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第15話 もう、部活に顔を出すことはできない。

俺は職員室に向かって、女子テニス部の顧問に部活を見学したいと申し出た。先生はいぶかしげな表情を浮かべる。俺は必死にそれっぽいことをいって説得する。

 

この学校には男子テニス部がないから、しかたなく女子テニス部を見学するのだとか、自分は市長杯でもそれなりの成績を残しているから、決して不純な気持ちで女子テニス部に関わりたいと思っているのではないだとか。

 

そんな台詞を受けた顧問の先生は、しぶしぶといった体で翌日女子テニス部に所属している生徒にその旨を告げた。当然のように、全員が驚きの声を上げたそうだ。


しかし、とくに反対という反対はなかったらしい。生徒の自主性を尊重するという校風が幸いし、俺は女子テニス部に潜入することに成功した。

 

そして、俺はいまコートに立っている。

 

「ここが、いつもわたしたちが貸し切っ使っているコートよ」

 

そういってきれいに整備された何面ものコートを指し示す。

 

「なるほど」

 

常々学校にテニスコートなんてあったっけと思っていた俺だったが、その謎がようやく解けた。

 

「校外の……こんなでかいコートを貸し切りにしていたとは」

 

学校から徒歩数分のところに位置しており、非常に利便性が高い。このコートを全面使って毎日練習していれば、それは強豪にもなるだろう。

 

「それにしても、どうして女子テニス部に?」

 

当然といえば当然の、そんな質問を投げかけられた。

 

「いや、ちょっと運動したいと思って」

 

顧問に告げるときみたいにはっきりとした理由を答えることはできなかった。しかし、彼女はいぶかしんだ風でもなく、納得しているみたいだ。

 

「それじゃあ、練習始めようか」

 

彼女は笑顔を向けてそういった。

 

「お、おう」

 

佐奈以外の女の子にそういう表情をみせられるのは幾分久しぶりで、ちょっとうろたえてしまった。


     * 

 

最初はこの状況に戸惑っていた俺と女子部員たちだったが、慣れというのは恐ろしいものだ。一週間もたってしまうと、部室に顔を出すのが当たり前になってしまっていた。

 

肝心の、俺が部長を務めている部活はどうなっているのかというと、佐奈と上町先輩が茶菓子をむさぼりながらひたすら勉強をしているというなんとも異様な空間と化している。

 

上町先輩には風紀委員の彼女がいるからまあ、別に心配するようなことはないのだろうが。

 

んで、ハニートラップ的なものをしかけようとがんばっているわけだが、いまだに女子にそれっぽいアプローチをかけることができないでいる。っていうか女子がどことなく距離を開けてくるせいで、そういう話を持ち出しにくい。

 

「困ったものだ」

 

俺がそうつぶやくと、

 

「なにを困っているのだ?」

 

俺が部長を務める礼儀作法研究部のメンバーにして上町先輩の彼女、風紀委員長が俺にそういった。

 

「こ、こんなところでなにをしているんですか?」

 

「定期的な部活の視察だ。ああ、話は聞いているぞ。部活の交流みたいなものをやっているそうだな。美術部に通っている富士山から話しは聞いたよ」

 

「へ」

 

ああ、なるほど。そういうことにしたのか。

 

「そうなんですよ。礼儀作法というものは、どこにでも存在するものですからねー」

 

俺はそういって愛想笑いを浮かべる。

 

ふと周囲を見回してみると、女子部員たちがいぶかしんだような目を向けている。風紀委員長を恐れているというよりも、なにか敵意を込めた視線に感じられる。しかし、委員長がキッとにらみ返すと、部員たちは目をそらした。

 

「まあ、特に問題もないようだし、わたしはこれで失礼することにするよ」

 

「は、はあ」

 

神出鬼没というのはこういうことをいうのだろうか。それにしてもびびった。委員長が最初にきていたのが女子テニス部のほうだったらと思うとぞっとする。


もしかして、最初に美術部のほうに視察にいくいうことを見越して富士山蓮は……いや、そんな回るくどいことをしないでも、それなら直接彼女に伝えていたほうがおいた早かっただろう。

