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C×T  作者: フィーバー
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04話:小さき少女そこにあり

 バタンっと、勢いよくドアの開けた音と共に小さな――、いやとても小さな黒い影がなだれ込むようにして九条の視界に入り込んできた。


「……!?」


 脱出を諦めた囚人の如く壁に背を当て、天井を仰ぎ見ていた九条はビクリと体を反応させて鉄格子へと駆け寄る。その際、九条の足もとで眠りについていた子猫は反動によって起こされてしまい、不機嫌そうな鳴き声を九条に向けて発していた。


「誰か来たのか……?」


 ひんやりと冷たい鉄の棒を両手で持ち、音のあった方へと視線を投げる。予想通り……とは言い難いものの人はきちんとそこにいた。

 場違いにも程があるといったよう、小人のように小さな体をした少女が一人。地面に倒れ込んだまま鉄格子越しに驚いたような面持でこちらを見上げていたのである。


(なっ何なんだ一体。 今度は女の子のお出ましか……。それにしても、)


 その格好はまずいだろ。お父さんが子供の格好を注意するかのように九条はそう思う。というのもその少女、倒れ込んだためかは分からないが身に纏っているバスローブが見事に胸元辺りで肌蹴ているのである。それに加えお風呂上がりなのか、頬は妙に紅潮させていて妙な色っぽさを九条の目の前で自然と漂わせていた。別段変な趣味を持ち合わせていない九条であってもそれを目前としたらやはり、どことなく恥ずかしさを覚えてしまい、顔が熱くなるのが感じられるのだった。


「おっ、おい。取り合えずそのバスローブを何とかしろよ。こっちは恥ずかしくて目も当てられん」


 座り込む少女から目を逸らしつつ、俺は見ていないから早くっ。と、心の中で付け加えそう言った。


「×◇○+!? ……○△」

「!?。ええっと……」


 目を背けていた九条は弾かれたように座りこむ少女へと視線を再び戻してしまう。あまりにも聞きなれない言語が耳元に届いてきたので、単に驚いてしまったのであった。そしてまた露わとなった白い肌を目にすると九条はわざとらしく視線をそらす。


(外国人っぽいのは見た目からして分かってたんだけど……。英語、フランス語、それに発音的にもスペイン語ではないなぁ)


 選択肢を絞るように頭の中でそう思う。日頃『教養とは身に付くものでなく、身に付けるものだっ』と、勤勉にも勉学に励んでいた九条は英語に関してはともかく、その他の言語に関しても興味本位で手を出していたのだった。もちろん話すほどには他の言語を勉強していないのだが、これは何語であれは何語、と識別くらいはできるつもりなのである。


 しかしともあれ、九条の知る言語でないとわかったとしても現状は変わらず、意味が分からないのもそのままであって、


「あのさ。取り合えずここを出してほしんだけど……ってかここどこ? 牢屋っぽい感じだけど」

「!?。……×◎+◇」

「ええっとさ……」

 

 九条はジェスチャーによって「ここを出してくれ」と、必死にそう体を使って表現する。どこか哀れな民族ダンスのようにも見てとれたがこの際緊急を要するので良しとする。お腹も減ってきたし、場所も場所。それに勉強だってしなければならないので、こんな所で暇を食っている場合ではないのである。からして九条のするジェスチャーは至って真面目なものだった。一見すれば滑稽さも感じられるのだが……。


 そんな九条の真剣さが功を制してか、九条のする一挙一動を一瞬たりとも見逃さないといった感じで見つめていた少女は、何やら納得したように手をパンッと叩く。そして「◎×◇!!」と、顔を輝かせて九条の縋る鉄格子へと近づいてきた。


 しかし、九条の予想とは反して施錠されている鍵の方へと手を伸ばすわけではなく、鉄格子越しに九条の頭ら辺に小さな手をもっていく。


「あのさ、そこじゃなくて……、こっちなんだけど」

 

