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第13話 激突 ⑥

区切り方が微妙ですが、13話は一先ずここでお終いです。



「レイ! 目を覚ませ!」


 レイは叩きつけられた壁から瓦礫と共にゆっくりと崩れ落ちる。

 ユリウスの必死の呼び掛けにも答えないままぐったりとうつ伏せに倒れていた。


「左翼。あの少年の生死を」


「「はっ」」


「そんな…!」「行かせるわけないーーっ!!」


「それはこちらの台詞です」


 反乱軍の左翼を担っていた数人がレイの方へと向かう。

ユリウスとサウレはそれを阻止しようと踵を返そうとするが、マリアの指示を受けた別の兵士や騎士らに回り込まれて身動きが取れなくなる。


「マリア様、まだ息はあるようです」


「そう…ではとどめをーー」


「させないわよ!」


「「ッ!?」」「 誰ですか!」


 自身の言葉を妨げられ、マリアがその出所である天井の大穴の方へと顔を向ける。その視線の先では、ようやく戦えるまでに回復したクリスが今まさに広間へと飛び込んでくるところだった。


「貴様、何者ーーぐむっ!?」


「うっさいわね。どう見てもあんたらの味方じゃないでしょうが!」


 落下してくる少女を迎え撃とうと剣を構えた兵士が落ちるに任せた蹴りを顔面に食らって沈黙する。その兵士の体をクッションに無事着地したクリスがゆらりと立ち上がると、レイを取り囲んでいた兵士や騎士らも我に返り各々の武器を構えた。


「魔術師風情が我らを相手にするか!」「相手は1人だ、全員でかかるぞ!」


 次々に斬りかかる兵士たちだったが、クリスもまた斬撃を躱し、杖で受けて真っ向から応じる。


「レイは私が面倒みるわ! あんたたちは目の前のことに集中しなさい!」


「クリス、すごい…」「助かった。ひとまずは安心できそうだ」


 クリスはこの場にいる札付きの中でもレイに並んで過酷な任務クエストを生き抜いてきている。体術も窮地を切り抜けるための術の一つだ。

 大の大人に堂々と相対するクリスの姿を見て、マリアが小さく口を開いた。


「この建物の結界を破壊したのはあの娘ね」


「よく分かるね」


「当然です。あの若さでずいぶんと洗練された霊脈を持っているわ。…少し違和感を覚えるくらい完璧な、ね」


「…そう。それはどうも」


 引っ掛かる物言いを怪訝に思いながらもユリウスは努めて平静に答える。そして対峙する兵士たちからは視線を逸らさずにすぐ横にいた黒髪の少年に声を掛けた。


「サウレ、悪いけど多い方は任せるよ」


「ーーうん」


 サウレの返事を合図にして札付きたちは動き出す。


「そこの山賊! 僕と一緒にボストの相手を頼む! それ以外は敵部隊の足止めを!」


「糞ッ! 俺の天恵スキルはもう効かないってのにどうしろと言うんだ!」


 対抗策の見いだせないまま再開された戦いに政治犯は悲鳴のような悪態をついた。

 

 

             ☆

 

 

