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こんな僕じゃ、かっこいいなんて思われないだろうな

 長いのは勘弁してください!

 本当は一気に出す予定でしたが長ったらしいと読む気が失せると思って分けました。

  

 区切りをつけるのが難しいのです

 


 講義中、やけに時間が長く感じた。


 それもそうだろう、彼女が隣で彼と一緒に講義を受けている。


 甘い香りが風によって鼻に運ばれる。


 高鳴る心臓が止まない。


 周りの目が彼に向いて小恥ずかしくなる。


(なんでわざわざ僕の隣に)


 講義中も感染防止のために間を保たなければならないのだが、教授も注意をしない。


(もしかして影の支配者とか...)


 ありもしない考えが思考を崩す。


 ボールペンを持ち、教授から配られた紙に言葉を書いた。


「なんで僕の隣に来るの?」


(この中では、吃らずに話せるのに)


 紙の中で意気揚々と流暢に話す自分を想像した、なんだか嫉妬が芽生えそうだ。


 その字に気付いた彼女がシャーペンを持って字を書く。


——「助けられたから」


 その字は、達筆だった。


 本当に、彼女の挙動行動全てに惚れそうだ。

 いや、惚れた結果この心臓が叫んでいるのか。


 その下にその返答を書いた。


「大した事じゃないよ、それより何で君は誰にも注意されないの?」


 上に書かれた字と自分の字を見比べた。


 雲泥の差、いやそれ以上だから月と(すっぽん)と言う言葉がよく似合う。まるでこの時のために作られたといっても良い(ことわざ)に運命を感じた。


——「怖がられてるから」


 書かれた言葉に興味が湧いた。


(やっぱり影の支配者なんじゃ...)


 続くその文字に目を向けた。


——「私の事覚えてる?」


 その言葉にドキッとした。ここで覚えていないなんて書いたら嫌われるかもしれない。


「ごめん、わからない」


 これが僕の精一杯の勇気だ、真意だ。

 嘘は、つきたくない。


——「青崎咲だよ、信楽 せいくん」


 その懐かしい言葉に惑わされた。


 思い出した顔をもう一度見ると、昔みたその表情に驚いた。


 彼女が顔を見られ、恥ずかしそうに視線を逸らした。


——あっ!!。


 その声が部屋中に響く、全員がこちらを見て怪訝そうな顔をした。


——静かにしなさい。


 白衣を着た女性の教授が聖斗を睨んだ。


 白蛇に睨まれた哀れなガマ、明らかな敵意が聖斗を突き刺した。


——す、すいません。


 何も弁解する気はなく、申し訳なく謝る。


 なにあれ ヤってんじゃねぇの 騒がしい


 様々な声が聞こえた、彼女に申し訳なくなる。


「忘れてて、ごめん」


——「久しぶり、また会えて嬉しい」


 小学校以来だ、忌々しい記憶の蓋が外れる。


 頭痛がするがそれでも書く。


「なんでここに?、ここはそんなに頭のいい大学じゃないよ」


 彼女の顔が少し微笑んだ。


——「いろいろあってここに行き着いた」


 その顔からは彼女にさまざまな苦労があった事が簡単に推測できた。


「そうなんだ、変なこと聞いてごめん」


——はい、じゃあプリント集めるから、同じ列の奴と重ねて真ん中の通路側に寄せておけ。


 集めることなんて知らずに書いた。

 焦ってプリントの字を消し始める。


 皆が一斉に集め出す。


 咲の字はシャーペンだったから消せたが、自分の字はボールペンでだったので消せなかった。


——え、あ。


 無慈悲に回収されて情けない声が出る。


 咲が聖斗の腕に触れた。


 か細い指が触れて少し驚いたが、なぜか咲もそれに驚いている様だった。


 咲が聖斗の背に字を書いた。


——「ごめんなさい」


 小学生の頃の記憶が蘇った。


(何年も前に、こうしていたっけ...)