 

「茂手木くん。ちょっといいかな」

 

この部活に入部して、自然と仲良くなった女子部員、野山岬が俺に声をかけてきた。


「あ、はい」

 

「ちょっと話したいことがあるんだけど、放課後、時間をもらえるかな?」

 

彼女はそう、うるんだ瞳をこっちにむけて、顔を赤らめながらそういう。こ、これは、期待してしまってもいいのだろうか。

 

「え、うん」

 

俺はそう返事を返した。

 

いったいなんのはなしだろうか。

 

親しくなった流れで告白とかいう可能性も十分にあるうるのだろうか。いや、ない。こんなところで反語を使ってしまえるほど、自分にそういう巡り合わせがないことは自覚している。

 

いや、そういう現状を打破するために、俺はがんばってきたんじゃあないか。といっても、創部してから行ったことといえば、香水を身につけて、ちょっと勉強したというだけのことだが。


彼女に屋上で待っていてといわれ、手持ちのスマホをいじりながら待つ。ひたすら待つ。このまま忠犬ハチ公みたいに十年も待ちぼうけなんていうことにならなければいいが。

 

俺がそんなことを思っていると、

 

「ごめんね? まった?」

 

そういって彼女は現れた。俺はテンプレな台詞を吐こうとする、が、

 

「いや……まあ、ちょっとは待ったけど」

 

思わず本音が漏れてしまった。

 

一時間待たされるっていうのは、ちょっとの範疇なのだろうか。ちょっとした反骨精神が現れてしまった。

 

「ごめんね。ちょっと事情があって」

 

「まあ、事情があるならしょうがないよ。それで話っていうのはなんなの?」

 

俺がそういうと彼女は顔を赤らめる。学校の屋上に差し込む夕日が、彼女のほほを照らしているだけかもしれない。

 

静まりかえったグラウンド、恥ずかしげな表情を浮かべる彼女。俺の期待が最高潮に達したとき、彼女は口を開く。

 

「実は――」

 

「そこまでよ」

 

彼女が口を開くと、ここ数日で見慣れた面々が現れた。いきなり開いた扉を見つめて、彼女と俺は呆然とする。

 

「えっ……これはどういうこと」

 

思わずそんな声を漏らしてしまった。

 

テニス部のメンバーが俺たちを囲むようにして仁王立ちする。なんだ、その正義の味方然としたポーズは。

 

「ち、ちがうの」

 

彼女はなにかを弁明しようとする。すると彼女らは、

 

「わたしたちはなにもみていないわ。だから、今すぐにここを離れるのよ」

 

テニス部員の一人がそんなことをいう。これは、いったいどういうことなのだろう。そんな現実逃避じみたことを考えてしまう。

 

あ、わかった。これはあれだ。告白を期待している男の子を傍観して笑いものにしようっていう典型的ないじめだ!

 

俺がそう悟りを開こうとした瞬間、

 

「待ちなさい」

 

今度は見慣れない面々がぞくぞくとやってくる。その総数は十人ちょっとだろうか。その先頭には生徒会書記の腕章を身につけた人物と、風紀委員バッジを身につけた女子生徒が立っている。

 

「あなたたち、これはどういうことかしら」

 

その中の一人が彼女らにそう詰問すると、

 

「…………もうしわけありません。先輩」

 

岬は先輩たちに頭を下げた。

 

「風紀を乱すものは、許さないわ」

 

風紀委員がそういうと、彼女たちを取り押さえる。

 

なんだこの状況は。

 

俺がいじめられていることを察知した風紀委員たちが、彼女たちを取り締まっている?

 

なにか悲しい気持ちになった俺は、女子の隙間をぬって逃げ去った。全くもって恥ずかしい。

 

もう、部活に顔を出すことはできない。メンタル的な問題で。

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