」

「それで……俺と夜照さんが結婚して……お前はずっと召使い。それでいいのか……?」


「……お嬢も言ってたでしょ。運命ってやつだよ。私には何もできない……」

「だったら……!」



 もうほとんど身体は動かない。それでも最後の力を込めて。月島さんの、手を握る。気持ちだけでも夜照さんの噛む力に負けないよう、強く、強く、強く。



「俺がお前を守ってやる……!」



 言ってしまってからなんか臭くなってしまったなと思いながらもついに身体が動かなくなり。



「……ありがとう。でもね、叶わない望みは持たない主義なんだ」



 頭を撫でる柔らかな感触を味わいながら、俺は眠りについた。



 そして翌日。



「好きです。俺と付き合ってください」

「!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡」



 俺は夜照さんに告白した。

無時1000pt超えさせていただきました! これも日ごろの皆様の応援のおかげです。本当にありがとうございます。


さて、第1章もいよいよ大詰めになります。おもしろい、続きが気になると思っていただけましたら☆☆☆☆☆を押して評価を、そしてブックマークといいねのご協力よろしくお願いいたします。

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