 淡い記憶が聖斗を感情の海に溺れさせる。


 昔を思い出す。


 誰もいなくなった部屋で2人が残った。



 思い返すと恥ずかしい、情けない。


 17時に大学横の公園にいた。隣で紙パックの野菜ジュースを嬉しそうに飲む咲を見る。


(こんな僕じゃ、カッコいいなんて思われないだろうな)


——あ、あの、なんで咲ちゃんはそこまで僕に、ありがとうで、その関係は終わりそうだけど。


 吃らないように喋ったが伝えたい言葉が上手く出ない。


 綺麗な瞳がこちらを覗く。


 心臓が高鳴ってなにもできなくなる。


——〜い、よ。


 掠れたその声に惹かれる。


——え?。


 僅かに聞こえた声に反応できた。


——ひと、ことじゃ、つた、わらないよ。


 その綺麗で透き通った声に魅了された。


 聖斗とはまるで違う話し方。

 まるで久し振りに話した様な話し方。


 魅了されていて、ある程度時間が過ぎて返事をしていない事に気付いた。


——あ、ああ!、そうだね、そうだよね!。


 照れ隠しに背を伸ばして周りを見渡す。


 周りを見渡すと、公園で遊ぶ子供達のボールが2人に向かって転がってきた。


 咲の足元に転がり、奥から男の子が走ってくる。


 咲がビクビクして怯える。


 男の子が目の前に来たときに咲は聖斗の腕に抱きつく。思わず顔が赤くなる。


 肌を通じて感じる痙攣は、嘘でない事がよく分かった。


——ごめんなさい!。


 一礼してボールを持ち、男の子は集団の元に戻った。


 礼儀正しい男の子だ。


——あ、あの咲さん? 一体。


 目を瞑って怯えている。


 その怖がる様子を見て、心配よりも可愛いという感情が優ってしまう。


——「このままに させて」


 震える指で必死に描いた。


 この様子を見ると過去に何かあったのがよくわかった。


 だが聖斗には慰めるという選択肢はできなかった。彼女が落ち着くまで彼は腕を貸した。


 彼女が落ち着いたのは10分も過ぎた後だった。


 何も言えない静寂が独り歩きして1秒1分がまるで病院の待ち時間の様に長い。


 突如、咲のいる方向から革靴の音が響く。


——咲、迎えに来たよ。


 後ろから聞こえた声に目を向けた。


 スーツを着た白髪まじりの男性。


 聖斗はその人を見たことがある。


 久しぶりに見るその顔は少し痩せこけていた。


(咲ちゃんの、お父さん)


 頭が痛くなる。

 過去を嫌でも振り返ってしまう。


——あ、お、おひさし、ぶりです。


——君、咲から離れてくれないか?。


 高圧的な声に思わず恐怖した。


 僕の事を忘れてしまったのだろうか。


——あ、す、すいません。


 席を立とうとしたが裾に力を感じて動けなかった。咲が聖斗を離さなかった。


 咲の父親が驚いて聖斗の顔を見つめる。


——もしかして、聖斗くんかい?。


——は、はい。



 左に咲を置き、右に咲の父を置く。


(どういう状態なんだ)


——先程の無礼を詫びるよ。


 なんだか怠そうな声だ。


——そ、そんな、愛娘が、男といたら、そうなるのは、当然ですよ。


(僕なんかがフォローしていい相手だろうか)


 咲の父はキョトンとした顔をする。


 手を顎につけてさするように考えた。


——そうか、そりゃ愛娘が誑かされそうになってたら怒るか...。


——え...?。


(何、納得してるんだこの人...)


 前はこんな人では無くもっとこう、愛妻家で娘思いのできるパパだった様な、いや、きっと今もそうだろう。


——そうだな、ならさっきのは無礼じゃなくて父親として当然な行動として、詫びは撤回させてもらおう。


——そ、そうですね...。


 思想が困惑する。

 こんな人だったかと、自分の記憶を疑う。


——しかし本当に久しぶりだ、辛いこと聞くけど、親御さんとの仲はどうなんだい。


——お、弟のお陰で全部丸くいってます、僕は、煙たがられてますけど。


 指を合わせてバネの様に伸び縮みさせる。


——そうか...。


 左から体重がかかる。

 咲が寝て聖斗に寄り掛かったようだ。


——辛かったな。


 頭を撫でられ苦しかった記憶が蘇る。


 不意に触られた表紙に目が潤む。

 尊敬する人からそんな事をされればそうなるのは当然、自分に言い聞かせながら宥める。


——どうだ? 晩ご飯、食べ行くか?。


——い、いやそんな、遠慮...、


——近くに美味いピザ屋があるんだ、好きなだけ食べていいから来なさい。


(拒否権はないのか)


