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第18話 このドSイケメン!

(とある美少女視点の話)

 

純も富士山蓮もいない部室というのは、なんとも奇妙な空間だった。

 

上町先輩が漫画を読んだりゲームをしたり、たまに勉強をしたりしながら茶菓子をむさぼっている姿を横目に勉強をしている自分。

 

ときどきわからない問題にぶち当たるので、先輩に質問する。

 

「先輩、この問題の解き方がわからないんですけど」

 

「うにゃ? どれでござるか?」

 

「ここです」

 

「これはこの式を変形させてから代入したらいいでござるよ」

 

先輩に言われた通りに、式を代入してみる。すると、解答の答えと一致する。しかし、

 

「どうやってこの解法が思いつくのかがわからないんですけど」

 

「……えっと、なんというか……まあ、強いていうなら消去法でござるか?」

 

「消去法?」

 

「高校数学の出題なんて、だいたいパターンは決まっているでござるから。基本的な千パターンぐらいから使えそうなやつを適当に当てはめてみたら、だいたい解けるでござる」

 

「は、はあ」

 

この人はあの短時間の間にそんなことをしていたというのか。スーパーコンピューター並の頭脳といって差し支えないだろう。

 

「そういえば、純殿はいつからあんなに勉強するようになったでござるか?」


「え?」

 

「いや、なんというか。昔はそこまで勉強熱心ではなかったような気がするのでござるが」

 

「純の昔を知っているんですか?」


「小学校のころ、よく遊んだものでござるよ。もっとも、純殿はせっしゃのことを覚えていないみたいでござるが」

 

「……うーん、小学校のころだったら、わたしがいつもいたはずなんだけどなあ」

 

「佐奈どのがそういうということは、人違いでござったのだろうか」

 

「ごめんなさい。昔のことって、あんまり思い出せないんです」

 

「別に気にするようなことでもないでござる。純殿も佐奈殿も覚えていないのならば、せっしゃの勘違いだと考えたほうが自然でござる。すまんでござるな。こんな話に付き合わせてしまって。もう邪魔はしないでござるよ」

 

「いえ……」

 

――とある午前のこと。


またも下足前にある掲示板に人だかりができていた。なにごとかと思って掲示板の前まで這ってゆくと、そこには女子テニス部の活動停止処分という掲示があった。

 

どんどん人が増えていく掲示板から遠ざかろうとすると、こちらに歩いてくる純と目が合った。

 

「あ、純」

 

「おう。なんか久しぶりだな、佐奈」

 

「そうだね。掲示板みた?」

 

わたしがそういうと首をかしげる。掲示板に掲載されている活動停止処分通達を指し示しながら、彼にことの顛末を説明する。

 

「な、なんだって?」

 

彼は驚きの声を上げた。

 

なぜか、彼がそういうことをしたことに対して、自分自身が深い罪悪感のようなものを抱いてしまう。

 

わたしがそんな表情を浮かべていたせいか、彼は沈んだ表所で、短くうなずく。そして、

 

「今日は、そっちに顔を出すことにするよ」

 

深刻さを隠すような苦笑いでそういってみせた。

 

「おっけー。じゃあ、また放課後に」

 

わたしはそういって手を振る。

 

こんな形だが、彼と時間を過ごせて、うれしく感じてしまっている自分がいた。

 

部室に入ると、まだ誰もいなかった。いつものように急須でお茶を入れていると、純が入ってくる。さらに井上先輩と、上町先輩も入ってきた。

 

井上先輩は入ってくるなり教材を広げ、勉強を始める。それに対して男子二人は比較的リラックスしていた。

 

といっても、純はそれなりに真剣そうな顔つきだったが。

 

しばらく四人でお茶をすすっていると、

 

「やるじゃあないか」

 

扉を開く音とともに、富士山蓮のそんな言葉が響いてきた。

 

純はそれに、

 

「……ああ、なんというか、やっちまったっていう感触しかないけどな」

 

そう力なく答えた。

 

「ぼくも、もうちょっとでいけそうな気がするよ、もっとも、君みたいにすんなりいくかどうかはわからないけどね。さすが君っていったところか」

 

彼は過ちにうちひしがれているような表情を浮かべている。そんな彼をみかねて、わたしは、

 

「それで、どうするの? このままでいいとは思ってないんでしょ?」

 

「まあ、な」

 

純がそういうと富士山蓮は、

 

「なにをいっているんだ。このまま潰してしまうのが一番効率的じゃあないか。それに、風紀を乱して勝手に自滅したのはあいつらのほうじゃあないか」

 

