序章 人生の終わりの始まり
私立関次学園高等学校特待生枠入学試験。その日が俺の人生の終わりの始まりだった。
「っし……」
試験中なのにも関わらず無意識に小さくガッツポーズをしてしまう。それくらい完璧な出来だった。
元々家から近いという理由で選んだ学校だが、どうせなら特待生枠に入ってしまおうということで勉強すること1年。その結果が完璧に現れていた。まず間違いなく合格するだろう。
こうなると周りの様子が気になってくる。カンニングにならないよう軽く辺りを見渡してみると、左隣の席。窓際に座っている女子が気になった。
長く美しい黒髪をハーフアップにし、大きなリボンで結んでいるのが特徴的で、座っていてもわかるほどにすらっと細く、それでいて胸が大きい。何より美しさとかわいさを両立したその横顔が、焦りに歪んでいた。
彼女の机の上を見てみると、消しゴムが見当たらない。試験終了1分前で今さらながら忘れたことに気づいたのだろうか。
……試験監督は終了1分前ということで自分の腕時計に集中しているし、俺の答案は完璧。だったら……。
「!」
消しゴムを投げ、隣の女子に渡してあげた。
「…………!」
すると女子は一瞬驚いた顔をすると、すぐにこちらを向いてペコペコと頭を下げる。俺は小さく手を上げて答えると取り繕うように答案を眺めた。
別に普通に親切心。とは言ってもあれだけかわいいんだ。正直下心はあった。何より彼女も合格すれば、春から同じ学校に通える。家から近いといってもそこそこに頭のいいこの学校に進学する人は同じ中学では少ない。知り合いを作っておくというのは悪いことではないだろう。
あんなかわいい子と付き合えたら幸せなんだろうけ……!?
「っっっっ!」
答案を眺めていて、気づいた。俺の名前、「文月風人」が、鉛筆が当たってしまったのか「文月風大」になってしまっていることに。
どうするどうするどうする!? 消しゴムは渡してしまってもうない! これくらいなら学校は見逃してくれるか!? いや二重線を引いて新しく書けば何とか……!
「試験終了です」
「っっっっっっっっ!」
無情にも試験終了が告げられ、名前を誤ってしまったまま提出することになってしまった。
そして結果は見事不合格。その後一般入試で合格はしたが、特待生は逃してしまうこととなった。
これが人生の終わりの始まりの日の出来事。
ちなみに終わりとは試験に落ちてしまったことではない。
隣の席の女子。夜照弥生と出遭ってしまったことである。