 咲の父は咲をお姫様抱っこして、車に連れる。


 黒いレクサスは細部まで手入れが行き届いており、几帳面な性格が車に反映されていた。


 車に乗りシートベルトを閉めた。


 話し始めた煩いラジオを止め、2人だけの空間にされた。


——正直咲を触れれる人なんて限れているからな、触れているのを見たときは目が飛び出るかと思ったよ。


——は、はあ..。


——咲は中学の頃男から暴力を受けてね、犯人は分からずじまいで男性恐怖症になってしまったんだ。今、咲に触れれるの男は聖斗くんと僕ぐらいだよ。


(そんなこと、何も知らなかった。だから大学では男達がうわ言のように退学だと言っていたのだろうか)


 赤信号で止まった。


 今日の食堂でのことを思い返す。


——け、けど、久しぶりに、会った時僕が、勝手に、触れてしまって。


 父親がまた彼を見た。


——黙っていればいいことを、はは、本当に君はいい子だ、益々君を気に入ったよ。


(複雑な気持ちだ、もう20だぞ)


——少し、待っていてくれ。


 そういうと父親は車から降りた。


 いつの間にか家の前についていた。


 記憶を辿って考えると、ここは咲の家だ。


 大きな一軒家に大きな駐車場、裕福さは目に見えてわかる。


 子供の頃は自分の家とは違う家を見て想像し、まるで冒険するように部屋で遊んだ気がする。


 後部座席で寝ている咲を抱っこして家の中に消えていく。


 戻ってくる間に、滅多に乗れないレクサスの内部を見渡す。


 手が引っかかってダッシュボードが開いた。


 色々と積み重なった本をみた。


 闘病の小説日記。会社のパンフレット。


 化粧品。その中で一際目を引いたのは咲の小さな頃のアルバムだった。


 開くと懐かしい記憶が脳内で騒ぎ立てる。


——追憶中かい?。


 突然掛かった声にびっくりした。


 いや、掛かってくるのは当たり前だが、熱中し過ぎたようだ。


 咲の父が運転席に座り、エンジンをかけた。


——す、すいません、すぐ戻します。


——気の済むまで見てもらって構わないよ、唯一自慢できる僕の宝物だからね。


——あ、ありがとうございます。


 ピザ屋に着くまで見させてもらうことにした。懐かしい。


 将棋をして一回も勝てなかったこと。


 勉強で張り合ったこと。


 母が同伴して遠くに遊びにいったこと。


——さ、着いたよ。


 アルバムを閉じてシートベルトを外した。



——あ、あの、ピザ屋って、いいましたよね?。


 高層ビルの中、何もかもが高級なものに囲まれながら、運ばれてくる料理に驚きが隠せなかった。


——言ったよ、イタリア料理の店って。


 ため息が溢れた。


——そ、そう言う...?。


 メニュー表を見ると、聞いた事のない料理や普段見ない数字に開いた口が塞がらない。


——いいんだよ。


 咲の父がメニュー表を取り上げ、オーダーをする。


——腹一杯食えるくらいのおすすめを。


 定員は口を手で隠して話している。


——〜〜〜〜。


 それは聞こえなかった。


——主役は彼なんだ、そんな事気にするな。

笑って聖斗をみた。


 畏まりました、といって定員が離れていった。


——すまなかった、聖斗くん。


 突如、頭を下げた。


——え、な、何がですか?。


 慌てふためき、いい言葉が浮かばない。


——あの時君を救えなかった事だ、君を苦しめたのは、僕なのだから...。


——そんな訳...。


——どうか、僕の不甲斐なさを許してほしい。


 苦しい思い出がどんどん蘇ってくる。


——ず、ずるいですよ、こ、こんな..。


 涙が溢れる。


 咲の父が頭を上げた。


——お待たせしました。


 運ばれてきた香ばしい料理に気を引かれた。


——先に、食すとするか。


——い、頂きます。


 運ばれてくる料理を平らげた。

 会計はカードで支払っており、できる男を醸し出す。



——さて、痴がましい僕はここで君にもう一つお願いをするだろう。


 心地よい風の通る丘に連れて行かれた。

 夜景に心躍る。


——咲を、救ってほしい。


(救って欲しい?、特に危ない状態でも無いような気がするが)


——僕が、ですか...。


——君にしかできない。


 神妙な面持ちで言われると、そうなのだろうと思い込んでしまう。


(仮にそうだとしても、何故僕なのだろう)


——頼めるかい?。


——は、はい...、急すぎて、具体的に何をすれば、


——はは、なんてことは無いんだ、一緒にいてあげてほしい。変な男に誑かされない様に。


(最初からそう言ってほしい)


——わ、わかりました。


 父はニコッと笑ってこう言った。


——その一言で僕は救われたよ。

 お読みいただきありがとうございます


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