決められた台詞をなぞるような感じでそういった。

 

「……確かにそうかもしれないけど、風紀を乱したっていっても、特に何をしたっていうわけじゃあない」

 

彼のその言葉に、わたしはぱちくりと目を開く。

 

「え? なにもなかったの? 風紀を乱すようなことは」

 

「ああ。断言する」

 

てっきり放課後の屋上でなにかやらしい行いでもしていたのかと思っていたのだが。そんなことを思わず口走ってしまうと、彼は怪訝な表情をわたしに向ける。

 

「あ、ああー。なんでもないよ? いやー、てっきり誤解をしていたというかなんというか……ごめん」

 

顔を伏せる。きっといままでにないぐらい赤面していることだろうから。

 

「それでは、なぜ活動停止余分なんていうことになっているのでござるか?」

 

いままで黙っていた上町先輩が口を開いた。

 

「それがわかったら苦労しないさ」

 

「……結局、活動を再開させる方向で進めるっていうのかい? ここまでいけたっていうのに。なんて非合理的なんだ」

 

「非合理的だろうとなんだろうと、自分が納得できないものを放っておけるか」

 

「やれやれ。ま、つきあうよ。つぶすなんていう安直な手法で勝利しても、おもしろくないしね」

 

「結局問題は、どうやってあの処分を撤回させるのかっていうことになるが」

 

彼の台詞に反応して、教科書を眺めていた井上先輩が顔を上げる。しかし、なにも言葉を発する様子はない。そんな彼女に、富士山蓮は視線を送った。

 

「…………無理よ。生徒会と並び二強といわれる風紀委員会だが、それでも発言力には雲泥の差がある」

 

「じゃあ、どうしようもないっていうことか?」

 

「生徒会書記の彼女個人に話しをつけるぐらいなら、わたしにもできるかもしれない。しかし、風紀委員がもう一人いたときく。彼女の単独行動とはいえ、一応風紀委員全体として動いたというふうに見なされている。そこの委員長であるわたしがいきなり彼女たちの処分を撤回するというのは、あまり印象のいいものではない」

 

「……なるほど」

 

「という事情があるので、処分を撤回するには、それなりの理由が必要になってくる」

 

「一つ、重大な見落としがあるじゃあないか」

 

「それはなんだ?」

 

「テニス部全員が処罰されているっていうのに、彼はなんの罰も受けていないじゃあないか。そもそも彼があの部活にいたのは、この礼儀作法研究部の方針じゃないか。それによって問題が起こっているんだから、この部活も活動停止になってもいいんじゃないか? さすがにそれが極論だっていうなら、彼単体でも罰せられるべきだろう?」

 

「なる、ほど。でも、俺が処罰を受けることで、この問題が解決するっていうのか?」

 

「簡単なことだよ」


 

彼の言葉を信じて、風紀委員に乗り込んだ純たち。そして、彼も罰せられるべきなのではないかと指摘すると、

 

「……わかりました。女子テニス部の無期限活動停止処分を撤回しましょう」

 

「どういうことですか?」

 

「生徒会の一部と、わたしの独断による処分は、いささか早計だったようです。これからこの事態を審議し、適切な処分を追って下すものとします」

 

「……は、はあ」

 

「やれやれ。きみという存在は偉大過ぎるよ」

 

富士山蓮が彼に向かってそういう。

 

「これで、文化祭は自力でどうにかするしかなくなったわけだ」

 

「その心配はないよ。もう手は打ってあるから」

 

「どういうことだ?」

 

俺がそう訪ねると、彼は語り始める。

 

「話をまとめると、俺らの部活では休憩所と喫茶店を兼ねた出し物をする。テニス部の見学で疲れた客をそれとなくこちらに誘導し、もてなす。美術部の作品を何点か借りておき、それに興味をもった客を美術部のほうに誘導するっていうことか。この短時間でよくそんなことをやってのけたな」

 

「ま、どうせ君は潰すなんていうことはできないなんていうことを言い出すと思っていたさ。だから、先に手を打っていたんだよ」

 

言葉も出ない。

 

「ま、これで当面の心配はなにもないだろう」

 

「……っていうことになると、俺は結局なにをやっていたんだ?」

 

「さあ? とある女の子を嫉妬させたり、テニスを楽しんだり……そんなところじゃないか?」

 

彼がそういうと、わたしはすみっこでまるまった。な、なな、わたしが嫉妬しているだなんて、わざわざ彼の前でいわなくてもいいのに!

 

「どうしたんだ?」

 

彼がわたしにそう声をかける。

 

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