第14話 まず俺は、女子テニス部なるものがどういった部活なのかを徹底的に調べることにした。
まず俺は、女子テニス部なるものがどういった部活なのかを徹底的に調べることにした。
調べてみると、この学校に男子テニス部が存在しないということがわかった。女子テニス部なんていう言い方をするぐらいだから、男子テニス部も存在しているものかと思っていたが、そういうわけではないらしい。
女子テニス部なんていう名前が残っているのには理由があった。その理由は単純で、以前には男子テニス部があったから。では男子テニス部はどうなったかというと、ある不祥事を起こして廃部になってしまったそうだ。それから数年が経ち、男子テニス部は完全に消滅した。
不祥事を起こしたのはごく一部の生徒だったので、当初は反発がすごかったらしい。しかし、どこからか圧力がかかり、結局部活が蘇ることはなかったそうだ。
その話を聞いた俺は、その当時の部員に話を聞けないかと考えた。
そして、元男子テニス部員である大先輩に連絡を取ることができた。当時の話を聞きたいと伝えると、すぐに了承を取ることができた。
指定された喫茶店へと向かう。
店の中はたばこのにおいで満ちていた。年期の入っていそうなおっさんが大多数である。その中に、若干若い男の人がいた。どうやら、その人が元男子テニス部の先輩みたいだ。
軽い雑談を交わしつつ、本題に入る。すると先輩は意味深に呟いた。
「あの不祥事は、そもそも仕掛けられたものだったのかもしれない」
先輩は苦虫を噛みつぶしたように、そういった。
「……仕掛けられた?」
先輩は一口コーヒーをすすって、
「うちのテニス部が、某企業と提携しているっていうのは、聞いたことがあるか?」
「ええ、まあ。どうしてこんな公立高校の部活動が、そんな企業を結びついているのかまでは知りませんが」
「それは俺だってしらないさ。もともと、企業と結ばれていたのは男子テニス部だったんだ」
「男子テニス部? ということは、男子テニス部が失脚したおかげで、女子テニス部は企業からの恩恵を受けることができているということですか?」
「そういうことだ。そして、不祥事というのは意図的に仕組まれたもの。端的に言えば、とある女子がアプローチをかけてきたことによって、部活内に不和が生じたんだ」
「…………なるほど」
要するに、男子テニス部と提携している企業からの支援を横取りするために、女子テニス部は色を仕掛けたのだろう。
「だから、君にはその敵を討ってもらいたいんだ。何の理由があるのかはわからないが、そういうことをするために、情報を集めているのだろう?」
「……そうですけど」
「幸い君には力がありそうだ。だから、頼む」
俺に力があるかどうかはわからない。自分ではそれを実感することなんてできてはいない。ハニートラップなんて、男性側が仕掛ける方がよほど難しいことだろう。しかし、
「やりますよ」
俺がそういうと先輩は目を輝かせる。
「本当か?」
「もともとそうするつもりだったんですし……」
しかし、同じ過ちを繰り返そうとしているのかと思うと、若干心苦しいものがあった。
*
「なるほど」
元男子テニス部の大先輩に話しを聞いたこと、そしてそこでなにを聞いたのかを、富士山に話した。
「そういう経緯があったっていうわけか。ま、よくあることだろう。そんなハニートラップに引っかかってしまうほうが悪いのだ」
「その発言はちょっと危険だと思うがな」
「それは否定しないさ。恋愛感情というのはやっかいなものだからねえ。安心できる人がそばにいると、オキシトシンが分泌される。しっているかい? オキシトシンが分泌されているときっていうのはね、普通よりも40%ほど、詐欺に遭う確率が高いそうなのだよ。ん、40%だったか? あまり自信はないな」
「それで?」
「以上だ」
なにがいいたいのだろうか。
「別になにもいいたいことなんてないさ。今のデータを元に、よくないことを考えるやつもいれば、よくないことが起こらないように対策を立てる人間もいるだろう。きみがどちらの人間であろうと、ぼくには微塵も関係のないことだ」
「それは遠回しに、俺に計画を中止しろといっているのか?」
「さあね? 言葉の解釈は、それを受けた本人にしかできないことだよ」
俺は、どうするべきなのだろう。
「ちなみにぼくは、もうすでに美術部のほうに潜入して、それなりの信頼を得ているよ。楽しいものだね、芸術っていうのは。ここでわいわいやっているのも楽しいが、ああいうふうになにかに集中して取り組むっていうのも悪くはない」
「そもそもなんでここに入ろうとしたんだ」
「いわなかったっけ? ぼくはね、困っている人を放っておけないんだよ。人間の幸福って、なんだと思う?」
あまりにも唐突過ぎる質問に押し黙ってしまう。しかし、彼が口を開くことはない。俺にいわせたいのだろう。
「俺は、そうだな。女の子にモテれば、それが幸福だと思う」
俺がそういうと、彼は盛大に笑った。破裂した水道管みたいに笑いがこぼれる。いや、おまえ、さすがに笑い過ぎだろ。馬鹿にしてんのか。
「なるほど。それはおもしろいね。ぼくは、幸福っていうのは貢献感だと思っている。他人に貢献して、他人が喜んでくれる。それをみているときっていうのが、一番気持ちいいんだ」
「だからこの部活に入ったっていうのか?」
「もちろんだよ。この部活には、救うべき人間がたくさんいるように感じられたからね。ま、早い話が自己満足さ。それじゃあぼくはそろそろ失礼するよ」
彼はそういうと、甘い匂いを残して、優雅に去って行った。
「あ、ああ」
生返事を返すことしかできない。
きっと彼は、うまくことをすすめているのだろう。彼には、躊躇というものがみられない。その境地にたどり着くまでに、いったいなにがあったのだろうか。それとも、それは彼の先天的な能力なのだろうか。
まあ、そんなことはどうでもいい。
俺は俺のやるべきことをやろう。




