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第8話 再始動 ①

少し箸休め回です〜。


 薄暗い洞窟の中では、多数の気配が忙しなく動いていた。


「エイリーク! そっちに一匹行った!!」


「了解だ! ーーせいっ!!!」


『ーーー!!!』


 横一文字の一閃に薙ぎ払われた巨大なコウモリは、甲高い断末魔を響かせながら霧散した。それを視界の端に収めながら、メルは他の仲間に声をかける。


「みんな! あと一押しだよ!!」


「だと良いんだけどね」


「ユリウスはすぐに余計なこと言う」


 苦笑するユリウスの横でサウレが小さく口を尖らせる。


「二人とも、次が来る」


 そんな彼らの先頭で、新たに飛び立った10数匹のコウモリを迎え撃つべく、レイは二振りの片手持ち戦槌(メイス)を構えた。


 高さ数メートルはあろうかというドーム状の洞窟の天井からは、人間の子供ほどもある深層コウモリの成体がこちらを睥睨している。遭遇時は天井を埋め尽くほどだったその数も、ここまでの戦闘でかなり減ってきていた。


『『ーーーー!!!』』


 悲鳴のような鋭い鳴き声を発しながら急降下してくるコウモリの群れ。それに対して最初に動いたのはサウレとクリスだった。


「いけ!」「霊脈起動ーー『氷槍』!!」


 サウレが投擲した2本の鎌は弧を描き、クリスが射出した無数の鋭い氷塊と共に魔物の群れを打ち落としていく。そんな嵐のような攻撃をどうにか突破した魔物たちは、冒険者たちが陣取る洞窟の入り口へと殺到する。

 それを待ち受けるのは、前衛として立ち塞がる計3本のメイスだった。


「はあーっ!!」


 メルとレイが豪快に振り回した鈍器によってコウモリたちは次々と叩き潰されていった。それすら潜り抜け、陣地の中心で無防備な姿を晒していた鎌使いと魔術師に襲いかかった魔物は…


「残念だけど、届かないな」


 気配を殺して滑り込んできた青年の一突きであえ無く消滅した。


 その時、油断なく残るコウモリたちを見据えていたエイリークが何事かに気づいて仲間たちを振り返った。


「おい、超音波(ソナー)が来るぞ!」


「「「っ!!」」」


 弾かれたように天井を仰いだメルたちの前で、残る全てのコウモリたちが激しく体を振るわせ始めた。


 次の瞬間ーー


『『『ーーーーーーーーー!!!』』』


「う…!?」「ぐお、お!?」


 空間そのものを揺るがすような激しい振動がメルたちを襲う。


「またこれかよ…!!」


「体が…動かない! て言うかこれ、洞窟そのものがやばいんじゃないの?」


 自分の体が思うように動かせなくなるほどの振動は、硬い岩盤でできているはずの洞窟のあちこちに亀裂を発生させていた。


「まだだ…。もう少し…」


 冒険者たちが身動きが取れないと判断したのか、コウモリたちは天井から飛び立ち、彼らを取り囲むようにゆっくりと旋回しながら降下し始めた。やがて、その凶悪な爪が彼らの喉笛を掴むほどの距離まで接近した時、


「クリス、今」


「オッケー。みんな、悪いけどちょっと魔力もらうわ! ーー『光弾』!!」


 レイの合図で杖を構えたクリスが詠唱するのと同時に、メルは自身を含めた周囲の魔力がクリスに向かって流れ込むのを近くした。  

 そして、その現象が終わるのと入れ替わりに龍脈石から白い光の球が打ち上げられた。それはメルたちの真上をまっすぐと飛翔し、次の瞬間、強烈な閃光となって洞窟内を照らし出した。


『『『ーーー!!?!?』』』


 不意の衝撃。洞窟に生きるこの魔物にとって、許容量を越えた光の本流は行動不能になるには十分な威力を持っており、の大半は悲鳴を上げながら錯乱するか、失神して墜落していった。これにより、先程まで洞窟を揺るがしていた超音波も途絶えてメルたちの手足も自由を取り戻した。


