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第12話 ――ぼくが壊してしまった大切な場所をね。

この茶番としか思えないやりとりを終えたあと、風紀委員長は職員室へ向かった。

 

「……それにしても佐奈はずいぶんと大胆なことをしたな」

 

彼のいっていることの意味を理解することができず、わたしはクエスチョンマークを浮かべる。

 

「さっき井上風紀委員長を連れてきたことだよ。もし話がまずい方向に進んでいったら、どうするつもりだったのさ」

 

「話してないんですか?」

 

上町先輩にわたしはそういった。

 

すると先輩は、井上先輩を連れてくるようにいったのは自分なのだと話し始める。

 

「なかなか策士じゃないか。まさか、あれが全部自演だったとは」

 

「なんてやつだ」

 

彼がそういうと、扉が開く。

 

そして、

「わたしがこの部に入部することが決定した。よって、創部に関する生徒会規約を満たすことになり、この同好会は、本日をもって部活動と認定される」

 

「………………はあ?」

 

その長い沈黙の間、なにを考えていたのだろうか。

 

「そりゃあおもしろい」


富士山蓮は、すべてお見通しとばかりに、楽しげな表情を浮かべている。まさか、こうなることを予期していた? しかしそもそも、風紀委員に目をつけられるなんていう展開、どうしようもないことではないだろうか。

 

そんなことを考えていると、純が思案顔でぽつりと語り出す。

 

「部活承認……か。部活動っていうのは、定期的にないかしらの大会やらに参加しないといけない規定があったような気がするんだけど」

 

「そうでござるな。半年間なにも成果を残していないと、廃部警告を出されることになる」

 

「結果を出すっていうのは、文化祭なんかでもいいんだよね」

 

「文化祭で結果を出すというのは、なかなか難しいことでござるよ。出し物の表彰があるのでござるが、それで三位以内に入らないといけないでござるから」

 

「でも、不可能っていうことはないだろう。幸いなことに、この部活には優秀な人材がそろっているんだ」

 

富士山蓮が先輩にいう。

 

「……確かに、それはそうでござるが」

 

「俺はとりあえずそういう方向でいいと思うけどな。全力でやって潰れる部活なら、それまでだったっていうことだろう」

 

「むむ。まあ部長がそういうなら、せっしゃもそれに従うでござるよ」

 

「じゃあ当面の目標は、文化祭での表彰っていうことで」


そのまま下校時刻を迎えて、みんなで部室を出る。純は鍵を返しに、職員室へと向かった。先輩二人は、下足のほうに向かった。富士山蓮も下足に向かおうとする。わたしはその足を止めた。

 

「富士山くん」

 

「珍しいね。そっちから話しかけてくるなんて」

 

驚いたような顔をする彼。

 

そんな彼に、わたしはいう。

 

「もしかして、匿名の投稿を風紀委員に送りつけたのって、あなたじゃないの?」

 

すると彼はににこっとした笑顔を浮かべる。

 

「なんでそんなことを思ったんだい?」

 

「こんな展開になっているわりに、落ち着き過ぎていると、そう思ったから」

 

「なるほどねえ。うん、正解だよ。ぼくがあの投稿をしたんだ」

 

「なんでそんなことを」

 

「この結果をみてわからないかい? 彼女が入部したことによって、同好会から部活動へと昇格し、さらには高額な部費が支給されることが確定した」

 

「そのために、投稿したと?」

 

「さあ?」

 

「いったいなにをしようとしてるの?」

 

「ぼくはただ、小学生みたいに無邪気に、わいわい楽しくやれる部活を作りたいと、そう思っているだけさ。昔みたいにね」

 

「……?」

 

「別になにか悪いことをしようとしているっていうわけじゃあない」

 

「じゃあ、なにを?」

 

「だから、いっているじゃあないか。あのころみたいに、楽しい場所を作ろうとしているって」

 ――ぼくが壊してしまった大切な場所をね。

 

「え?」

 

「なんでもないよ。それじゃあ、帰ろうか」

 

「あ、うん」

 

彼がいったいなにを考えているのか。それを知ることはできなかった。

 

あのころみたいな……大切な場所。

 

彼のいうあのころがいつごろを指すのかは、わたしにはわからない。

 

でも、わたしの思っているあの頃を思い出すと、どうにも虚無的な気持ちになるんだ。やはり、なにかが欠落している。

 

そんな乾きを癒やすために、下足で待っている純のもとへと向かった。

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