 倍以上の敵の渦中にサウレを置いてきてしまう形になったことに後ろ髪を引かれる思いを抱きながらユリウスは走る。


「…い、おい! ユリウス!」


「ーーっ!」


 そちらに意識が向いていたからだろうか。山賊男が耳元で騒いだことでようやく我に返る。


「ごめん、何?」


「勝算はあるのか、って聞いてんだよ! お前こんな鉄火場でよく余計な事考えられるな!」


「ああいや、…そうだね」


 吐き捨てるような調子の言葉に苦笑しながら、改めて自分たちが向き合わなければならない相手を見る。


「勝算は、あるにはあるんだ。…この刃を届かせることさえできれば」


「ああ、毒か。道すがらそんなことも言ってたな」


「…頼むから相手に聞かれるなよ…?」


 配慮なく口に出されたユリウスの切り札に関する言葉に冷や冷やしながらボストの様子を窺うが、こちらを脅威と認識していないのか聞いている様子はない。


「負担をかけることにはなるけど、可能な限りヘイトを買ってくれ。ボクはその隙を狙う」


「リョーかいだ!」


 極めて軽い返事をしながら山賊男は両の手甲を鳴らした。


「準備はできたようだな。それじゃ、行くぜ?」


 ユリウスたちの作戦会議が終わったことを察したのだろう。ボストもまた自身の剣を抜きつつユリウスたちへと向き合った。 

 

            ☆ 



「おい、前衛一人でどう戦うつもりなんだ!?」


「僕も前に出るよ。だからおじさんは支援をお願い」


 ユリウスが遥か格上相手に勝負を挑む一方、サウレたちもまた鉄火場の渦中に身を置いていた。

 一部がレイの元へ移動したとはいえ、いまだに反乱軍側の人数はサウレたちを大きく上回っている。


「支援て言ったって…」


 そう呟いた政治犯の言葉は恐怖からか僅かに震えている。恐らくは虎の子の熱線レーザーはマリアの作り出した防衛魔術によって封じられてしまったためだろう。しかし例えもう戦う気力を失っていたとしても、今更敵が見逃してくれるようなことにはならない。


「攻撃でも強化でもいい! おじさんもちゃんと戦って!!」 


 札付きとして生き延びてきた3ヶ月間でサウレが学んだのはそんな厳しい現実だった。だからこそ今は、少しでも生き残る可能性を上げるために拙いながらも怯えている味方を叱咤するしかないのだ。


「糞ッ! とにかく何とかしてくれ!! ーー敬虔なる我ら信徒に等しい守護を与えたまえ…!!」


 唱えられたのは身体の耐久力を上昇させる誓聖術。サウレは魔術が効力を発揮しているのを霊脈を通して感じ取ると、迫る兵士たちの列に躍り込んだ。

 ブーメランという武器の特性上戦闘では支援にも割ることの方が多いが、小柄な体格を活かした超近距離での戦闘も苦手ではない。


「逃がすか!ーーくっ!?」「こいつ、ちょこまかと…!」


 地を這うようにして騎士の股ぐらを潜り抜け、すれ違いざまにその健を斬りつける。


「ーー『念動力(サイコキネシス)』!!」


 さらに、すぐに迫ってくる追っての斬撃を躱すと天恵の射出能力を利用して跳躍。進路にいる兵士たちを次々と切り裂きながら飛翔し、今度は防衛線を突破しようとする別の兵士へと襲い掛かった。


「す、すげぇ…ガキのくせに」「これなら何とかなるかもしれないぞ!」


 白髪の混じる短い黒髪を振り乱しながら縦横無尽の戦いを見せるサウレの姿に、政治犯をはじめとする札付きたちが色めきたつ。

 しかしーー


「ーー立ちなさい!」


「っ…!?」


 マリアの一声が響き渡り治癒魔術が傷ついた兵士たちを包み込む。光属性を付与された金色の粒子が室内を眩く照らし、次の瞬間一気に霧散する。周囲に散っていく光の中から現れた兵士たちの体からは、先ほどまで負っていた怪我がすっかり消え去っていた。


