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第6話 苦い達成感 ②

 6話はこれで一区切り。次週は7話です。ついでに一月半ぶりに更新した『デニス雑貨商』もよろしくお願いします。


 セントラル・ギルド内、冒険者用カフェテリア。ギルドに所属する冒険者向けに運営されているカフェであり、美味しい食事を格安で利用できることから、階級を問わず多くの冒険者たちに利用されている。

 そんな賑わう人々の中でただ一人、テーブルの上に死んだように突っ伏している人物がいた。


「…ん? なんかやわっこいのが」


 それはスリスリと足に心地好い刺激を感じてもぞもぞと動いた。どうやらテーブルの下に小動物が迷い込んだようなのだが…。そちらに気を取られていると、今度は頭上から見知った声が降ってきた。 


「四人掛けの席をずい分贅沢に占領してる奴がいると思ったら、なんだ、メルじゃないか」


「ん~~……? あ、フォルテ。…と、ベル、ミツキ」


 メルがゆるりと首を巡らせて上を見ると、同じ冒険者であるフォルテが仲間と共に立っており、その肩にさっきまでメルの足元にいた白猫、フラットが飛び乗った。


「ご飯?」


「はい。けれど3人一緒だとなかなか席が見つからなくて」


 ベルは困り顔で日替わりランチを乗せたお盆を軽く持ち上げる。

 ここで食べられる食事はギルドによって提供されている福利厚生のようなものなのだが、ここにもギルド由来の制度が関係してくる。自身の属するクラスに応じて、料理のクオリティも高くなっていくのだ。

 未だメルが届かない“黒のポーン”ランクのランチに物欲しそうな視線を向けるメルに気づかないまま、フォルテが口を開いた。


「もし良かったらここ、座っても良いかな? 良いよね。うん、ありがとう」


「ちょっとー、まだ良いって言ってないんですけど。私の安息を奪うなら相応の対価を要求するよっ」 


「はいはい、どうぞ」


 相変わらずテーブルに身を預けているメルに、フォルテは肩のフラットを差し出す。


「うーん、座ってよし!」


「別に君の許可は要らないけどね」「然り」


 顔を輝かせてフラットを抱き寄せるメルの様子をフォルテとミツキは呆れた表情で見ていた。

 ちなみにフラットの方は慣れたもので、抱っこされながら撫でられると気持ちよさそうに目を細めてゴロゴロと喉を鳴らしていた。

 


 

「それで、メルさんは何かあったんですか? 少し元気がないご様子でしたが…」


 皆が席に着き、食事を始めてしばらくしたところで、ベルがメルがテーブルに突っ伏していたことについて尋ねてきた。


「あー、うん、ちょっとね。この前初めてパーティを組んだ人たちがいたんだけど、その人たちと上手くいかなくて…」


「それは先日言ってた任務の話でござるか?」


「ああ、群狼魔討伐のやつだね」


「そうそう、それ」


 フォルテもミツキの言葉で先日の出来事を思い出したらしい。


「その人たちとどうかしたのかい? 実際に組んでみたら酷い連中だったとか」


「ううん…そういうんじゃ無かったんだけど。ちょっと説明が難しいかも」


 

             ☆

 

 

 ミケーナたちが立ち去った後、残っていた首無しの死体に火を放って燃やし、灰になったことを確認してメルたちも廃村を後にした。補給を兼ねて立ち寄った最寄りの町で幸運にも馬車を捕まえることができた一行は、一路ギルド・シティへ向けて荷台の上で揺られていた。  

 木製の荷台に天井代わりの布を張った粗末な馬車の中、それまで必要最低限のやり取りしかしてこなかったメルたちだったが、ここに来てようやくエイリークが口火を切った。


「…いい加減、説明してもらいたいんだけどなぁ、クリスさんよぉ」


「………」


「クリス」


「…分かってるわよ」


 初めはそっぽを向いていたクリスだったが、レイに促されると面白くなさそうな顔をしながらも素直に向き直った。


「…私の天恵(ギフト)は『マジック・ドレイン』。効果範囲内にあるあらゆるものから魔力を奪い取る力よ。その対象は動物や植物みたいに体の中の龍脈に魔力を持ってるものだけじゃなくて、魔剣みたいな魔力装置とか、ちょっと無理すれば霊脈から直接でも吸収することが出来る。ただ、私自身の魔力許容量はホントみそっかすで、基本的には魔術行使のたびに吸収するか、手持ちの魔石に貯めてあるのを使ってる」


