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プロローグ(とあるイケメン視点の話)

プロローグ


(とあるイケメン視点の話)


まず最初に俺の話をすることにしよう。


身長は180センチに満たないものの179センチメートル。体重は65キログラムで、今風の細マッチョ。広背筋も発達しており、ひょろくもなく、ごつ過ぎるというほどでもない。


ルックスは、はっきりいってアイドル並(だと自分では思っている)。学業成績もそれなりに優秀だ。


中学校では部活動に励んでいて直前まで受験勉強をすることはできていなかったが、第一志望校に進学することができた。


そこでの学年順位は三十位以内と、なかなかの成績である。この調子なら国立大学に合格することもできるかもしれない。


スポーツもだいたいのことはできるのではないだろうか。


小学校の頃から、体操と水泳とサッカーをやっていたということもあり、どんな競技でも人並み以上にはできる。中学時代にやっていたソフトテニスでは市長杯で結果を残すこともできている。


要約すると、高身長のイケメンかつ高学歴のスポーツ万能男。


普通に考えて、こんなやつがいたらどうだろう。うらやましいと思わないか?


このステータスだけ聞いていたら、妬ましいとさえ思うことだろう。だって、どの分野に進むにしても、ポテンシャルを十分に持ち合わせているし、その合わせ技によっては、芸能界に進出したりすることもできるかもしれない。どう考えても輝かしい未来が待ち望んでいるだろうと、誰もがそう思うに違いない。


しかし、そんな俺には重大な欠陥がある。


生物としての、一番大切な能力が欠如している。


それは、致命的に女子からモテないということだ!!


なぜ!?


これだけいい男がいるっていうのに、なぜ誰も声をかけないのだ!


小学校では運動のできるやつがモテる。これは経験則や統計学的な見地からみてもまず間違いのないことだろう。だからその当時、俺は徹底的に運動をすることにした。


もともとそんなにたいしたことのなかった身体能力は向上し、そこそこ運動のできるやつというポジションを獲得することができた。


しかし、モテない。


やはり、そこそこではだめだったのだ。そこそこ運動ができるというアドバンテージ単体では、女子を惹きつけることはできなかったのだろう。


しかたがない。


小学校でモテることはあきらめることにしよう。そう思った俺は、中学に向けての傾向と対策を練った。


中学でモテるために必要なのは、なんだろうか。その年頃の女子というのは、だんだんと打算的になってくる。しかし、彼女らも、社会的なステータスを求めるまでには至らない。彼女らが求めているのはなんだろうか。


そう、顔だ。


さらに加えるとすれば性格。性格と顔のいい彼氏を持っていることによって、周囲の女子にマウンティングすることができる。だから俺は、性格と容姿を磨くことにした。


といっても、もともと俺は性格も容姿もいい方だった(こんなことを考えているやつが良い性格を持ち合わせているとはいえないかもしれんが)。


だから、それをクリアすること自体は簡単だった。また、運動をしている男子がモテるという傾向も続いていることを察知していた俺は、テニス部に入部することにした。そして、市町杯で結果を出せるぐらいにはなっていた。


運動もでき、顔も性格も良い。


しかし……いや、いわなくてもわかるだろう?


なぜかモテないのだ。


いったいなにが原因なのか、理解に苦しんだ。


いったいなにが足りていないというんだ。そして自分に足りていないものを考えることにした。


そのヒントは思わぬことろで得ることができた。


俺と同様に、モテない人間というのは、当然のようにいる。中学時代の友人、ここは仮にガリ勉めがねとでもいっておこうか。そいつもモテないやつだった。いや、俺が勝手にそう思っていただけだったのだが。


ある放課後のこと。


夕焼けが差し込む教室で、あの彼が女子生徒と一緒に勉強をしているではないか。教えるためなのか、その距離は近い。思わず眼球が飛び出るぐらいにまぶたを広げてガン見してしまった。目玉ぽーん。


目玉が飛び出た拍子に、俺は悟った。


俺に足りていないもの。この完璧な俺に足りていない唯一のもの、それは学力だ。


部活にかまけているばっかりで、勉強をろくにしてこなかった俺は、成績が悪い。中間テストや期末テストではいつも平均点を下回っている。


きっとこれだ。


これが俺がモテない原因、諸悪の根源なのだ!