 こっちこっちと鍵の辺りを右手で指さす。しかし少女はそもそも鍵を開けるつもりなどなかったのか、邪魔をしないでくれと言わんばかりの鋭い目つきを九条に送った。意外にも小心者である九条は、年下にも見える少女にその険悪な視線だけで圧倒されてしまう。鍵の辺りを必死に指していた九条の右手は、力を失ったようにふらふらと元の位置に戻っていく。それとは反対に少女の九条の頭へと翳す両手は、次第に力が込められてきているようだった。細い腕がぷるぷると震えている。


「……×〇×◇!」


 先ほどとは違い、何やら真剣な面持ちで少女は一言九条の額に手を翳しながら言い放つ。すると、少女の掌の辺りを中心に淡く青白い光が広がっていって、暗い牢屋内を眩く照らしていった。


「どうなのだろう……」

「……!?」

「……やはり対動物言語解析では効かぬのか?」


 訝しげな表情をする少女はあたかも今まで日本語で話していたように流暢な言葉使いで疑問形を口にする。眩しさの余り目を強く瞑っていた九条はそれを聞くなり瞬間の反応を見せた。しかし体が反応しようも頭が付いていけてないらしく、九条はやや恐る恐るといった感じで、


「日本語……しゃべれるのか? お前」


 鉄格子を邪魔に思いつつ、そう尋ねた。すると少女はパッと顔を輝かせ、恰も偉業を成したかのように薄い胸を張って「愉快なのだ」と、日本語を使って笑みを零す。


「まさか対動物魔術が人間に通じようものとはな……使い勝手のいいものだ」

「ホントに日本語を……」


 一体どうやって?お前は何者なんだ?と、浮かんでくる疑問を対処できずに九条は頭を捻る。そして思い切って尋ねてみようと思った時にはもう遅かった。どうやら目前に立つ九条の事なんて忘却の彼方に忘れてきてしまったかのように、その少女はじっと牢屋の地面へと視線を投げかけている。


「あやつめ……移転式魔方陣とは凝った事を。何重にも貼っていた結界がまるで意味をなさんとな」

「……?」


 少女の見やる先――即ち自らの背後を見やると、何やら紋章のようなもの薄く光を帯びて浮かび上がっている。九条は(RPGとかのあれか?)と、半ば信じられないような目つきでそれを見やっていたが、シュンとした音と共に消え去ってしまった。

 後ろを見れば小さくしゃがみ込んだ少女が詰まんなそうに膝に肘をつき片手をその紋章へと向けている。どうやら紋章の消えてしまった原因はこの少女にあるようである。


(手品……とかでもないし。さっきから意味の分からないことの連続だ)


 取り合えずてっとり早くこの少女に聞いてみよう。そう思い経ったら早く、九条は少女に合わせてしゃがみ込み、


「ここさ……どこなんだ? 一体。ただの牢屋じゃないって事は分かったけど」

「ああ……まだいたのかそち。もう良いぞ。最初は何者かと思ったが……大体の見当は付いた。捕まえる気はせんし……早くあやつの所へ戻るとよいぞ」


 紋章へと向けていた手をそのまま鍵の方へと向けてボソリ、小さく少女は呟いた。するとガシャリ。何やら施錠の外れたような音がする。


「ええっと……俺は何を?」

「ん? そち、出ていっても良いと私が言っているのだ。恩恵を感じ、さっさとこの国から立ち去ることだな」

「……?」


 少女が言い終わると同時に九条の右手の方で金属の擦れる嫌な音を立て、ドアが開く。


(立ち去れって……、俺が?)


  へ?と、九条は頭を捻る。それと同時にしゃがみ込む少女、そして唖然とした表情で牢屋内に立ち尽くす九条。その両方の腹の虫が仲良く牢屋内にて鳴り響いた。


「いや、……決して空腹のためにというわけではなくだな」

「腹減った〜」


 疑問の解決など何よりも、まずはこの拭えぬ空腹をまずはどうにかしたいと九条は思う。それは少女も同じようであって徐に立ち上がり「太らん位に夜食を」と、呟き出口へと向かって行ってしまった。


「おいっ。俺にも夜食をっ……少しでいいからっ!」


 九条はとっさの判断で右にあるドアから思い切って飛び出してみる。そして「待ってくれよ」先を歩く少女にそう呼びかけ、素早く後を追いかけていった。


 

 



 


 




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