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第13話 「きみは、この部活の本質を忘れてはいないかい?」

(とあるイケメン視点の話)

 

いつもの時間に部室に入ると、誰もまだ来ていないようだった。

 

最近は佐奈が先にきてお茶を入れてくれるのがあたりまえになっていたから、もうすっかり休憩モードに入ってしまっている。

 

たまには俺がお茶を入れてみるか。そう思い、電気ポットの出力を授乳用にする。ミルクを作る用の設定温度だ。お茶を入れるにはこれぐらいの温度がいいらしい。そう佐奈がいっていた。実際、温度を厳格に守って入れられたお茶は格別だった。


そもそも、この茶葉は彼女が自宅からもってきたもので、それなりに高級なものなのだろうが。勝手に飲んでくれていいよと彼女はいっていたが、今日までそれを行うやつはいなかった。さあ、ここから新しい俺の伝説が始まるのだ。

 

そんな思いでできあがったお茶を一口飲む。うぬ、ちょっと濃いかもしれない。まあ、次の人が飲むときにはちょうどよくなっているだろう。そんなことを思っていると、唐突に扉が開く。

 

「俺様、ぼくは気がついてしまった」

 

彼はいきなりそんなことを言い出してきた。一瞬バンド名かと思った。

 

彼のキャラというのはどちらかといえば俺様系なので、俺様などと言い出しても違和感はないのだが。残念、彼のナルシス度がたくさん上がってしまった(モテ度を下げる負のパラメーターのこと)。

 

「いや、なにがだよ」

 

思わず突っ込んでしまう。俺の脳内妄想に対し、ではなく彼の発言に対して。

 

「ぼくたち以外の有力な部活を潰してしまえば、相対的にぼくたち以外の勝利はありえないということにね」

 

「おまえ……最低なこと考えるんだな」

 

思わず本音が漏れてしまった。

 

「なにをいっているんだ。ぼくは、この部活のためを考えていっているんだぞ」

 

彼はそう自慢げにいうが、どう考えても典型的な危険思想だ。

 

「まあ、仮にそれを実行に移すにしても、それは最終手段だろう。まずは全力を尽くすっていうのが――」

 

「それは甘いな」

 

富士山蓮が間髪入れずにそういった。

 

「……おまえ、前回は全力でやって勝つみたいなことをいっていなかったか?」

 

「それは君が言い出したことだろう。ぼくは最初っから、勝てばいいとしかいっていないさ。ただ、この学校の文化祭で勝ち抜くっていうのは、相当に難しいものがあるよ。なんていったって、部活動と外部との癒着があるからね」

 

「な、なんだそれは」

 

俺がそういうと、彼は俺が煎れたお茶を湯飲みに入れる。そしてすすっと口に含んで、「ふむ」とうなずいた。

 

「なかなか悪くないね。薄くもないし濃くもない。お見事だ」

 

「ああ、そうか」

 

二杯目からちょうどよくなるはずだったからな。

 

「んで、外部との癒着っていうのはなんなのさ?」

 

「この学校の部活は、外部とのコネクションをもっているのさ。だから、この学校は公立高校の割に、出し物が大きい」

 

「確かに、前年度の文化祭にきたときに、すげーなとは思ったけど」

 

「そんな中、勝利するためには、事前に潰しておく必要があるのだよ」

 

「すんげー炎上しそうなことをいってるな、おまえ」

 

俺がそういうと彼は鼻で笑った。はい、炎上確定。

 

「それで、具体的にどうするっていうのさ。まさか相手選手にタックルかまして物理的に潰すっていうわけでもないだろうし」

 

「きみは、この部活の本質を忘れてはいないかい?」

 

「この部活の、本質?」

 

こんな部活動に本質なんていうものがあるのだろうか。そう思って彼に視線をやると、

 

「色仕掛けだよ。早い話がね」

 

「あー、なるほど。って、誰がやるんだよ」

 

「もちろん、ぼくと君でだ」

 

「は?」

 

「この際だ、ぼくときみのどっちのほうがモテるのか、決着をつけるとしようじゃあないか」

 

「そもそも俺は、モテてなんかいないと思うが」

 

「ふははは。おもしろい」

 

なにがおもしろいんだ。おちょくっとんのか、こら。

 

「企業と癒着しているいくつかの部活を徹底的につぶすことができれば、相対的にぼくらの勝利ということになる。三つも潰せばなんとかなるだろう」

 

「三つもあんのかよ……っていうか、別にその部活を潰したところで俺たちが優勝できるとは限らないじゃないか」

 

「なにをいっているんだ。御曹司がここにいるんだぞ?」

 

他人の癒着を剥がしておきながら自分が癒着に頼ろうという魂胆らしかった。

 

「なるほど……それで、その三つの部活っていうのはどこなんだ?」

 

「まず、女子部員を筆頭とする美術部」

 

「そもそも、美術部に癒着する要素とかあるのか?」

 

「なにをいっているんだ。うちの美術部には普通の公立高校ではありえんぐらいの画材がそろっているだろう」

 

「誰がそんなことを知るかよ」

 

「さらには各分野の専門講師を招き入れることによって、自分が描きたいものに特化することができる」

 

「へえ」

 

「ということで、美術部にはぼくがいく。そして徹底的に部内を掻き乱して潰してやるのだ」

 

「んで、あと二つは?」

 

「女子テニス部とサッカー部だ」

 

「俺には女子テニス部のほうにいけというのか?」

 

「当然だろう。適材適所という言葉を知らないのかい? きみは中学時代はそこそこテニスがうまかったときくよ。美術方面の知識はぼくのほうが勝っていることだろうし、テニス方面の知識と経験は君のほうが勝っていることだろう」

 

「なんでそんなことまで知っているんだ」

 

「ま、ぼくは御曹司だからね」

 

こんな部活動のために企業を動かしているというのか。もしそうだというなら一番やばいのはおまえだ。なんていうことを考えつつ、

 

「そんじゃあ、それで動くとするか。サッカー部のほうは?」

 

「彼女に担当してもらいたいのだが……しかし、サッカー部の盛り狂った野郎に彼女を渡してやるというのは……」

 

「佐奈のことを半ばストーキングしているおまえがいえたことではないと思うが」

 

「とにかく、それぐらいのハンディキャップがあってもいいだろう。それに、企業と癒着している部活の一つや二つ。富士山製薬の力を持ってすれば別にどうということはない」

 

それなら俺がそんなところに潜入していろいろとかき乱す必要なんてないのではないだろうか。


しかし、

「これは、実践だといっているだろう」

 

「……実践、ねえ」

 

まあ確かに。モテまくりになるなんていうことを実践する場なんて、ほかには合コンぐらいでしかないだろう。合コンなんて、およそ高校一年生がやるものではない。

 

「ぼくは美術部に潜入してくるとするよ」

 

「……じゃあ俺は、女子テニス部にアプローチをかけることにするよ」

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