表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不条理なる管理人  作者: 古井雅
第十四章 厄災の母体
95/169

責任者

 前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)

 サブタイトルの「責任者」は2つの意味でつけていますが、どうにも予期せぬ意味が入ってしまいそうな偶然に少し笑ってしまいます。

 次回の更新は今週月曜日19日20時となっています! 次回もご覧になっていただければ更に幸せです(*´∀`*)


 大量に並んでいる金庫を壊し続けている間、ルネは薄く広がっていくような記憶の片鱗を自覚する。

 分身たちが屠っていった人間の声や形質が心の中を軋ませていく。確かに、ルネは何もしなかったのかもしれない。そして、被害者であることは確かだ。

 それでも、ルネは自分のした罪は消えないと心に刻んでいて、この資料室への微かな印象がそれを証明しているようだった。


 かなりブルーな気分に襲われたルネだったが、残った資料の中で有用なものをどんどん調べていく。心なしか、普段よりもかなり速い動作で、サクサクと資料をチェックしていく。



 一方のミラも、異常な速さで資料をチェックしているルネの異変に気づきつつ、一旦は無視してこっちも資料を確認していく。

 左側に残っている資料の殆どは魔天に関する研究資料であるが、所々に巨大水爆である方舟に関する資料が出てきた。しかし、それらの資料の殆どが、専門家にしかわからない設計図のようなもので、恐らくこれは爆弾を解体する者にしかわからないであろう。とりあえずは、資料一つ一つを写真に映していき、共有しやすいフォーマットにしていく。



 ミラが資料の半分を見終えたところだった。

 金庫の中でも一際頑丈な鍵がつけられているものがあり、それでいて少し豪華に見える。美しい装飾がなされたその南京錠を、ミラは少し申し訳なさそうにぶち壊すと、そこにあったのは何かの鍵と、その合鍵と何かの指示がなされたような手紙が残されていた。


 その手紙の送り主は「パールマン」であり、リユニオンの施設長に当てられたものであった。

 手紙の内容は、指示書のようなもののようで、この鍵をここに保管しできる限りバレないようにするとのことだった。そして、この鍵が方舟という水爆のハッチの鍵であることも書かれている。


 方舟は、大きなコンテナの中に本体が存在し、ミラたちが見たものはそのコンテナの外観であったようだ。その内部に入るための鍵のようであるが、どうしてこの鍵をここに安置する必要があったのかは不明である。

 鍵の意味合いについてはわからないが、結構なヒントであることを噛み砕き、ミラはルネ側の金庫を調べ始める。



「なにかわかったの?」


 ミラがルネと並んで鍵を壊し始めると、ルネは疑問に感じたようにそう尋ねる。

 それに対して、ミラは「カビの生えたような鍵くらいだな」と口火を切る。


「どいつもこいつも、爆弾解除に役立ちそうなものはない。というより、専門家に頼むことができないのが難しいところだ。こいつは、本当にアルベルトと一緒に交渉人ごっこをする必要があるかもしれないな」

「痛快な皮肉だね。ぜひともやめていただきたい限りだ」

「あぁそうだな。デキの悪い経営者と共倒れするのは遠慮したい。それで、そっちは何か有益な情報はあったか?」


 積極的に有益な情報を探している風に見えるルネにそう尋ねると、ルネは黙ったままとある資料を渡してくる。

 ルネが黙ったまま他の行動をしているということは、「集中しているから話しかけるな」

ということであり、それに従ってミラは資料を読み取っていく。


 その資料の内容に、ミラは驚愕させられる。

 なにせ、その資料の中身は、方舟が完成された直後に、「責任者」という概念を水爆に組み込んだ、とのことだった。

 この「責任者」は、方舟のコンテナ内にある端末から操作することができ、最短かつ安全に方舟の中にある核物質を取り出すことができるシステムである。責任者は任意タイミングで爆発させることもでき、尚且責任者以外の端末操作を拒否することができるというものだった。