そう思った俺は、徹底的に勉強をすることにした。


部活を引退したことによって生まれた時間を勉強にひたすらつぎ込んだ。その結果、成績は爆発的に急上昇。直前の模試で第一志望校のA判定をとるに至った。


その高校は、ぎりぎり進学校というレベルの学校だが、人気度が非常に高かった。確かに公立高校の割に文化祭などのクオリティーが高く、生徒もハイレベルな人たちが多かった。いい噂も聞いていたため、迷わずにそこを第一志望にしたのだ。


そして、その学校へ入学することに成功した。


合格の報告をしたときには、担任の先生はたいそうよろこんでくれた。よく頑張ったなと、周りの友達も祝ってくれた。


中には呪ってくるやつもいたが。そう、あのガリ勉めがね野郎のことである。ざまあ。


俺がその学校を目指した理由は単純明快。そこに入学すればモテるという情報を信じたからだ。モテるという希望、それに向けてひたすら勉強したのだ。いい加減にモテてくれてもいいだろう。


しかし。


圧倒的にモテない。


圧倒的に。むしろ女の子がどんどん遠ざかっていってしまう。あまつさえ俺の周りでなにかひそひそ話を始めるレベル。ざわざわ……ざわざわ……。


そう、モテるという分野に限っていえば俺は圧倒的敗者。


何が起こっているのか、理解することができなかった。いったい俺は、なんのためにがんばってきたというのだ。


もう、いっそ魔法使いでも目指そうか。まさしく魔法少女、俺(錯乱)。そんな現実逃避を始めてしまうほどに、俺の精神はすり切れそうになっていた。


しかし、あきらめるわけにはいかなかった。あきらめたらそこで試合終了なのだ。


高校に入れば、大学受験を目標にする人間が増える。そうなると必然的に、勉強ができるやつの需要というのは高まるのだ。


また中学の時と違って、文化部に所属しているやつでも、その部活の種類によってはモテたりもするのだ。軽音楽部などの、比較的チャラい人間が存在しているところならば。そう思った俺は軽音楽部に入部した。三ヶ月でやめたけどな。


がんばればモテる。あきらめなければいつかモテる。人間三度はモテ期がくるっていうんだから、高校ぐらいできてもおかしくない! 


だからモテる!


そんな幻想を抱いて、高校生活でも、いままでのように、努力をした。


モテない。


理解に苦しむ(再)。


きっと、俺にはそういうイベントに遭遇しない呪いのようなものがかけられているのだろう。


いやなぜ!?!? 一体俺が女の子になにをしたっていうんだ! はっ……もしや俺の前世での死因は文春砲(兵器)かっ……!?


なんて不毛なことを考えていると、そのうちハゲができそうだ。不毛だけに。


俺にできることといえば、さらなる邁進のみだ。


しかし、こうも挫折が続いていると、だんだんと自信がなくなってくる。そして、癒やしを求めて、甘い妄想を繰り広げてしまう。


もし俺に、ちょっとアプローチをかけただけで付き合ってくれるちょろい幼なじみがいたら、と。エロゲーの主人公がうらやましくて仕方がない。


ちなみに、俺にはずっと付き合いのある幼なじみがいる。俺が小学校一年生のときに隣の家に引っ越して以来の付き合いだ。


今でも仲はいい。


だけど恋愛対象としてはだめだ。


彼女はモテすぎている。


入学からわずか一ヶ月で、彼女の存在による混乱を避けるための自治組織ができてしまうほどだ。その名を【密かなる親衛隊】という。


要するにただのストーカー集団だ。


といっても直接的になにかをしているわけではない。ただひたすらあがめ奉るだけ。いっそ宗教的といえるかもしれない。


そんな彼女が、今でも俺にかまってくれているということを感謝するべきなのかもしれない。


俺はそんな彼女に密やかな恋心を抱いていたりする。


しかし、もし手を出そうものなら、全校男子生徒からふるぼっこに遭ってしまうことだろう。手を出すっていっても、別に変な意味ではない。告白するとか、そういう行動を起こすっていう意味だ。


なぜ告白しただけで、ふるぼっこに合わなければならないのか。それは、彼女にそういう感情を抱いていない男子生徒なんて、いないから。


だから、密かなる親衛隊を筆頭に、彼女には手を出さないという協定を結んでいるというわけだ。


「まあ、俺はラッキーなんだろう」


そんなモテている彼女が、自分にこれほどの時間を割いてくれている。たまには一緒に登校したりすることもある。もっとも、家が隣なのだから、同じ学校に通っていれば必然的に出くわすこともあるわけで。


「なにが?」


俺のつぶやきを聞いた彼女が、ふいに俺に問いかける。いきなりの出現におもわず挙動不審になってしまう。


「お、おおう。おはよう」


俺がそういうと彼女も挨拶を返してくれる。


今日も彼女の笑顔がまぶしい。閃光力五十三万。単位はルクスだ。ちなみにそれがどれぐらいまぶしいのかというと、真夏の太陽五個分ぐらい。


そんな神々しく光り輝いている彼女と、あたりさわりのない言葉を交わしながら、学校へと向かった。

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