「『マジック・ドレイン』…。また聞いたことの無い天恵が出てきたな」


「けど、あの時急に身体強化が出来なくなった説明はつきそう」


 クリスの告白に、メルとエイリークは思い思いの反応を見せる。

 魔力とは、大気を含んだあらゆる場所に存在するエネルギーだ。特に動植物の体内には“龍脈”と呼ばれる器官が張り巡らされており、その中を魔力が循環することで生命活動を活性化させる。それを意図的に促進させると身体能力の強化や治癒能力の向上に、また、術式を通して排出することで、いわゆる魔術の行使となるのだ。


「つまり、結界修復のためにクリス様が天恵を発動した結果、効果範囲内にいたメル様とエイリーク様の魔力までもが吸収され身体強化が解除された、と。しかし、あの時のお二人は満足に立てなくなるほど消耗していたと記憶しているのですが?」


「うーん…確かに。あれは強化のための余剰魔力を持っていかれちゃったって言うより…」


「何もかも、根こそぎ吸われてたな」


 メルの後を引き取ったエイリークはそう言うと、ここまでの情報をまとめにかかる。


「要はあれか? あんたと一緒に戦う時は常にその効果範囲の外から魔物を倒せってことだよな? 四方八方駆けずり回って、あんた狙いの敵も捌いて!」


「私が知るわけないでしょ。別に頼んでもないし!!」


「……はっ! これは、とんだお荷物がいたわけだ…。メル、 これは無理だぜ…」


 頬を膨らませて再びそっぽを向いてしまったクリスを見て、エイリークは脱力した声を出しながら顔を覆った。


「………」


 その様子を黙って見ていたレイは一瞬だけクリスの方を向いて口を開きかけたが、しかしそれも躊躇し、結局何も言わないまま視線を落としてしまった。


「先行き不安どころじゃない。このままこのメンバーでパーティを組んでいくのか、考えた方が良いぜ」


「そんなこと…」


 イラつくエイリークに対し、メルははっきりと否定の言葉を告げることができなかった。

 そこからの道行きでも最後まで会話という会話は無いまま、報酬を受け取り次第持っていく約束だけ取り付けてギルド・シティにて解散となった。



             ☆



ちょうど今日報酬を受け取った。

ミケーナから勧誘とか受けたけど正直うざい。

報酬を渡しに行きたいけどどつしよう気まずい。

そこへニーナ登場!



「それがちょうど3日前。で、さっきその任務(クエスト)でかち合ったパーティのリーダーさんと一緒に報酬もらってきたんだ」


 そう言いながら、メルは懐から硬貨が入った革袋を取り出してテーブルに乗せた。


「黒のポーン相当の任務をきゅ…7等分でしたでしょうか? 額としてはそう悪くはありませんね」


「うむ。して、メルは結局どうするつもりでござるか?」


「どうするって、それはもちろんレイ…組んでた人たちに渡しに行かないといけないんだけど…」


 しょぼしょぼと答えながら再びテーブルに伸びるメル。


「ちょっと気まずい…か。まあ無理もないと思うけどね」


 そう言って、フォルテがその後を引き継いだ。


「正直メルの説明だけだと、その人たちが酷く非協力的な人物だという印象しか抱けないんだ。それに、何か言いづらい秘密も抱えているみたいだし。でもメルは、関わりを絶ちたいとは思ってないんでしょ?」


「それは…うん。ちょっと自信無くなってきちゃったけど」


 約束はきちんと果たしたい、けれど面と向かうのは少しやりづらい。メルの抱える葛藤にどんな言葉を掛ければいいのか。誰もがそう思い、一時的な沈黙が訪れたところでーーー


「そーんなあなたにとっておきの提案があるんだけど!」


「「「!?!?」」」


 メルの背後から突然現れた新たな人物に、その場にいた全員が驚いて固まってしまう。


「あれ、ごめんちょっと驚かせ過ぎちゃったかニャ?」


「え…いや」「えーっと…?」


 その人物、未だ驚きの只中にいる4人を見て慌てたように手を振った。


「そこの3人は仕方ないと思うけど、えっと…そう! メルちゃん! あなたなら分からない?」


そう言って、少女は「見てくれ」と言うようにメルの前で両手を広げる。

 桃色のショートボブにへそ出しのタンクトップと短パンという露出度の高い服装。そして獣人特有のネコ科を思わせる耳と尻尾…


「尻尾………あっ!」


 そこでようやくメルの記憶と目の前の光景が一致する。


「あなた、ミケーナさんとこのパーティにいた!!」


「そう! 良かった思い出してくれて! で、突然なんだけど、あたしと一緒に任務に行ってくれニャい??」


 獣人の少女はその愛らしい瞳を潤ませながら、そんな突拍子もないことを頼み込んできたのだ。


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