もふもふ好きの暑がりな先輩
夏の星座が輝く夜に、先輩は旅立った。
いつだって、僕を待たない。
追いついたと思っても、すぐに遠くへ行ってしまう。
○
「告白するなら、最後のチャンスだよ」
そんな文句に誘い出されて、僕は、ロードバイクで峠を目指した。スクーターを走らせる先輩と、何度となく訪れた、夜景のきれいな場所だった。
夏が苦手な先輩が、北海道にある大学を受験するのは知っていた。
もふもふの大型犬と戯れるのが、大好きなことも。
ありきたりな日常に、退屈を感じていたことも。
どこか寒い地方に、旅行でもするのだろうか?
それとも受験を待たずして、移住してしまうのだろうか?
僕の想像力は、あまりにも貧弱だった。
峠で待ちかまえていたものを見ただけで、僕の受け皿は限界を超えていた。先輩の、してやったりの顔に、僕は深々と溜め息をついて、吐く息が白くなるほどに、冷えこんでいることに気づいた。
「なにをどうしたらこういう状況になるのかは知りませんが……先輩のことが好きです、といったら、行かないでくれますか?」
横座りに乗っている先輩が、例えば、大型バイクの、知らない男の背中にあったなら、僕はもっと、みじめな気分を味わっていて、ちゃんと失恋ができたのかもしれない。
「また、会えますか?」
「いい子にしてたら、また会えるかもね」
僕はまだ、先輩をあきらめることができないでいる。
○
夏の星座がきれいな夜に、先輩は旅立った。
天翔ける、トナカイにのって。