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不条理なる管理人  作者: 古井雅
第十四章 厄災の母体
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悪手

 前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)

 なんと、本来であれば今週月曜日の22日に更新されるはずだった部分が先程本日公開とされていたことに気づき、恥ずかしさと苦笑が同時に出てきました。大変申し訳ございませんが、このまま設定どおりに公開され、この部分を22時に公開することにしました。今後このようなことがないように確認を怠らないようにします(´・ω・`)

 次回の更新は、本当に来週月曜日29日20時となっております。今まさに確認したので大丈夫です……。


 ケイティは、扉を蹴り破った次には、深々とため息を付き、若干怒りすらも感じているような素振りで言う。


「ミラ様、ルネ様、なにか有益の情報を得ることはできましたか?」

「とても有益な情報はありましたが……、そちらは、あまり良くないんですね?」


 その仕草により、すぐにミラはミラー家側の「あまり良くない状況」を悟ることになる。実際のところ、今後の動向についてはミラー家、というよりもその総統であるアルベルトの行動がかなり鍵になる。これら一連のトラブルに終止符を打つ一手になる可能性もあれば、最悪のバッドエンドを引き起こす悪手になる可能性もある。

 おまけに、その分岐ルートにおいて、バッドエンドルートに足をかけているというのが現状であろう。


 それを十分に理解していたケイティは、大きく首肯しながら続けた。


「えぇ、状況は最悪です。どうやら、このまま事が運べば、私の想定の中では最悪のものになりそうですね」

「お月様まで吹っ飛ぶのは勘弁してもらいたい話ですね」

「このままじゃルイーザは衛星に取って代わるでしょうね」


 ケイティはそう口火を切り、アルベルトとの会話の内容を話して、現状がどれほど厄介であるかを2人に伝える。

 それを聞いたミラは、深くため息をついて悪態をつく。


「こういう厄介な時には、無駄に頭が回るところが嫌なんですよね、あの人」

「それは同感です。無駄に勘が優れているというのは、厄介事を運んでくるものです」

「2人共、上司に対する愚痴はいいから、別の手段を考えようよ……」


 ルネが2人に対してそう言うと、ミラは一つ思いついたように笑う。

「それがいい。まぁ、手段はまだ幾らでもあるさ」

「ミラ様、なにか妙案がおありのようで?」

「幾つかあるが……、最速となるのは俺が最もしたくないものです」

「と、いうと?」


 ここまで来て、ルネもその方法を思いついたようで、手を叩いて言う。


「ここは、僕の名前の出番だね?」

「お前がその気なら、話は早そうだな」

「どういうことですか?」

 当然の反応を示したケイティに対して、ミラは「エノクδ、名前程度は聞いたことがあるでしょう」と尋ねる。


 すると、ケイティは目を丸くしながら、ミラー家に伝わっているエノクについての情報を話し出す。


「エノクδ……あの、リユニオンでの事件を起こしたと言われている?」

「端的に言えばそういう話です。アルベルトは、どこまでそのことを?」

「当該事件を起こしたことは……ただ、その後の所在は、ミラー家の範疇から離れたので、正体についても不明です」

「その名前を利用しましょう。私は、エノクδの名前を使って交渉する、それが得策でしょう。それに、交渉の材料はこれ以外にもありますし」

「でも、そんなハッタリ、危険では?」

 あくまでも冗談として受け止めているケイティだったが、即座にルネが反論する。


「ケイティさん、実は、僕がそのエノクδなんだ。母体としての力しかないけど……」

「ルネ、そこまでは言わなくても良かったのに」


 苦言を呈したミラに対して、ルネは大きく首を振る。


「ケイティさんなら、他言はしないと思うし、もし、ミラが考えている方針で進むなら、最悪魔天コミュニティとかち合う可能性だってあるんでしょう? それなら、少なくともケイティさんとの情報共有はそれなりの確度が必要になる。そうでしょう?」

「まぁ、お前が判断したならいいがな」


 ルネとミラの会話に対して、すっかり置いてけぼりを食らったケイティは、驚いた調子で情報を整理する。


「……ちょっと待ってください。ということは、ルネさんが、エノクδであり、ミラ様は、そのコントロールにより隔離された人物である、ということですか?」

「なんだ、そこまでは知ってるんですね。それなら話は早い。俺はリユニオンにより、エノクδのコントロールが唯一できる人物としてともに生活していました。まぁ、今になってもどうしてそうなったかはわかりませんがね」

「なるほど、ルネさんの不思議な点は、エノクδだったからなんですね。勿論、このことは墓場まで持っていきましょう。プランを教えてください」

「ミラ、僕も君のプランを解釈しただけだ。話してほしい」


 2人がそう求めると、ミラは「その前に」と2人を制しながら電話でどこかに連絡を始める。


 電話先はアイザックの携帯電話だった。これは、自らの仮設を検証するために、魔天コミュニティにいるであろうアイザックに電話をかけたのだ。勿論、その結果は単調で「お掛けになった電話番号は、現在電波の届かないところにあるか、電源が切られています」というお決まりのフレーズが聞こえてくる。

 それを2人に見せつけると、ミラは嘲るように笑い、「こういうことだな」と告げる。


「さて、俺のプランを語るには、①魔天コミュニティとルイーザは電子的な通信ができない、②魔天コミュニティでもルイーザでもトラブルが起きている、ということが前提だ。これは、言い換えれば、少なくとも現在パールマンらは方舟の起爆はできないこと、そしてそれは魔天コミュニティ側で、ノアたちが起こしたトラブルに起因していること、だ」

「つまり、交渉のタイミングは今である、ということだね?」

「そういう話だ。俺たちが悪党になり、交渉をする。アルベルトとな」


 ミラの話を聞いたケイティは、相づちを打ちながら自分の両腕に手錠をかけるような動きをして、「こういうことですね?」と尋ねる。


「そういうことです。ケイティさん、俺たちと行動していることはアルベルトには、ほとんど通っていないんですね?」

「想定外の情報提供者がいない限り、ですがね」

「十分でしょう。ここまで遊ばれたまま、放置するのは私の本意ではないですしね」

「具体的に、どのように行動するのです?」

「簡単です。ケイティさんはいわば、人質になって私やルネとともにアルベルトとの交渉の場に立ち会うだけです。そして、私はそこで、魔天コミュニティへの取引も含めて言及します。あとは、口裏を合わせてもらえるだけでノープロブレムです。不安要素はルネだけです」

 すると、流れ弾を食らったルネは露骨に慌てたような調子でミラに尋ねる。


「……僕は、何をすればいいのかな?」

「お前は俺の横で、ぬいぐるみにでもなってればいい。だが、時々臨機応変な対応が必要であることは間違いないし、場数を踏んでないお前には少々荷が重い」

「そんな状況でよくぬいぐるみになれって言うね」

「できる限りこっちでフォローするとして、できる限りシリアスなキャラでいてくれよ?」

「僕にシリアスを要求するって正気?」

「だからシリアルで行けっていう話だよ。そこは頑張れ」

「丸投げ……って」


 ルネが不安げに、しかし呆れ顔で呟いた言葉を遮り、ミラはケイティに対して「それでは行きましょうか」と話しかけ、それに対してケイティも了承した。


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