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第7話 いまは、この時間をかみしめることにしよう。

(とある美少女視点の話)

 

「さて、本日の議題は、なんだ?」

 

そんな言葉とともに、唐突に扉が開いた。その瞬間にすっと姿勢を正す。

 

しかし、彼はわたしをみやると一瞬くすりと笑った。それはまるで、「君が彼に見せパンをしていたことなどお見通しなのだよ」といわんばかりに。

 

わたしが姿勢を正したことによって、純は少し悔しそうな顔をする。思ったよりも効果があったようだ。富士山蓮にそのことを悟られたのはなんともいいがたいことだが。

 

彼、富士山蓮は人の思惑、感情の機微を読むのに長けすぎている。本人もそれを自覚しているというのが、なんともすごいところだと思う。才能か、それとも後天的な努力によるたまものなのか。

 

それに加えて、横柄さの中ににじみ出ている繊細さがまたなんともいいがたい魅力を醸し出している……らしい。クラスメイトの女子がそういっていた。


なんだかんだで彼もこの学校で二番目ぐらいにはモテているのだ。親衛隊ができたりするほど極端なモテ方をしているというわけではないが。

 

熱狂度こそ違えど、人数的には同じぐらいなのではないだろうか。というのも、彼は同姓にもかなりモテてしまっているからだ。そのフェミニンさは性別を問わず相手を引きつけてしまうのかもしれない。

 

先ほどの富士山蓮がいった言葉を受けると先輩は、

「じゃあ、勉強ができるやつはモテる……いや、っていうわけでもないんでござるな、現実は。その差っていうのがいったいなんなのかについて、考えるっていうのはどうでござろうか」

 

純がその意見を賞賛したことによって、議題は確定した。

 

その瞬間にやれやれといった感じで、富士山蓮が口を開いた。

 

要するに、勉強ができるけどモテないやつっていうのは、教えるのが下手なだけだと。

 

確かに、勉強を丁寧に教えてくれる男の子というのは、ポイントが高い。ただ、モテるっていうのとは微妙に違うような気もするが、なんていうことを思っていたが、

 

「納得の意見でござるな」

 

男子陣は腑に落ちたという顔をしている。どうやら彼にとっては、便利屋扱いされることとモテるということは同義みたいだ。

 

どうやったら教えるのがうまくなるのか、という話になった。

 

話しあった結果、富士山蓮がわたしに勉強を教えるということになった。

 

わたしは鞄から問題集を取り出す。この問題集は授業で使われているものではなく、ワンランクレベルの高いものだ。高校時代のように苦しい思いをしなくてもすむように、いまからこつこつと積み重ねているというわけだ。彼が大学受験で本気を出してもどうにか追いつけるように。

 

わたしはページを赤い付箋をしてあるページを開く。

 

「この数学の問題かな」

 

彼は問題をしばし眺める。そして、下の方にある解説を一瞥し、わたしが理解していないところを的確に教えてくれる。公式を暗記しそれに代入するだけというわたしの悪癖を見抜き、その応用方法を教えてくれたのだ。

 

その後彼らを激励する言葉を残し、去って行った。

 

「なんか、すげえやつだな」

 

その言葉には同意せざるを得ない。

 

「そうでござるな。あれなら、モテていてもしかたないと思ってしまうでござる」

 

「でも、負けたくないよなあ」

 

「そうでござるな!」

 

そう言い合いながらも、お茶とともに茶菓子をむさぼる彼ら。ござるの先輩は本当にモテる気があるのだろうか。

 

「よっし」

 

純はそういうとおもむろに、気合いを入れて立ち上がった。

 

「どうしたでござるか?」

 

「当然、勉強を教えてもらうんだよ」

 

彼がそういうと、わたしは不思議そうな目を向ける。

 

「教えてもらうって、誰に?」

 

わたしがそう尋ねると、

「もちろん、おまえにだけど。それ以外に誰かいる?」

 

「え、だって、純の方が賢いじゃん」

 

思わずそんな言葉を漏らしてしまう。

 

たった数ヶ月で判定をAまでぶち上げるほどの地頭を持っていながら、わたしなんかに勉強を教えてほしいだなんて。なにを考えているのだろう。そう思って彼の言葉を待っていると、

 

「なにいってるんだよ。現に、おまえのほうが成績いいじゃないか」

 

そういって不思議そうに首をかしげる。

 

皮肉をいっているというわけでもなさそうだ。わたしはなにか言い表せない思いに駆られながら、

 

「そこまでいうなら……」

 

そういって教科書を開く。

 

彼も教材を持ってくるために、扉の脇にある荷物入れまでいって鞄をとってくる。

 

「そもそも、わたしが勉強をがんばってるのは、純と同じ大学に行くためなんだけどなあ」

 

そんなことを思わずつぶやいてしまう。

 

「なにかいったか?」

「別に?」

「そうか」

「それで、どこがわからないの?」

「何がわからないのかがわからない」

「それ、教えようなくない?」

 

そんな談笑を交えつつ、二人で勉強をする。

 

夕日の差し込む和室で勉強をする男女。なかなかいいシチュエーションかもしれない。

 

彼とすごすこの時間は、わたしの中の虚無を払ってくれる。

 

しかし、なにか忘れているような気がする。いや、先輩のことは無視しているだけなんだけれど。

 

まあ、いい。

 

いまは、この時間をかみしめることにしよう。

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