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第10話 「……部活、承認」

そんななんやかんやがあったあとのこと。

 

風紀委員長は、この同好会を存続させた方がいいという進言をするために、職員室へと向かっていった。

 

「……それにしても佐奈はずいぶんと大胆なことをしたな」

 

「……? 大胆なことってなに?」

 

そうすっとぼけたように尋ねてくる佐奈。

 

「なにって、さっき井上風紀委員長を連れてきたことだよ。もし話がまずい方向に進んでいったら、どうするつもりだったのさ」

 

俺がそういうと佐奈は不思議そうな顔をする。

 

そして、上町先輩のほうをみやって、

 

「話してないんですか?」

 

言葉の意味を理解できず、二人を交互に見やる。

 

「実は、せっしゃが庄子を連れてくるように頼んだのでござるよ」

 

「は? 何の目的で……ってそんなのは決まり切っているか」

 

俺がそういうと、

「なかなか策士じゃないか。まさか、あれが全部自演だったとは」

 

富士山蓮が口を挟む。

 

「別に嘘をついているわけではないでござるよ。ただ、自分の本心を漏らすにしても、タイミングがいい方がいいかなーって思っただけのことでござる」

 

「なんてやつだ。っていうか佐奈はなんで協力したんだ?」

 

「だって、その方がいろいろといいじゃない…………ライバルも減るし」

 

「ライバルが減る?」

 

「聞き間違いじゃない?」

 

いまいち釈然としなかったが、まあ、これで一件落着といったところだろう。

 

そう安心していると、いきなり扉が開く。

 

「うあっ……な、なんだ。井上風紀委員長か」

 

毎回のことだが、神出鬼没過ぎる。もしかすると、いきなり登場しないと死んでしまうという呪いでもかかっているのもしれない。

 

「なんだとはなんだ。朗報があるぞ」

 

「朗報?」

 

「わたしがこの部に入部することが決定した。よって、創部に関する生徒会規約を満たすことになり、この同好会は、本日をもって部活動と認定される」

 

「………………はあ?」

 

急展開にそんな言葉を漏らすしかなかった。

 

そんな俺の反応とは対照的に、おもしろそうな表情をしている人物が一人。富士山蓮である。

 

「そりゃあおもしろい」

 

そういう彼の表情は、こうなることはもとよりわかっていたのだとといわんばかりだ。

 

「ちょ、なんでこの部活に?」

 

俺は困惑を隠すことができなかった。

 

風紀委員がこんなふざけた部活に入るなんて。

 

「それはもちろん、上町くんといちゃつくためだろう」

 

「なにを失礼なことをいっている。わたしは純粋におまえたちのためを思って入部してやったのだぞ。風紀委員長であるわたしが部活に入ることによって、風紀委員のチェックは実質フリーパスと化すことだろう。それに部活動として認定されれば、無条件で部費が支給されるじゃないか。一ヶ月に一万円というのは、なかなか大きいだろう」

 

「月に一万円!? こんな部活になんでそんなお金が」

 

文化部で一番の大所帯である軽音楽部と同じ支給額だ。

 

「創部した人間がこんな部活なんていういうもんじゃあないだろう。ま、わたしが入部したことによって、それなりの価値がある部活だと認められたのではないか?」

 

そういうメリットがあるというのは、まあ、どちらかといえば喜ばしいことなのかもしれない。お金も、ないよりはあるほうが絶対的にいいし。

 

しかし、

 

「…………風紀委員長がいるなんて、活動しにくすぎる」

 

思わずそう漏らすと、

 

「心配しなくても、わたしは普段、風紀委員としての職務を全うしなければならないのでな。部活動にそれほど関わるつもりもない。それに第一、受験を控えているのでな」

 

「それはせっしゃも同じでござるが」

 

上町先輩がそういうと、風紀委員長は苦笑する。

 

「おまえは別に問題ないだろう。ガリ勉のわたしには、時間が必要なのだよ。それじゃあ、失礼」

 

そして部室を出て行ってしまった。

 

「……部活、承認」

 

ん? ちょっと待てよ。部活動として認定されるっていうことは。

 

「部活動っていうのは、定期的になにかしらの大会やらに参加しないといけない規定があったような気がするんだけど」

 

「そうでござるな。半年間なにも成果を残していないと、廃部警告を出されることになる」

 

「…………俺たち、そんな具体的な大会に出場できるような活動はなにも行っていないぞ?」

 

「まあ、礼儀作法を身につけることを主軸においた部活動が、こんな優遇を受けているっていうのがすでにおかしいんだ。かといって潰れればいいとか、そんなことをぼくは思ったりしないけどね」

 

「確か、結果を出すっていうのは文化祭なんかでもいいんだよね?」

 

佐奈は確認するように言葉を漏らす。

 

「文化祭で結果を出すというのは、なかなか難しいことでござるよ。出し物の表彰があるのでござるが、それで三位以内に入らないといけないでござるから」

 

「なら、入ればいいじゃあないか」

 

富士山蓮がそういうと、

 

「そう簡単に言ってくれるなでござる。ここで表彰されれば、部費をアップするこができたり、生徒会から優遇してもらえたりと、いいことずくしなのでござる」

 

さすが先輩というべきだろうか。この学校に二年半近くも在籍しているだけあって、学校行事にも精通している。

 

「じゃあなおのこと表彰をめざさないとな」

 

俺がそういうと、

「だから、その分難しいのでござるよ」

 

先輩は話を聞いていたのか、こいつ、という目を向ける。むむ。

 

「でも、不可能っていうことはないだろう。幸いなことに、この部活には優秀な人材がそろっているんだ」

 

富士山蓮が俺の代わりに反論する(それは違うよ!)。

 

「……確かに、それはそうでござるが」

 

弾丸のような富士山蓮の発言に論破された先輩は、返事に窮する。はいダンガンロンパ完了。

 

「少数精鋭っていうことで、いいんじゃないかい?」

 

おいうちをかけるように富士山蓮はそういった。

 

「俺はとりあえずそういう方向でいいと思うけどな。全力でやって潰れる部活なら、それまでだったっていうことだろう」

 

「むむ。まあ、部長がそういうなら、せっしゃもそれに従うでござるよ」

 

「っていうことで、当面の目標は、文化祭での表彰っていうことで」

 

「おー」

 

なんだか青春っぽい展開になってきたが、そもそものモテるようになるっていう目標からは遠ざかっているような気もする。いや、文化祭なんて、モテるためにあるような場所ではないか。

 

「ま、なるようになればいいか」

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