「これだけの人数を一度に治したってのか!?」


「ええ。あなた方がどれだけ彼らを傷つけようと、私が何度でも治します。ーーあなた方をすり潰すまで、何度でも」


 驚愕する政治犯に、マリアはあくまで冷たい視線で応じる。


「皆、攻撃を再開しなさい」


「「「はッ!!」」」


「くっ…ーーッ!?」


 マリアの号令に従って歩みを再開する兵士たち。

 サウレたちも黙って押し潰されるわけにはいかないと地面を蹴るーーはずだった右足が何かに縫い付けられたように動かず驚愕と共にそちらを見る。

 視界に入ってきたのは床から伸びた水で形成された縄によって地面に縛り付けられた自分の足だった。


「こんな…!?」


 強引に引き抜こうと力を込めるも、絡みついた水の縄はびくともしない。


「死ねぇ!!」


「っ…!!」


 もがいているうちに接近してきていた兵士の一人がサウレの首目掛けてその剣を振り下ろす。


「跳べ!!」


 横合いから届いた声に地を蹴るサウレ。それとほぼ同時に届いた熱線によって水の拘束は蒸発し、辛うじて必死の斬撃から逃れることに成功した。


「器用な真似を。まあ、いいでしょう」


 サウレを仕留め損ねたマリアは口惜しそうな表情を浮かべながらサウレとは反対側の方向へと顔を向ける。

 そちらでは逃れきれなかった札付きの一人が声もなく崩れ落ちていた。


「糞ッ、前衛が殺られた…!」


 避けられなかった状況の悪化に政治犯は歯噛みする。

 対する反乱軍はあくまで冷徹に敵の排除を進める構えを見せていた。


「正念場です。気を引き締めて掛かりなさい」


 自身も杖を構えながら、マリアは目の前の敵を睨み据えた。


 

             ☆

 

 

「おおらぁ!!」


「ぐううぅ…!?」


 豪快に振り下ろされた剣を手甲に覆われた太い腕でどうにか受け止める山賊男。許容量を超えた威力の鈍く鋭い斬撃受けた男の表情は歪み、額には大粒の汗が浮かんでいる。

 ボストがさらに追い打ちをかけようと腕を振り上げたタイミングで息を潜めて接近していたユリウスの短剣がその脇の下へと放たれる。が、


「おっと、危ないな」


はなから狙いに来ると分かっていたように余裕しゃくしゃくと身を捻って躱されてしまう。


「狙いも動きも悪くはない。だが、その刃をなんとしても届けたいという気持ちが駄々洩れだ」


「狙い…?」


 嫌な予感を覚えて問い返すユリウスに対し、ボストは笑みを浮かべる。


「お前が毒を得手とする冒険者だということだ。万が一受ければ、無双の騎士ですらなす術なく命を落とすほどの、な」


「どうして……いや、そういうことか…」


 王女の護衛についていた騎士の中に一人、見覚えのある男がいた。恐らく彼は数日前に受注した王国要人の暗殺任務において、対象の護衛をしていたうちの一人。交戦時に、ユリウスがもう一人の仲間を毒殺したことを覚えており、この戦いの最中に注進でもしたのだろう。


「おい嘘だろ…!? 作戦がバレてんなら一体どうやってーーぐおッ!!?」


 毒による制圧。その作戦がご破産になりかけていることに混乱し、焦る山賊男。その隙を見逃さなかったボストが斬撃を見舞い、辛うじて手甲で受け止めるも、無防備だった体は受け止めきれずに派手に弾き飛ばされてしまう。


「悪いがお前よりもこいつの方が厄介なんでな」


 そう言ったボストは山賊男にとどめを刺すことはせず、真っ直ぐとユリウスの元へと歩を進める。


「厄介なんてそんな、とんだ買い被りだよ」


「そんなこともない。お前は間違いなく摘み取っておくべき厄介もんだよ」


 ユリウスの目前まで近づいてきたボストが油断なく剣を振り上げる。


「くそっ…!!」


 咄嗟に逃げ道を探すユリウスだたが、目の前に聳え立つボストはまるで大樹のようで一切の隙を見出すことができない。

 咄嗟に唯一残された背後へと退くがそれも半歩遅かった。


「ユリウス!?」「ユリウス逃げて!」


 仲間の窮地に気づいたクリスとサウレの必死の叫びが広間に木霊する。


「ーー死ね」


 容赦のない死の宣告と共に振り下ろされた刃が、ユリウスの上半身を荒々しく切り裂いた。


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