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第1話 モテるための部活を作るっ! どんっ!

(とあるイケメン視点の話)

入学してから三ヶ月。


モテるために、いままでいろいろなことをやってきた。


そしてわかったことが一つある。最近の軽音楽部はオタッキーな人間が多すぎて、そもそもモテることを目的に入るような部活ではなくなっているということだ。


そう悟った俺は、三ヶ月目にして、軽音楽部をやめることにした。幸い俺はバンドを組んでいなかったのでメンバーに迷惑をかけるなんていうこともなかった。べ、別にぼっちだったわけじゃあないんだからね!


軽音楽部モテモテ大作戦が失敗したいま、これから次の作戦を考えなくてはならない。


しかし、もうアイデアは出尽くした。これ以上自分の足りないあたまで考えていてもしかたがない。


よし、こうなったらもうこれしかない。


ずばり、モテるやつに答えを聞く。


だがそもそも、モテるやつに声をかけるためにはどうしたらいいのだろうか。俺にはモテる男友達など、いないぞ。いや、簡単なことだ。人間というのはコミュニティーがあれば、比較的に簡単に仲良くなることができる。ということで、俺が考えた次の作戦はこれだ。


モテるための部活を作るっ! どんっ!


しかし、『モテるための部活』なんていう安直なネーミングでは、先公の選考に漏れてしまうことは、必至だ。まずは、審査を通過できるレベルの名前と建前を考えないといけないというわけだ。


要するに、この部活の目的というのは、異性にモテるための品性を身につけることによって、相手を魅了すること。つまるところ、品のある行動をとれるようにすることを目標とする部活……これを作ればいいのではないだろうか。幸いなことに、この学校には前年度に廃部となった茶道部がある。


これを利用する以外の手があるだろうか。いや、ない。


ということで早速、前年度に茶道部の顧問を担当していた先生のところに向かう。


「……ということなのですが」


先ほど脳内で考えていたような説明をした。


もちろん、モテるためにそういうことをするなんていうことは一言も言っていない。本校生徒にふさわしい品格を身につけるための部活をやりたいと、そう申したのだ。


すると先生は、

「でも、わたし、本年度はほかの部活の顧問になってしまっているので……別に掛け持ちすること自体に問題はないのですが、あまり協力できないかもしれません。かなり自主的な活動になってしまうと思うのですが」


願ってもないことだ。


顧問があれこれ口を挟んでくるようでは、俺の本来の目的を達成することが難しくなってしまう。だからこそ、このタイミングだったのだ。計画通りっ……! にやり。左の口角が吊り上がって仕方がない。


不適な笑みを抑え、好青年スマイルに切り替える。


「それでもかまわないので、どうか顧問になっていただけないでしょうか」


「わかりました。でも、ほかに生徒を集めてもらわないと……まあ、すぐに集まりそうなものですけど」


「……? ありがとうございます」

さてと。これであとは生徒を集めるだけだ。


翌日、俺は大々的にこの部活を宣伝することにした。


生徒会に掲示物の許可をもらい、それを大々的に貼り付ける。大々的に。

その宣伝の結果、部室に何人かが集まってきた。これはまたずいぶんといろいろな人が集まったものだ。学校一の美少女に、キモヲタ風の男子生徒まで。


その数なんと!

「二人……」


あれだけの誇大広告をうっていながら、二人しか集めることができないという人望のなさ……悲しくなってくる。


しかし、人望がないのも今のうちだ。この活動によって、モテまくりになってしまえば、この悲しみを二度と味わうことはなくなってしまうだろう。むしろ、こういう状況を今のうちに楽しんでおかないといけない。


 れっつぽじてぃぶしんきんぐう!

 その二名のうちの一人をみやり、俺はいう。


「っていうか、佐奈はなんで来たんだよ」

「だって、おもしろそうだったから」


 何がおもしろそうなのか全くもってわからない。なんていうことを考えるが、礼儀作法を難なくこなしてみせる彼女からしてみれば、こういった部活というのはおもしろく映るものなのかもしれない。それに、募集の隅に、礼儀作法に精通しているかた、モテたいかた急募。と書いておいた。


佐奈はきっと、前者の礼儀作法に精通しているかた、という一文に目をとめてここにくることを決断したのだろう。


そしてもう一人といえば、

「でゅふふ、せ、せっしゃ、上町と申すでござる」

なかなかクレイジーなやつがきてしまった。


彼のベルトの上には脂肪がたっぷりとのっている。そして究極的にダサいめがね。それだけでも残念なのに、その口調。いや、むしろその口調でいてくれたほうが親しみやすいかもしれない。一周回って。