 つまり、責任者として設定された人物が、方舟の起爆及び解除のすべての行動に干渉し、場合によってはそれを回避することができるということである。


 この情報は最悪である。なにせ、この責任者システムは、コンテナ外にある端末を操作する「責任者以外の者」による解除をすべて無効にされることと同義である。

 こうなれば、端末操作以外の手段で起爆装置を解除し、そして核物質を無効化しなければならず、必然的に専門的な技術及び知識が必要になる。


 この状況で、それをすることができないことに鑑みれば、即ちそれは詰みとなる。そして、恐ろしいことにこの責任者はもちろんの事「パールマン」に設定されている。おまけに、責任者としての認証を受けるには、虹彩、声紋、指紋認証それぞれをクリアーすること、又はそれらの電子データが入力されたトークンが必要になる。そして、このトークンは一個のストレージにおいて一回しか使うことができない。


 つまり、これらはかなり厄介な状態に追い込まれたことになる。これは方舟の主導権を完全にパールマンに握られたことになる上、ここまで綿密に方舟を作成したということは、責任者として解除する以外の手段を拒否されていると考えるのが妥当である。

 そのため、方舟を解除する手段は必然的に「責任者権限として」以外では不可能になってしまうのだ。


 しかし、この情報以上にルネが疑問を感じたのは、この資料がこの場所にある、ということだった。

 そもそも、この資料がここに存在している意味が見当もつかない。リユニオンは概要としては「生物研究所」であり、方舟のプロトタイプが秘密裏に作成されていたが、ここで作成されたのはあくまでもプロトタイプであり、本物の方舟は旧ザイフシェフト地下にて作成されているはずだ。

 つまりはこのリユニオンという組織は、あくまでも「隠れ蓑」である。その隠れ蓑に重要な情報があるということは致命的である。その事に気がついたミラは、ルネに尋ねる。



「ルネ、集中している最中悪いが、少しいいか?」

「大丈夫、こっちも終わったから」

「これ以外に、有用な情報は?」

「ないね。保存状態が最悪で、読めないもののほうが多い」

「……この資料は?」


 ミラの質問に対して、ルネは首を縦に振りながら、「一番良好だね」と返す。

 恐らくはルネも、この情報の異質さに気づいていた。


「この鍵と、この資料、どうしてここにあると思う?」

「意図的、だろうね」

「それは俺にもわかるが、理由はなんだ? 相手にとっては相当リスキーなことだぞ?」

「僕も思ったよ。プロトタイプをここで作ってたっていうことは、明らかにここはブラフであるはずだ。そこに大切な情報を隠すなんて到底思えない。この情報そのものが嘘であるか、もしくは意図的にこれをおいたかのどっちかだと思う。真偽については今はわからないけど、メリットとかを考えると、真であると考えるほうが適切じゃないかな」

「今の所わからないが、一旦戻ってこれを検証しよう」

「そうだね。その鍵が使えるのかわからないしね」


 ルネは、少しだけ苦しそうな顔でそういった。

 状況的にかなりナーバスになっているのは一目瞭然であり、恐らくあまり突っ込んだことを質問するのは得策ではなさそうだ。

 それでも、ミラは婉曲的にどのように思っているのかを尋ねる。


「ルネ、大丈夫か?」

「……ちょっと、感傷に浸っていた。ここで、僕は沢山殺したんだなって思って」

「殺したのはお前じゃないがな」

「僕はさ、一応は種族的にはダウンフォールっていう括りに入ってるけどさ、もう何年も人間社会で生きてきたから、人が人を殺す意味もよくわかっていると思う。そして、親が子どもにどういう責任が有るのかもよくわかっている。分身たちは僕の子どもみたいなものだからさ、僕の殺人でもあるんだよ。それが、僕の解釈だ」


 思いつめたようなルネの言葉に、ミラは優しく彼の肩を抱いて答え、ゆっくりと自らの見解を述べる。


「なぁルネ、俺はさ、お前の親でもあり、恋人であり、夫婦であり、ついでに親友でもあると思う。お前のことは、世界の誰よりもわかっているつもりだ。なんだって、受け入れる自信もある。だがな、お前のその思いつめる性格だけは寛容に受け止めれない。そして、お前がお前を否定するのなら、俺はお前のことを全力で肯定する。だから、お前は積極的に自分を否定していいんだよ。俺がその分、お前の価値を保証してやる」

「ミラ……」

「思いっきり、否定していいんさ、その分誰かに肯定されればな」

「……だから、全力でぶつかっていいの?」

「そういうことだ」


 自信満々にミラがそう言うと、ルネは何かを吹っ切ったように、「また波が来るかも」と言いながら、ひっそりとミラの脇腹を小突いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