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第13話 激突 ①

昨夜投稿に向けて追い込んでいたらPCがプリーズ。見事に直前までのデータが消えました。

そんなわけで慌てて書いた最新話になります

( ̄▽ ̄)ゞ


 サン・スノーチェニスカ王国軍本陣。反乱軍が立て篭もるアドルスタス大要塞と向かい合う丘陵地帯に位置するその場所からは、眼前に広がる戦場を一望することができた。

 現在は多くの将兵が前線に出撃しているため本陣の人気はなく閑散としている。そんな丘で独り静かに眼下の様子を見守っている男がいた。

 その時、静謐をまとった碧い瞳が不意に揺れた。


『―――ご機嫌よう、第一位。久しぶりの戦場はどうかしら?』


「やあプリム。どうかな…できることならこんなことは起こらない方が良いとは思っているけど」


 頭の中に響いた知己の声に、ギルド爵位(ランク)第一階位、“武優の剣(デュランダル)”が冷静に応じる。


『そうですね…。このように同じ国同士の人々が争うことなど、本来あってはいけません。だからこそ、この大事に(わたくし)たち冒険者を頼ってくれた彼らをこれ以上争わせるわけにはいかないと、私は思うのです』


 プリムの、慈愛を体現するようなその声には、真摯な響きが見て取れた。


「そうだね。そして、僕に伝心魔術(テレパシー)を送ってきたってことは、その目算が立ったって立ったってことだろう?」


『察しのいいあなたのそういうところ、私は好きです。ええ、貴方の言う通り、戦況に変化が起こりました。私の手の者からの報告が出揃ったので、報告します」


 そう言って、彼女はここまでの戦況について話し始めた。


 今回の要塞攻略戦は大きく分けて三つの戦場に分かれている。主戦場はアドルスタス大要塞を中心に扇状に構築されており、それぞれ右翼、中央部、左翼と分けられていた。

 戦線左翼。現状として戦線の押し上げはできなかったようだが、ギルドから派遣されていた第三階位、キースの活躍もあり反乱軍側の消耗も大きいようだった。

 中央部については、王国軍が全面にて突撃を敢行。こちらも状況に大きな変化はなかったが、狙い通り反乱軍の注意を引き付けることはできている。

 その間、第二階位の銀鈴(エアリアル)は遊撃手としてあちこちの戦線を飛び回り、局所的な攻撃を行なっていた。その被害は大きくないが、敵を混乱させる役割は十分に果たしてくれた。

 そして最後に、右翼の状況。


冒険者たち(彼ら)の動きは大きいし、貴方の所からでも見えていたんじゃない?』


 確信を持っているようなプリムの言葉にアーサーは頷く。


「うん、そうだね。彼らの活躍はここからでも良く見えたよ。作戦が上手くいったことも確認出来てる」 


 彼らは当初の作戦通りに戦線右翼へと進撃し、その個性豊かな戦い方をもってして反乱軍の注意を引き付けることに成功していた。

 アーサーの支援もあって右翼は崩壊し、さらに傷口を広げようと雪崩れ込んだ冒険者たちだったが、群れを成す彼らの集団に先頭が突然足を止めたのが見えた。


「あれは…!」


 大地を埋め尽くす冒険者たちが波打つように見えた直後、その先頭集団に穴が開いたのだ。


「良かった、来てくれたか!」


 王国の守護神にして反乱軍が仰ぐ正義の象徴の騎士、エドワード・オストロジークが崩壊した戦線を立て直すために冒険者たちの前に現れたのだ。

 待ちに待った人物の登場に、アーサーの気持ちも昂っていた。


『冒険者たち、格上相手にすごい頑張っています。期待以上の戦果と言っても良いでしょう。貴方も、彼らの期待に応えてあげなくてはね?』


 エドは人界大陸で数少ないアーサーに比肩しうる実力者だ。速やかに作戦段階を次に移さなければ、時間を稼いでくれている冒険者たちにどんな被害が出るかも分からない。


「無論だよ。僕はこれから戦線中央に向かう。冒険者のみんなのことは任せたよ」


『ええ、任せて。ここまで頑張ってくれたんですから、生きて彼らに報酬を受取ってもらうのが私たちの仕事ですもの』


 伝心魔術ごしにも伝わってくるプリムの真剣みを帯びた言葉に、アーサーは思わず微笑んでしまう、


「そうしてくれ。きっと、彼らも喜ぶ」


 短い肯定を最後にプリムからのテレパスが終わる。それを確認すると、アーサーもまた、自身の役割を果たすべく歩き出した。

  


            ☆  



 エドが前線に辿り着いた時には既に、空を覆わんばかりの巨大な光刃が天高く展開されていた。

 エドは一目で周辺の味方の避難が間に合わないことを悟る。


「霊脈全開通。槍よ、我が全霊を喰らい、その真価を示せ!!」


 エドの体に走る幾重もの霊脈、その全てを叩き起こして魔力を通す。

 桁違いの魔力の解放は瞬時に空間の魔力保有量が飽和し、暴風のような魔力の波がエドを中心に激しく渦巻き始める。 

 解放された魔力は捧げ持つ神槍へと流れ込み、槍は呼応するように始めは淡く、そして次第に力強く輝き始めた。そして唐突に粒子がその動きを止めると、次の瞬間、激しい風が槍から溢れ出し、巨大な竜巻の槍を形成する。その規模はアーサーの抜いたデュランダルに比肩するほどだった。