さすがの佐奈でもジト目になっている。


これは相当なことだ。誰とでも分け隔てなく接することのできる彼女が、そんな表情を向けているなんて。


彼の醸し出す雰囲気から察するに、モテたくてこの部活に入部してきたやつなのだろう。

入部してもモテるという保証はできない。その場合、あなたがモテないのはどう考えてもお前が悪い。


「それで、この部活って結局なにをするの?」

佐奈にそう聞かれ、生返事を返す。


「いや、そんな具体的に考えていたわけではないが、まあ、それなりの礼儀作法を研究しつつ、あとは適当にわいわいやっていければと思っている」


「ふーん」

彼女は素っ気ない返事をする。


「あ、あのさ」

と思ったら今度は聞きにくそうにして、

「この部活の宣伝文句に、モテたい人歓迎! みたいなこと書いていたと思うんだけど。礼儀作法がしっかりしている女の子って、やっぱりモテるものなのかな?」


「そりゃあそうだろう」

なにを自分のことをいっているのだ。


佐奈に関する研究報告(密かなる親衛隊刊行)によれば、その立ち振る舞いに恋愛感情を抱いてしまったという人は実に三割を超える。つまり、礼儀作法を心得ていることによって、彼女は百人近いファンを抱えているということになるのだ。


「そ、そっか」

彼女はなぜかほほを赤らめる。


「せ、せっしゃはモテたいのでござる! そのために入部したのじゃ」

「まあ、そうだろうな」


逆にだ。こんな口調が安定しない変なやつが礼儀作法をわきまえている、またはモテまくりであるなどといいだしたら、俺はいったいなにを信じればいいのだという話だ。スタップ細胞はあります! といわれたほうがまだ信憑性があるレベル。


「じゃあ、モテるためになにをするべきか、徹底的に考えるとしようか」

俺がそういうと、


「えっ……その、この部活は、そういうことを目的にしている部活なの?」

佐奈が驚いたようにそういった。


「……まあ、そういうことになるかもしれないな」

「大学でいうところの飲みサーみたいな?」

「そのたとえは意外と的確かもしれない」


要するに、わいわいうぇいうぇいやって、女の子と仲良くなることを目的とする部活なのだから、根本的にはそういうサークル活動と大差ないかもしれない。


「わ、わたしがそういうことしたいっていったら、どう思う?」

彼女は唐突にそんなことを言い出した。もじもじと、顔を赤らめている。変な意味に聞こえてしまった。


「そ、そういうことというのは?」

動揺しつつも、彼女にそう問う。彼女がうぇいうぇいし始めるなんてことになったら、世界が滅んでしまう! それだけは避けなければならない。そんな思いで彼女の返事をまっていると、


「なんというか、その、特定の人にモテたいというか……」

普通の女の子らしい模範的な回答が帰ってきた。むしろ萌える。


「え、別になんとも思わないけど」

俺は嫉妬めいた感情を隠しつつ、そういった。


「ビッチとか思ったりしない?」

それなら夫婦は全員ビッチじゃねーか。なんてツッコミを頭の中でいれつつ、


「特定の人に思いを寄せるなんて、そんなのただの純愛じゃあないか」

圧倒的ピュア。マジでPURE LOVER。ぴゅあらばだわ。……いやそれ風俗の検索サイトやんけ。


彼女は特定の人にモテたいとそういった。しかしそもそも、彼女に好意を寄せていない人間などいるんだろうか。彼女が振り向かせたいと思うような相手っていうのは、相当な人物なのだろう。それこそ、モデルかなんか……いや、大御所俳優レベルかもしれない。あるいは宇宙人、未来人、異世界人、超能力者。


「そ、っか。じゃあわたしもこの部活に入部して、女子力を磨こうかな」

これ以上女子力を磨いてどうするつもりだ。これ以上女子力が上がったらスカウターが狂ってクラッシュしちゃうよぉ……ふぇぇっ。


「せ、せっしゃも入部するでござる」

「……まあ、いいけど」

というか、最低三人はいないと部活として認められない。っていうか、三人だと同好会扱いになるんだっけ。


「とにかく、じゃあ、申請しにいってみるか」

1、2、3、じゃんぷぅ!

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