「…っし、体も問題なく動くな」


 エイリークは自身の体の調子を確かめるように、その拳を固く握りしめている。


「よし、残敵の掃討に移ろう」


「うん!」「おう!」「はいっ!」


 仲間たちが万全であることを確認したレイが、号令をかけ、皆がそれに続いた。



             ☆



「見たところこいつで最後みたいだが…」


 エイリークは足元に転がっていた深層コウモリにとどめを差しながら周囲を見やった。


「そうね。私の探知結界の中に引っ掛かってる魔物はもう一匹もいないわ」


「そっか、なら大丈夫だね。みんなお疲れ様」


「お疲れー」「おう」


 メルの呼びかけに応じるように、臨戦態勢だった仲間たちが緊張を解き始めた。


「周りの岩盤を見てきたけど、意外と超音波の被害は少なかったから今日はこのままここで野営にしよう。クリス、念のため結界の補強を」


「オーライ」


「今度はすっからかんにするんじゃねぇぞ」


「大丈夫大丈夫、あんたの分だけで済ませるわ」


 軽口を交わすエイリークとクリスを見て、メルは密かに安堵の溜息を吐いた。

 

 ニーナが設けた和解の場から2ヶ月。あれから幾度かの任務を経たメルたちは、ようやくパーティとしての体裁が取れるようになってきていた。

 魔物の接近を察知するための結界設置をクリスが担当し、その護衛としてエイリークが付き添っている。メルはシーリン、サウレと共に食事の準備を行い、レイとユリウスは戦利品の回収と確認をしていた。

 今行っているこれらの作業も、ここまでくると慣れたものである。 


「今日が最終日だっけ」


「はい。手持ちの備蓄量から考えて、戦闘ができるのは今日一杯といったところだったはずです」


「そっか、かなり上手くいってたからちょっともったいない気もするけど。ま、頑張ったおかげで指定された深度の魔物はちゃんと掃討できてるし。ね、頑張ったよねー、サウレ君!」


「…うん。お姉ちゃんたちと戦うようになって、僕も少しだけ強くなれたんだ。今日も深層コウモリ一杯倒せたし」


「大活躍だった! もう、同じ初心者とは思えないくらい活躍しててちょっと妬けちゃったよ」


 そう言いながらメルに頭を撫でられたサウレは、照れくさそうに目を細めた。


 “札付き”たちとの交流を続ける中で、レイとクリス以外の人々との関係性も深まってきていた。その中でも、最も顕著だったのが一度顔を合わせていたサウレとユリウスの2人だ。経験も浅く、パーティの中でも最年少のサウレは皆に可愛がられ、また、メルら“白札”とレイたち“札付き”に分け隔てなく接するユリウスは、調整役として双方から頼りにされていた。


「戦利品の収集終わったよ。まあ、そこそこの額にはなるんじゃないかな?」


「深層コウモリのコロニーだったみたいだから」


 やがて、キャンプの準備をしてたメルの元にレイ、クリス、ユリウス、エイリークが帰ってきた。


「みんなおかえり。とりあえず、先に戦利品の整理をーー」


「あー、そんなのあと後! まずはご飯にしましょ! 今すぐに!!」


「…はぃ。分かったから離れてください…」


 空腹からか、崩れ落ちるようにクリスに抱きつかれたメルは、その豊かな胸に顔を埋められて渋い顔をしながらその提案に同意した。



             ☆



 それからしばらくの後。魔術による細やかな灯りの下では、戦闘を終えた冒険者たちが食事を片手にゆったりとした時間を過ごしていた。


「質素な食事も、スープが一つ付くだけでだいぶ違うわね」


 そう言うクリスが持っているのは、スープの素をベースに野菜や乾燥肉などを加えた簡単なスープだ。一般の冒険者からすれば比較的オーソドックスなものだが、レイやクリスといった面々には縁遠いものだったらしい。


「荷物にもならないのでおススメですよ」


「残念だけど、あなたたちがいなきゃたぶん買えないわ」


 スープの手軽さを勧めるシーリンに、クリスは苦笑いしながらそう応じている。その様子を眺めていたメルの耳元に、突然声が届いた。


「思ったより上手くやってるみたいだね」


「わ、ユリウスさん? びっくりした~。いつの間に近づいてたの?」


「ごめんごめん、スニークは得意なんだ」


「ほんとにびっくりしたよ…。でも、うん。前よりはみんなとの距離も近づいた気がする」


 そう言いながら、メルはここ最近で新たに積み重ねてきたレイたちとの日々に想いを馳せた。


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