 エドはゆっくりと暴風の化身と化した大槍を振るい、真っ直ぐに斬り降ろされるデュランダルに真っ向からぶつける。

 巨大な決戦兵装同士の衝突は雷鳴よりもなお激しい音を戦場中に轟かせる。交差した相反する魔力は互いに反発し、強烈な光線となって周囲一帯に乱反射していた。戦いの余波は周囲の地面を抉り、人々を吹き飛ばし続ける。


「持ってくれよ…!」


 エドは凄まじい勢いで消費されていく自身の魔力を自覚しながら、未だ衰える様子を見せないアーサーの剣勢を睨む。

 既に切り札を切ってしまった以上、無理にでもこのまま押し切ってしまうしかない。


「ーーー!!」


 さらに強く槍の柄を握り締め、全身を流れる魔力を霊脈へと押し出す。魔力の過剰出力により体中から電弧(アーク)が迸り、声にならない悲鳴を上げる。

 全力を超えたさらなる魔力を受け、暴風荒れ狂う巨大な槍はより一層激しくその力を解放した。


「押し切る!!」


 エドのさらなる魔力を受けて勢いを増した槍が、振り下ろされたデュランダル徐々に押し戻し始める。



            ☆



「やっぱり、手強いな」


 エドとは正反対の場所から同じく交差した兵装を握って立っていたアーサーは、呟いていた。

 全力を込めたデュランダルの一撃は予想通りエドの切り札を誘うことに成功したが、アーサー自身にも今の膠着状態を打破する力は持っていない。エネルギー切れを待つしかない。

 しかしエドの槍は衰えるどころか刻々とその力の規模を拡大させている。


「くっ…まさか、こんな…!」


 ますます大きくなっていく竜巻をまとった槍の力に、アーサーの体が傾ぐ。そして――― 


「はあ!!」「ぐっ…!?」


 巨大な槍がぐわりと振り抜かれ、押し留めることが出来なくなったデュランダルは空へ向かって派手に叩き上げられた。

 それを最後に、力を使い果たした双方の得物は纏っていた魔力を失って元の状態へと収縮〈戻り〉、し、後には一陣の突風が駆け抜けた。 大地を振るわせるほどの鍔迫り合いは、双方の対消滅という結末で決着がついた。



 

            ☆





「参ったな。正直噂以上だったよ」


 アーサーが口を開いたの目の前には、決戦兵装同士の衝突によって一面の荒野と化した反乱軍の防衛陣地が広がっている。

 一度肩の力を抜くように剣を下ろすアーサー。その言葉には、自身に比肩するほどの実力者がいたことに驚きながらも、敬意が込められていた。


「そういう割りには、まだまだ元気そうに立ってるじゃないか、ギルド爵位(ランク)第一階位“武優の剣(デュランダル)”」


 対するエドは油断なく槍を構えながらアーサーに応じる。


「それにしてもずいぶん回りくどいことをしてるな。俺を誘い出したいなら右翼で頑張っていたご同僚たちと一緒に行動すればよかったのに」


「それだと右翼にいる守備隊だけで対応できてしまう可能性があったからね。中央で派手に動けば、君も誘い出すいし、最悪出てこなくても反乱軍の主力を殲滅できる」


「分かってはいたけど、まんまと乗せられる形になったな。こっちはどうにか決戦兵装は防いだが、その余波だけで陣地は崩壊、兵の多くも戦闘不能だ。やってくれたな」


 あくまで友好的な態度のアーサーに対し、エドの声には不機嫌さが滲み出ていた。


「もう十分暴れたろ。そろそろ退いてくれてもいいんじゃないか?」


「…それは僕らに契約を満了して退けって言いたいのかな?」


「ああ、そうだよ。これ以上余所の揉め事に口を挟まないでくれないか? それが嫌なら、いっそ反乱軍側(こっち)についてくれるんでもいい。金はいくらでも出してやる」


「悪いけどそれは出来ない。こちらも信用あっての仕事だからね」


「っ…」


 すました顔のアーサーにエドは小さく吹き出した。その反応が気に障ったのか眉を顰めるアーサーだったが、対するエドはすぐに顔を引き締めると、腰を落とすようにして臨戦体勢をとった。


「まだ、続けるのかい?」


「当たり前だ。お前たちが立ち塞がる以上、目の前から完全に排除されるまで俺は叩き続ける。別に手を抜いてくれたって構わないぞ。その方が確実に殺せる」


「そんな真似はしないよ」


 そう言ってアーサーも剣を構える。

 どちらの戦士からも合図は無かった。しかし、張り詰めた緊張は同時に限界を迎え、双方の足が力強く地面を蹴る。

 鋭い剣戟が戦場に木霊し、英雄同士の第二ラウンドの幕が切って落とされた。



 


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